第101話「絶望の腹黒少女」
翌々日の朝、いつもよりも30分ほど早く家を出る準備を済ませたオレは、ポータブルでエリスに連絡をとった。
ポータブルが繋がると、こちらが話し始めるより先に向こうの声が聞こえてくる。
『リダン君?そっちから連絡くれるのなんて初めてだからびっくりしたよー。どうしたの?あ、もしかしてデートのお誘いだったり?』
「まあそんなものだ」
『え!?嘘っ、ホントに?』
「貴様に重要な話がある。今日の放課後時間はあるか?」
『もちろん!...って言いたいところなんだけど、実は今日の放課後は予定があるんだよね...。別の日じゃあダメかな?明日とか』
「悪いが、可能ならば今日中に要件を済ませたい。先約があるのならその後でも構わないぞ」
実際には今日である絶対的な理由はないのだが、出来るだけ早い方が都合がいいためここはそう言っておく。
『あ、そうなの?...でも、たぶん9時とか10時くらいになっちゃうよ?』
「多少遅くなる分には構わん。先約が終わり次第オレの部屋に来られるか?」
『うん、それは大丈夫だけど...リダン君の部屋に入ってもいいの?前は部屋を見るのもダメだったのに』
「問題ない、別に見られて困る物も無いからな。以前に追い出したのは、単に貴様が煩わしかっただけだ」
『それって、今はそうじゃないってこと?』
「違う。勝手な解釈をするな」
『えぇー!?違うのー!?最近リダン君ずっと優しいし、少しは距離が縮まったかなって思ってたのに』
「オレが貴様に気を許すわけがないだろう」
エリスについて色々と知ったことで多少印象は変わったが、それでもエリスが厄介な相手であることに変わりはない。
『いつもの事だけど、直接そういう風に言われると傷つくなぁ』
「そんなことは知らん。とにかく今日の放課後、先約が終わったらオレの部屋に来い。話はそれだけだ」
それだけ一方的に言い放ち、オレはポータブルの通信を切った。
今日オレがこんな連絡を取ったのは、エリスとの関係に一定の決着をつけるためだ。
フィフスとかいう集団が動いている今の状況は、これまで手を焼かされてきたエリスを対処するタイミングとして都合がいい。
フィフスに困っている様子のエリスに手を差し伸べれば関係を改善するきっかけになるかもしれないし、仮に何か問題が発生してしまったとしても、今ならば全てをフィフスのせいにすることができる。先日手に入れたエリスについての情報を色々と考え、オレはそういう結論に至った。
とは言え、どういう決着になるのかはオレもまだ読み切れていない。
その結末は、エリス自身の選択に委ねられることになるだろう。
ただ、エリス・ミューラーがどのような考えをして、どんな感情からどんな結末を選んだとしても、その過程はオレが人間の感情を知る上での1つのテストケースとなってくれるはずだ。
*
夜9時過ぎ。
部屋がノックされ、オレはそのまま玄関に向かい扉を開ける。そこにはいつものように笑顔を向けてくるエリスの姿があった。
「やっほーリダン君。来たよー」
エリスは無邪気にこちらに片手を上げている。
オレはそんなエリスに気付かれない程度に周囲を観察した。
「上がってくれ」
特に人の気配がないことを確認したオレは、エリスを部屋に入るように促す。
「お邪魔しまーす!...へぇーここがリダン君の部屋かぁ。なんかドキドキするなー」
エリスは興味深そうに部屋の中を見回している。それが何か意図のあるものなのか、単なる好奇心なのかは分からない。
オレはそんなエリスに気付かれないように、とある魔法を発動した。
「あんまり物を置いてないんだねー。何か飾ったりしたいなーとか思わないの?」
「思わん。必要性を感じないからな」
リダンの部屋には嗜好品や娯楽品の類はほとんどおいておらず、生活に必要な家具類などを除けば、教材や小説といった本やオレが研究で使う器具くらいしか置いていない。
「へぇーそっか。まあそういうのは人それぞれだよね」
エリスはそう言いながら、まだ部屋の中を見回している。
「そんなにオレの部屋が気になるか?」
「それはそうだよー。リダン君が普段どんな風に過ごしてるのかなーって色々知りたいもん」
「そうか、ならば後で好きなだけ見ればいい。だが今は貴様を呼んだ用件を先に話したい」
「あ、そういえば大事な話があるんだったね」
「とりあえずそこに座ってくれるか」
「うん、わかった」
エリスはオレに言われるままに椅子に腰かける。
オレはそれを見届けてから、互いの顔が良く見える対面の場所に、立ったまま位置取った。
「話というのは、ちょっとした相談事だ」
「相談?」
「実は厄介事に巻き込まれていてな。フィフスという連中を知っているか?」
「フィフス...って確か、闇属性の人を恨んでる人達だっけ?」
フィフスの名前を出しても、エリスが動揺している様子はない。
