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鉄塔のアエネイス  作者: 民間人。
1903年
163/361

‐‐1903年、夏の第一月第四週、プロアニア、ケヒルシュタイン‐‐

 ケヒルシュタインのハンザラントワーゲン社には、奇怪な兵器が多数並べられていた。楽しそうに兵器の解説をするコンスタンツェに対し、フリッツは眩暈を起こしながら行儀よく席についていた。


 曰く、その兵器は戦車の代用として作ったものであるとか、曰く、爆薬を積んだ兵器を敵陣に突撃させるなど、全く荒唐無稽な説明が続く。コンスタンツェはそれらを嬉々として語りながら、一方で、アムンゼンからの「必要か否か」の質問に対しては全て「不要です」とにこやかに答えた。


 工廠と化した同社の生産ラインでは、今でも盛んに初期型の戦車が量産されている。一日に八台は組みあがる計算であり、昼過ぎの心地よい睡魔を誘う現時点では、三台が組み立てられている。


 アムンゼンはボビン型の兵器をまじまじと見つめる。車輪を動かすための火筒は強固に結合されている。


「まぁ、こんなお遊びは良いんですよ。次はフリッツ閣下もお気に召すと思いますよ」


 コンスタンツェは手を叩く。技術開発室の最奥地から、慎重に運ばれてきたのは、一見すると何の変哲もない巨大な爆弾であった。


 縦長の躯体に風の抵抗を防ぐための簡易な装置が取り付けられた爆弾は、コンスタンツェがこれまでに紹介した兵器と比べると、真新しいものは見られない。アムンゼンは爆弾を注意深く観察し、コンスタンツェに視線を戻す。不服そうにも見える無表情に対して、彼は指を振って答えた。


「ただの爆弾ではありません。内部には大量の小型爆弾が搭載されており、空中で炸裂させることで、周囲にこれをまき散らすのです」


「空中で?」


 アムンゼンの視線は自然とフリッツに向かう。


「そうです、飛行船から落とすのですよ」


 コンスタンツェは新型爆弾の前で左右に往復しながら、機器として話し続ける。


「これまで、私達が開発してきた兵器は、塹壕を破壊する兵器、都市の市壁を破壊して突破する兵器でした。そこに、カペル王国から飛行船がやってきました。これを改良して飛行船を開発して下さったのが、フリッツ閣下だったわけですが、ただ目標を破壊するには、これまでの兵器は威力に集中しすぎていました。ですが、カペル王国の建造物に対して、その威力は過剰でした。ならば、過剰な威力を削ぎ、無差別かつ広範に敵拠点を破壊する兵器の方が攻撃の効率が良いのでは、と考えました。そして、爆弾を空中で爆発させ、小型の爆弾を周囲に飛散させる兵器を開発したのです」


「確かに、内部からの破壊を試みるならば、市壁に穴をあけるだけの兵器は過剰と言える」


「ま、待ちなさい。都市の住民はどうするのかね?その方法では多くの民家も巻き添えを食らうはずだ」


 フリッツはコンスタンツェに問いかける。コンスタンツェは首を傾げ、きょとんとした表情を彼に向けた。


「何故ですか?効果的な攻撃には不要な懸念かと思われますが」


「国際関係というのもある。あまりに市民を攻撃すると、占領した際にも統治に支障をきたすのだよ」


 フリッツは身振りを使って訴える。アムンゼンは巨大な爆弾を優しく撫でながら、この兵器をじっくりと観察する。無駄のない流線型の機体には、殺傷力の高い兵器が大量に詰め込まれている。過剰ともいえる破壊力を分散させることで、敵の戦力を一気に奪う。アムンゼンには魅力的な提案に思えた。


「いい兵器だ。早速実験をしてみよう」


「えぇ。是非、飛行船の攻撃手段として、ご一考ください!」


 コンスタンツェは満面の笑みでこれに答え、技術者たちに兵器を仕舞うように指示をする。


「いや、一度実践で試してみようと思う。飛行船に幾つか搭載しなさい」


 コンスタンツェは技術者を呼び止めた。アムンゼンは即座に踵を返すと、凍り付いたような無表情のままで帰路についた。


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