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6話

「とりあえず、役所に行こう」

「役所?」

「なんかそこに行けば仕事の斡旋をしてもらえるらしい。このままじゃ俺たち無一文で野宿だ」

「そういえば来たばっかりでお金なんかも持ってなかったわね」


システム干渉で変更できるのはスキル、そして身体能力のみで、物を生み出したりは出来ない。出来たとしても庶民が持てる金額しか手に入らないだろうが。だが、0は色々とまずい。この辺の取っ掛かりが毎回苦労するが、高めの身体能力と何かしらのスキルでだいたいなんとかなる。


「じゃああっちで難民登録してくださいね、仕事は一旦ランダムに振り分けるのでしばらく暮らして変えたければまた言ってください」


大通りをしばらく進んで更に大きな道路と交差する交差点の角のビルが役所になっていた。

ここに着くまでにもツッコミたい部分は山ほどあったが一度置いておく。

中に入ると総合受付があり、そこで事情を説明すると身分証明もなにもいらず俺たちはこの街の住人となった。


「なんていうか、身元とか確認しないんですか?」

「今は人を募集しているから、それに一度住めば誰もこの街を出ようと思わないから、トラブルを起こそうなんて人はめったにいないわよ」

「誰も? さすがにそれは言い過ぎでは」

「あなたもいずれわかるわ、サラディ様の作った素晴らしい街の魅力が。名前を教えてもらえるかしら」

「名前はケ……」


そこで一度考える。

転生者がいるんだ、出来れば向こうが接触したくなる名前にしたい。


「俺がハンゾウ=ハットリで、こいつがシキブ=ムラサキだ」

「変わった名前ね、どこから来たの? ああ、答えたくなければ別にいいのよ、答えなくても住めないとかじゃないから」


焦ったように無理に返答はいらないと言い返す受付のお姉さん。


「南の方の小さな部族の出身なんだ、不作でどうしても人減らさなきゃならなくて俺とシキブが出ていくことになった」


とっさの嘘としてはよく出来ていたと思う。

だが、そんなことしなくても探りを入れているという雰囲気でもないため無理に答えなくても良かったかもしれない。

それ以上に気になったのは、むしろそれによって俺たちがこのままこの街に住まないほうが困る、といったお姉さんの焦りだった。

普通難民を受け入れるのは領主からすれば面倒なはずだ。

言えないなら受け入れない、それぐらいのスタンスであっても良いぐらいというかそれが普通だ。

それ故、その反応にケイトは違和感を覚えた。


名前だけ言うとアパートと仕事場の住所を書いた紙、そしてカードサイズの身分証を渡された。

紙はコピー紙のようなA4サイズの真っ白なもの、カードは素材的にはプラスチックみたいだった。

もちろんどちらも中世の世界に存在はしない。


「そのカードはなくさないでね、それがないとアパートの出入りとか買い物とか出来ないから」


更に詳しくきくと、これがなかなか良くできたシステムだった。

住民の身分証明のみならず、銀行口座のキャッシュカード、買い物した際の電子決済カード、アパートのカードキーの全て兼ね備えた、

この街の全ての機能にアクセスするための電子キーのようなものらしい。

色々な規格が乱立する日本より良く出来たシステムで、これだけはむしろ真似してほしいとケイトは思った。



その後いくつかカードの使い方の説明を受け(と言ってもこれらを使ったことのあるケイトたちには不要なものだったが)

本当にあっさりとした手続きで、カード一枚もらっただけで俺たちは役所を後にした。


「あっさりだったね」


ずっとケイトの後ろにしがみついてまごまごするだけだったシノブ氏ことエリナは、手にしたカードをまじまじと見つめている。


「だが、いくつか分かったことがある。と言っても推測混じりだが」

「分かったこと?」

「まず、サラディはここに現代都市を建造しようとしている。そして、そのために大量の人を集めている」

「ふむふむ」

「以上だ」

「え? それだけ? 何も分かってないじゃない!」


期待に肩透かしを食らったエリナはケイトの背中を叩きながら非難する。


「まあ落ち着けそれだけでも見えてくることがある。つまり、この街とそこに集まった人々を使ってサラディは何かを行おうとしている。それこそがこの世界の歪みそのものなんじゃないか、ってことだ」

「どういうこと?」

「よくよく考えてみろ? これだけの街をわざわざ目的もなく作るか? しかも大量の人を巻き込んで、だ。世界観までぶち壊してまで効率重視の街を作ったのはおそらく人が必要だったからだ。単位面積当たりの人口はこういったビルがないことには増やせない。とすると色々見えてこないか?」

「大勢の人が必要なこと……か。わかった! お祭りね! きっとすごく大きなお祭りをしたいのよ!」

「んなわけあるかぁ!」


人多い=お祭りという単純思考のエリナにケイトは思わず語気を荒げてツッコんだ。

一番必要なのはこいつの頭の修復なのではないかという、世界以上の命題に気づいてしまったケイトは世界修復のプランとともにエリナの修復という新たなタスクに頭を抱えるのであった。

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