第11話「モルモットは入学する」
学園についてから二晩明け、今日は入学日だ。今日の所有権は、学園に来た日と同じようにリダンにある。正直、リダンが初日からやらかすんじゃないかと少し心配だ。
(今日から学園だな。緊張してないか?)
(貴様は何様のつもりだ?俺がこんなことで緊張などするわけないだろう)
(まあそうだよな。それにしても、時間ギリギリすぎないか?)
現在の時刻は8時50分。集合時間は9時と知らされている。校舎までどれくらいかかるのかはわからないが、流石にギリギリすぎる。なんなら校舎が遠ければ遅刻しそうだ。
(待つのが嫌なだけだ。それに、雑魚どもの視線も鬱陶しいからな)
(まあ確かに、今までのことを考慮するとリダンがいるだけで視線を集めそうだ)
リダンも慣れているとはいえ、長時間痛い感情に刺されるのはごめんということだろう。オレも当然それは嫌だ。
リダンはそのまま寮を出て校舎へと向かう。5分ほどで校舎に着くと、入口では受付と思われる人間が立っていた。
「今年入学の生徒ですか?」
「そうだ」
「時間ギリギリですよ。出身はどの国ですか?」
「シュトラール王国だ」
「シュトラール王国の生徒はこの教室です。机に自分の名前が書いてあるのでそこに座って待っていてください」
場所を確認し、リダンは特に急ぐこともなく歩き出す。校舎自体は一階建てだったし、教室はすぐそこだ。急がなくても間に合うだろう。
すぐに教室にたどり着き、リダンは教室の後ろ側の扉を開ける。中に入ると数人の生徒がこちらを振り向いたが、刺さってくる感情はそこまで多くはなかった。全員がリダンを知っているというわけでもないらしい。
まあ、顔と名前が一致していないだけで、リダン・ブラックヘローの悪名は知っているかもしれない。あまり楽観するべきではないな。それに、今知らないとしてもすぐに知られることになる気がする。
振り向いた人間の中には見知った顔もいた。イヴやナディア、それとリダンの兄のルフトとその従者のカノンだ。イヴは軽く頭を下げて礼をしながら微笑んでおり、ナディアの方はこちらに対して敵意剥き出しといった感じだ。ルフトはこちらを一瞥してすぐに視線を戻した。
教室には3行5列で15個の机が並んでおり、リダンの位置から見て一番左奥の席だけが空いていた。教室全体から見ると一番左後ろの席だ。そこには、リダン・ブラックヘローと書かれている。
リダンは誰に視線を向けるでもなくそのまま席に着く。それからしばらく待つと、教室中に鐘の音が鳴り響いた。初めて聞いたが、これが学校で鳴るというチャイムというやつか?
チャイムが鳴り響いてすぐに、教室の前方の扉が開かれる。入ってきたのは20代くらいの見た目のしっかりした印象の女だった。だが、この女は見た目通りの年齢ではない可能性が高い。
オレがそう思ったのは女の耳の形状がリダン達とは異なっていたからだ。女の耳は尖った形状になっていてリダン達よりも長い。ここ数日の勉強で知ったことだが、この特徴を持つ者をロイヤ族と呼ぶらしい。
この種族は20代から30代くらいの見た目で変化がほとんどなくなるらしいから、もしかしたら100歳を超えている可能性すらある。
「やあやあ、みんなおはよう。私はこのクラス、シュトラールブルーの担任のミール・アーケディアだよ。これから1年間キミたちの面倒をみることになってるからよろしくー」
ミールと名乗った女は、しっかりした第一印象に似合わない、なかなかに軽い性格のようだ。オレがそう思っていると、リダンの右斜め前方、1行3列の位置にいた生徒が立ち上がった。
「ミール先生。色々とご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、1年間よろしくお願いします」
「ええっと、キミは確か第3王子のジーク・シュトラール君だっけ?よろしくねー。それと、そんなに畏まらなくても大丈夫だから。もっとフランクに接してくれると先生は嬉しいなー」
「いえ。ありがたいですが、教えを請う立場として先生には敬意を持って接したいと思っています」
「そうー?なら仕方ないか。他のみんなはもっとフランクにしてくれていいからね?」
ジークと呼ばれた男はどうやら真面目な性格をしているようだ。まあ、王族だしそういうものなのかもな。一瞬それで片づけようとしたが、すぐに考えを改める。そういえば、そうじゃない王族を一昨日みたばかりだった。
