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鉄塔のアエネイス  作者: 民間人。
1900年
79/361

‐‐1900年終幕、次代への総括‐‐

 困窮と失業は、歴史を悪い方向へと向ける力になってきた。頼る者が少なかった時代、人々は特に、この問題に対して、「死か略奪か」で解決を図ろうと足掻いてきた。

 疫病は歴史のターニングポイントとなった。ペストが近代への足掛かりとなり、貧困と戦争が人道化を目指すきっかけとなった。

 そして、それらの危機は何度も繰り返され、歴史は繰り返されてきた。


 既存の価値観、勢力均衡を独裁者が破った時、人々はそれを大いに警戒し否定したが、その口で彼らは既存の権力のことも否定した。

 新たな政府が生まれるたびに、それはやはり繰り返され、次の時代の糧となった。


 さて、繰り返しの言葉によって総括されたこれは、歴史の断片に過ぎない。僅かな一文字に行間として詰め込まれた人々の暮らしは数知れない。そして、際立った幾つかの偉業によって、歴史は語り継がれることになる。

 この仮想の世界にある歴史の断片も、それをなぞることになるだろう。次の一年は、深刻化した戦争の様子を描くことになる。歴史を強者が語ってきた反省を踏まえ、本著では、弱者を織り交ぜながら、壮絶で悲惨な戦争の様子を俯瞰していくことにしよう。僅かな一年の間に、多くの人々が命を落とした事例は実に現実的である。

 私は本著における空想について、娯楽としての意味を敢えて与えるつもりはない。これは虚構ではある。しかし、創作した世界の現実であることは疑いないだろう。


 状況を簡単にまとめてみたい。カペル王国では、ついに本格化した戦争によって、彼らが数年前には予想もできなかった激しい轟音が齎された。エストーラは目敏く主戦場となることを避けることに徹したが、その代償として彼らにとって歴史的にも政治的にも意味を持った絵画が、焼却される憂き目に遭った。


 プロアニアでは、宰相アムンゼン・イスカリオの指導の下で、回復した経済力と軍事転用可能な国営企業の開発によって、カペル王国への攻撃態勢が盤石のものとなった。

 彼らが次に解決した課題は、人々が戦争を志向する土台づくりである。おおよそ組まれた骨組みに肉付けするように、カペル王国とエストーラの野蛮なブロック経済と、食糧危機に対する非協力的な態度を取り上げ、技術的な祖国の先進性を主張することによって、国民の士気を底上げしたのである。


 一方、苦しい立場に置かれたのはムスコール大公国も同様であった。経済破綻の傷跡が残る中で、この国ではいかに戦争を避け、マンパワーを導入せずに平和の使者を演じるのかについて、世論が対立した。一つは、最新の兵器でいずれかの陣営を沈黙させ、和平へと向かうというもの、一つは、プロアニアと完全に袂を分かち、侵略に一定の歯止めをかけようとするもの、一つは完全に自分たちの問題だけに焦点を当てて、戦争のことをひとまず無視するものである。この混沌とした世論の状況に対して、宰相がとった選択は、「ひとまず様子を見る」という立場であった。意志薄弱にも思える立場だが、彼は世論の非難が八方塞がりの状況であることを踏まえて、あえて結論を出さないことを選んだのである。


 さて、完全に硬直したエストーラ対プロアニアの東部戦線、激しい戦闘が続くカペル王国対プロアニアの西部戦線、両戦線の展開については、次年の物語で語ることにしよう。

 多少読みにくいところもあるかもしれないが、こうした簡単な解説も踏まえながら、戦争の展開について描写していく。改めて述べるが、本著は、私の拙い文章に目を瞑る必要があることに加え、娯楽としての小説の属性を完全に継承できていない。この点について、私の力不足を嘆く気持ちはあるものの、書き進めないという選択肢もまた躊躇われるのである。


 では、総括はここまでとしよう。物語はより悲惨の色を帯びていく。もし、拙い文章を読み進める寛大な心をお持ちであれば、是非、次の頁を捲って欲しい。貴方が望むようにはならないかもしれないが、それは、私が望むようにもならないことで、どうか相殺してほしい。


主な出来事

  

  ヴィロングにおいてカペル・プロアニア両軍が衝突(ヴィロングの戦い)

  シュッツモート山道近郊において、プロアニア、エストーラ両軍が衝突(シュッツモートの戦い)

  プロアニア『退廃芸術展』の開催

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