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10話

「そう言えば」


 ケイトは朝飯を食べながら自分の仮説をエリナにぶつけてみることにした。

 曲がりなりにもこの世界においてはこのニート(エリナ)のほうが詳しいはず。


 中身のないビル、消えるビニール袋、街の中だけを走るバス。


「つまり、この街は魔力で作られた物質としては存在しないまやかしのような都市で、おそらくだが外敵から身を守るための城塞都市みたいなものなんじゃないか」


 検証不足のぶっ飛んだ仮説だと思う。

 だがある程度までは的を射てるのではないかと思っている。

 城塞都市、といったのは、戦火から逃れてきたマリアたちを見て思いついたことだ。

 当たっているかはわからないが、それであればこんな都市を建設する意味みたいなものも見えてくるのではないかと思った。


「すごーい、ほぼ当たりだよ。でもケイト、すっかり目的なんて忘れてると思ってたよ。コンビニ命みたいに休まず働いてたし」

「命じゃねえよ、お前がいるから俺が働かないと生きて行けなかったんじゃねえか!」


 こんな神経すり減らしながら生活を支えてきた大黒柱になんてことを。


「? だって何もしなくても給料入るよ?」

「は? なんでだよ、一日働いてATMでようやく給料もらえるんじゃねえか」

「あーそのあたり気づいてなかったのか(笑)」


 なにもしていないくせに、してやったりみたいな笑顔で若干アオリ目にこっちを見てくるエリナにガン飛ばしながらケイトは続きを促した。


「これ、何だと思う?」


 そう言ってエリナはIDカード、つまりキャッシュカード兼住民票的なものを掲げた。


「魔力で出来たIDカードなりキャッシュカードなりじゃないのか?」

「違うよ、このカードだけは街から持ち出しても消えなかったの覚えていないの?」


 おそらくビニール袋の実験のことを言っているのだろう。

 そう言えばあの時俺は確かにこのカードを持っていたはずだ、とケイトは思い出した。

 だが確かにそのカードは今もここにある。


「これは魔術の媒介に使われる魔吸石を精錬してできているようでね、エタニティラバーでも結構なレアアイテムなんだけど、ライザックルートに入って探索パートで魔吸石あつめて、共同研究の後ようやく最後の1年で実用化されて、魔王との最終決戦において有利になるレアアイテム魔導ジェネレーターの材料なんだけど……」

「ちょっとまってくれ、情報が渋滞しすぎている。一旦必要な部分だけくれ」


 おそらくあのペースだと30分は口も挟めないだろう。


「つまり、これを持ち歩くと1日かけて魔力をこのカードに貯めるの。私達平民は魔法は使えないけど、それは体内に魔力を排出するための機構がないからで、魔力自体は存在するんだよ」

「それで?」

「ATMでカードに溜まった魔力を現金に変えてるの。つまり私達この街の住人の義務はこれを常に身につけてちゃんとATMでこの街を動かす魔力を提供すること。その間は何をしてても自由だよ」

「それは、働いていなくてもか?」

「うん!」


 満面の笑顔で元気にエリナが返事をする。


「うがあああああああああああ!」


 ケイトは声にならない悲鳴を上げながら、エリナのほっぺたを両手でつまみ、ストレスを発散するように上下に伸び縮みさせる。


「いたい、いたいよー!」


 驚愕の事実を唐突に告げたエリナに俺は許そうという感情は全く湧いてこなかった。


「するってーと何か、俺が給料だと思っていたものはベーシックインカム的な誰でももらえるもので、俺はボランティアであくせく心を壊しながら汗を流していたのか……?」

「まあひりゃたく言ふとそふいふこほらね(平たく言うとそういうことだね)」


 自分の努力が完全に無駄だったと悟ったケイトは、エリナを話すと電池が切れたように眠りについた。


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