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鉄塔のアエネイス  作者: 民間人。
1909年
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‐‐1909年夏の第二月第四週、アーカテニア王国、マドラ・スパニョーラ‐‐

 神慮めでたく。


 王は法王の傀儡なれば、法王は何の傀儡か。問わずとも自ずと答は見出されましょう。法の王とは。この世の法とは神の御言葉に他なりません。その法の内にある王とは。即ち、神の傀儡に他なりません。

 今生では32年、魂生では凡そ200年、神の御言葉の内を渡り歩きましたが、いやはや、この国こそ。アーカテニアこそは真に神の教の国。その無慈悲なること、その敬虔なること深く、王、法王、即ち法の王による統治、地上にあって神の法による統治の為される国なのであります。


 それ故に神の御恵み深く、誠に海のさざめく様は地上にあって、当世にあって異なる法、彼岸の法にまみえるが如く。サン・ヨシルデの大修道院にあって、これ程の恵み深さを垣間見れることは、まさしく至上の幸福と言えましょう。


 さて。時代は1909年。当世に神意が降り立って後より一千年(ちとせ)九百(くひゃく)の年、このめでたき年に、神は誠に御恵み深く、私に至上の悦びを齎して下さるのでした。


 エストーラ帝国の観光相、フッサレル卿に働きかけ、プロアニア王国の海軍相、エーリッチ・シュミット、世に珍しき実直で、愚かで美しい精神を持つ真の騎士なる御仁と、ウネッザ解放の計を謀りました。

 やがてウネッザはエストーラに返還され、エストーラからアーカテニア王国に一本の道が開かれるでしょう。

 それは二本の線で、アーカテニアからナルボヌへの道を作るということ。即ち、王妃の生家とアーカテニアが契りを結ぶということ。カペル王国の内部に燻るものを、我が国が育む機会を得るということです。


 ですが、神の法を守るアーカテニアでなければ、神もその御恵みを与えて下さらぬでしょう。海のさざめきを偏に抱く我が国から、富がカペル王国へ流れたとしても、カペル王国に生まれるのは地獄です。憎悪と報復に焼け爛れる地獄。


 地獄!なんと甘美な響き!地の牢獄とは、逃れられぬ牢とは!人々は喚き、苦しみ、報復に燃え、阿鼻叫喚が響き渡る。赤い焔が空気を求めて喚く如き、魂の揺らぎ!なんと甘美な響き!

 神は私に至上の幸福を齎して下さる。異端審問による苦悶の表情、あの美しい容顔が苦痛に歪む甘美な表情。それが当世に至っては戦乱、狂乱、報復!何と、何と言う恵み深さ!神の法の作り給わりし人の法の美しさ!神よ、貴方は何処まで与えて下さるのか!


 続々とウネッザより良い報せが届いております。軍部のうち、海軍が目覚め始めているという報せです。正義ほど、正義ほど人を傷つけ苦しめるものが他にありましょうか?その恵み深さ、他にどこに見られましょうか?


 アーカテニアにはその準備があるのです。カペル王国の姫君に、最高の富。プロアニア王国やカペル王国で狂乱の時代が訪れるその準備があるのです。ただ私一人の快楽のために、世界中の正義が『悪を討つ』。嗚呼、何という、何という神意の恵み深さ!神よ、私は貴方の隷として、幾千年も命を捧げましょう!


 さて。どうやら私共のことを見知る何者かがおられるようです。私や、私でない魂の揺らぎを、語り部として知る何者かがおられるようです。そちらの方々。貴方達ですよ。そう。今私の御心を見ておられる貴方達。何故にこちらを覗いておられるのか全く理解致しかねますが。いや、貴方達も私と同じく、こうした趣向がお好きなのですかね。


 どうにせよ私共に干渉できない貴方達。まさか私を止めようとなどはなさらないでしょうね。貴方達は私に与えて下さらなかったでしょう。こうした快楽の隅々に至るまで、何一つと許さず、私から取り上げられた。その業の深さ、悪辣さ。人の最も美しい瞬間を隠された、罪深い貴方達にも、福音を届けようではありませんか。くれぐれも、その邪魔はなさらぬように。


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