「ああ。オレは今、そいつらに命を狙われている」
「え、それって大丈夫...なの?...リダン君にもしものことがあったらって思うと...心配だよ」
エリスはこの事実を知っているはずだが、あたかも初めて知ったかのような態度を見せる。
よくもまあ思ってもいない言葉がスラスラとでてくるものだ。
「雑魚共が仕掛けてきたところで大した脅威ではない」
「そっか。流石リダン君、凄い自信だね」
今の発言は自信がどうこうというよりも、単なる事実を言っただけだ。
どんな人間がどれだけの数で攻めてこようと、それはオレの脅威にはなり得ない。
完全な不意を突かれたなら話は多少変わるが、マナによる攻撃をオレが感知できないわけはないし、そもそもリダンに敵意を持った時点で天啓がその存在を教えてくれるから、それは結局ありえない話。
「...でも、なんでそんな話をあたしにするの?相談って言ってたけど、あたしにはその人たちをどうすることもできないよ?」
表情からは読み取れない緊張がエリスから感じられる。
今この状況をエリスは相当に警戒しているようだ。リダンからフィフスの名前が出た時点で、自分とフィフスの関係がバレている可能性が少なからず頭をよぎっている。
エリスは、オレがこの話題を出した真意を知りたくて仕方がないのだろう。
そんなエリスに対して、オレは用意しておいた建前の言葉を返す。
「万が一のことを考えて、できれば敵の情報は集めておきたいからな。そこで貴様に目を付けた」
「どういうこと?」
「貴様は多彩な人間関係からくる独自の情報網を持っているだろう?フィフスのことについても何か知らないかと思ったわけだ」
「あーそっか、そういうことかぁ。...でも残念だけど、あたしはそのフィフスって人達の事は何にも知らないかな。ごめんね、できればリダン君の力になりたいんだけど...」
エリスは平然とした顔で白を切ってきた。
当然だが、フィフスと自分の関係を話してくれるつもりはないらしい。
「本当に何も知らないと言うんだな?良く思い出せ」
オレはそう言って、エリスを少しだけ威圧した。
体を刺す痛みが少しだけ増す。
「う、うん。何も知らないよ」
「そうか。ならば質問を変えよう」
エリスがそのつもりなら、オレにも手札はある。
「実はとある筋から、シュトラールブルーにフィフスの関係者が潜んでいるという情報を聞いた。どうやら、敵は意外と身近にいたらしい」
これまで動揺を見せなかったエリスの表情に、オレにも認識できるレベルの緊張が表れた。
「貴様はオレの敵か?」
オレは射抜くようにエリスの瞳を見つめる。オレは全て知っていると、そう訴えかける。
体を刺す痛みがまたしても増す。
「え、やだなーリダン君。もしかしてあたしを疑ってるの?そんなわけないじゃーん。大体、その情報って本当なの?クラスにそんな人がいるなんて思えないけどなぁ」
既にエリスからはいつもの明るい雰囲気が失われており、声も少しだけ震えている。
だがエリスはそれを隠そうとしているのか、気丈に振る舞う。
「信憑性は高い。何よりも、オレ自身がそいつの存在を確信している」
「だとしても、それはあたしじゃないよ?フィフスって人達の話だって、さっき初めて聞いたんだもん」
「どうだかな。その割には、少しばかり焦っているように見えるが?」
「それはだって...リダン君がとんでもないことを言うから、びっくりしちゃって」
「では、貴様はオレの敵ではないと、そう言い切れるのか?」
「当たり前だよ」
「そうか」
オレは闇の第5位魔法『ダークバインド』を発動し、それをエリスに見せつける。
「え...?リダン君、なに...するつもり...?」
「貴様が何も話すつもりがないのなら、強引に吐かせるしかないだろう」
オレの足下から発生した紫色の鞭のようなものをエリスに近づけた。当然、オレの体は更なる痛みに包まれる。
「冗談...だよね...?」
「そう見えるか?」
オレはダークバインドをエリスの腕に触れさせる。
それとほぼ同時に、身の危険を察知したエリスが椅子から立ち上がって一目散に玄関に向かった。
だが、玄関の扉はぴくりとも動かない。
「誰か!誰か助けて!」
エリスは扉を叩きながら必死に叫び、助けを求める。しかし、その声が部屋の外に届くことはない。
それを悟ったエリスは、今度はポータブルを起動しようとする。
だが、エリスがいくらマナを流そうと、ポータブルがそれに応えてくれることはなかった。
「嘘...なんで...」
できる抵抗を全て終えたエリスがこちらに振り向く。
膨れ上がった強烈な感情を、オレの体に教えてくれる。
いつも笑顔の仮面に包まれたエリスの顔は、恐怖と絶望に染まりきっていた
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