とにかく、ジークという人間はかなり真面目で爽やかといった印象だ。こういうのをなんていうんだったか。確か小説では爽やかイケメンとか言われてた気がする。確かにそんな言葉が似合う気がするな。
「それじゃあ、私の自己紹介はここまでにしてさっそく本題に入るね」
一呼吸置き、ミールは話を進める。
「まずはみんな、アストラム学園にようこそ。最初にこの学園について簡単に説明するね。みんなにはここで1年間、マナや魔法に関することを中心に色々なことを学んでもらうよ。割合としては、マナや魔法に関することが7割、それ以外が3割って感じかな。あと、マナや魔法に関する授業は半分くらい演習をすることになってるから。それと1ヵ月に1回、毎月末には通常の授業とは別に、特別演習っていうものを受けてもらうことになるよ。みんなには、エルトシャン様が見出した魔法の才能があるから、どんどん伸びてくれることを期待してるからねー」
なるほど。リダンがいっていた才能のある人間が集められるというのは、マナが多い人間ということだったのか。
「学園は基本的に平日の9時から18時まで、それ以外の時間はみんなの自由にしていいからね。あ、でも、学園の外には勝手に出ちゃだめだよ。出るときはちゃんと許可をとってね」
つまり、基本的には学園の中で過ごすことになるわけか。まあ、ここにいるのは貴族の子供たちもいるからな。勝手にいなくなられて何かあれば、責任を追及されるのは学園側だ。そういうルールは必要か。
「じゃあ基本的な説明はこんなところにするね。詳しいことはこれに書いてあるから、後でちゃんと読んでおいてねー」
そういって、ミールは持ってきていた少し小さめの冊子を配り始める。冊子が全員に行き届いたのを確認してから、話を続ける。
「ここからは、今後キミたちが何をするのかについて説明するね。今から説明するのはこれから1ヵ月について。みんなには今月末の特別演習として、シュトラールブルー、キスキルレッド、トリスカーナイエローの3クラス対抗で三つ巴の模擬戦をしてもらうよ。これは毎年恒例で、それぞれのクラスの実力を見るためにやってるんだ」
模擬戦か。普通に戦うだけの模擬戦であれば、リダンに勝てる人間はいないだろうが、他の生徒がどの程度の実力を持っているのかは気になるところだ。
「この模擬戦はそれぞれのクラスから5人の代表者を出してもらって、実際の戦場を想定したフィールドで戦ってもらうよ。どう戦うかはキミたちの自由。誰を代表者にするかも自由だし、戦略を練ってみんなで協力して戦うのも、個人で好き勝手に戦うのも自由。その辺はこれからみんなで相談して決めてね」
なるほど、団体戦か。戦術面にはあまり詳しくないが、何か強い戦略があればリダンがやられることもあるかもしれないな。あまり想像はできないが。なかなかに面白そうだ。
「ちなみに、いきなりこんなこと言われても困るだろうから、まずは2日後に前哨戦をする予定だよ。この前哨戦は各クラスから代表者3人を出して、シンプルなフィールドで1対1の勝ち抜き戦をしてもらうよ。この前哨戦で各クラスの戦力図を見極めて、月末の特別演習の参考にしてもらう感じかな。ちなみに、この前哨戦は成績には影響しないから安心してね」
この前哨戦はリダンには余裕だろうな。というか、当たり前にリダンが出る前提で考えていたが、月末の本戦にしろ2日後の前哨戦にしろ、リダンが代表者に選ばれない可能性もあるか。実力的には圧倒的だろうが、なにしろ人望がない。信用できない人間を代表者に選ぶのは抵抗があるだろう。
そもそも、リダンがどう考えているのかもわからない。魔物狩りをしていたことを考えると、戦うのは割と好きそうな気もするが魔物と戦うのと対人戦はまた別だしな。
「これで説明は大体終わりだけど、何か質問はあるかな?」
ここまで説明して、ミールはまた一呼吸置いた。ここまで結構なスピードで色々と説明されたからな、付いてこれていない生徒もいるかもしれない。
ミールからの問いかけにすかさず手を上げる者がいた。ジークだ。
「はい!ジーク君。なんでも聞いてね」
「はい。前哨戦は成績には影響しないということでしたが、月末の本戦は成績に影響するということでしょうか?また、その成績とは卒業時に選ばれるという最優秀者の選定に影響するものなのでしょうか?」
「ジーク君は最優秀者の選定について知ってるんだね。もしかして、お兄さんから聞いたのかな?とりあえず、質問の答えは両方ともイエスだよ。本戦はキミたちの成績に影響するし、最優秀者の選定にも影響するよ」
「わかりました。ありがとうございます」
ジークはそういって礼をして席に座り直す。
オレはそのやり取りに疑問を覚える。最優秀者というのはなんなのだろう。それに、成績はそんなに重要なものなのだろうか。未だにこの学園のルールについてはわからないところも多い。
「もう少し後で説明するつもりだったけど、せっかくだから成績と最優秀者についても今説明しちゃうね。この学園では、毎年卒業者の中から二人、最優秀者を選んでるんだ。ちなみに、最優秀者が二人の理由は、学園側から一人、生徒側から一人ずつ指名して最優秀者を決めるからだね。学園から選ばれる最優秀者は、授業や特別演習の成績が一番良かった人、生徒側から選ばれる最優秀者は生徒全員の投票によって選ばれることになるよ」
つまりは、その最優秀者になることを最大の目標として学園で頑張れということか。しかし、最優秀者になることのメリットはなんなのだろう。
そう考えていると、それに答えるかのようにミールは話を続ける。
「この最優秀者になると、卒業時にエルトシャン様からご褒美が貰えるんだ。このご褒美っていうのはすごいよ。何しろ、エルトシャン様が与えられる物ならなんでも貰えるんだから。例えば、財産だったり、領地だったり、地位だったり、知識だったり、とにかくなんでも。だからみんな、最優秀者になるために頑張ってねー」
なるほど、それならば確かにすごいご褒美だ。この数日で知ったが、エルトシャンというのは相当に権威のある人物らしい。そんな人物が与えられる物ならなんでもというならば、大抵のものは手に入るだろう。
「でも、最優秀者になるために他の人を蹴落とすなんてしちゃダメだからねー?もしもそういうことがあったとわかったらそれ相応の処罰を与えることになるからそのつもりでね。生徒同士は清く正しく競い合ってほしいな。それと、卒業する際にはクラス対抗の卒業試験を受けてもらうんだけど、その試験で勝ったクラスメイト全員に、最優秀者とは別のご褒美が与えられるから、クラスメイト同士は絶対に仲良くしないとダメだよ?」
ここまで説明されて、なんとなくこの学園の理念が分かってきた。とにかく才能のある子供たちを集めて協力させたり競い合わせたりして、互いに高め合ってほしいのだろう。
「成績と最優秀者についてはこんなところかな。他に質問はある?...なさそうだから説明を続けるね。とりあえずみんなが具体的に何をするかについてだけど、これから前哨戦までの2日間は、授業や演習なんかはなしで、前哨戦の準備をしてもらうことになるよ。メンバーを決めたり、作戦を考えたりね。前哨戦の準備に関しては私は関与しないから、どんな準備をするかはクラスのみんなで話し合って決めてね。どんな風に時間を使っても基本的には自由だから、みんな有効に時間を使うんだよ。クラスで色々と話し合いをして、メンバーが決まったら、2日後の午前9時までにこの紙に記入して、私に渡しに来てね。これはとりあえずジーク君に渡しておくから」
そう言ってミールは持ってきていた荷物の中から1枚の紙を取り出し、一番近くにいたジークに手渡した。
「それと前哨戦の準備は基本的に何をしても自由って言ったけど、他クラスへの攻撃は禁止だよ。隠れて偵察したり、暴力行為なんて絶対ダメだからねー?」
ここまで話しミールは少し間を置く。どうやら、話に一段落ついたみたいだ。
「さてと、とりあえず今日の説明はこれで以上かな。この後はクラスのみんなで話し合って色々決めてね。場所はこの教室か、ここから出て左にある、各クラスに1つ用意された専用の訓練場を使うといいよ。最後に何か質問はあるかなー?」
ミールが全体を見回しながらそう問いかける。しばらくして質問がないことを確認するとミールは再び口を開く。
「じゃあ今日はこれで解散になります。明日はどうするのかはみんなの自由だけど、出席をとるから9時には一度教室に集まってね。それじゃあまた明日ねー」
そうしてミールは教室を出て行った。意外とあっさりしているな。
ミールが教室を出て行ってすぐに、ジークが席を立ち少し前に出た。
「みんな、先生の言っていたようにこれから2日後の前哨戦の代表者を決めていくわけだけど、この中には初対面の人達も多くいると思う。だからまずは自己紹介から始めたいと思うんだけど、どうかな?」
この提案に、クラス内からは賛成の声がちらほらと聞こえ始める。
自己紹介か。リダンにはある意味、学園での最初の試練になるかもしれないな。本人は全く気にしないような気もするが。
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