博士
僕は博士の家を訪れる。
博士の家は近所にある。本人が言うには大学の偉い先生とのこと。しかし博士の身なりは汚い。いつもボロボロの服に身を包んでいる。「こんな人が偉い人のはずはない」と僕は思っていた。
とは言え、コミュ障の僕の心の師匠だ。
「博士、こんにちは。相談があるんだけど。」
「あ、ぁ、あ、君か。こ、こ、こんにちは。」
博士はコミュ障であり、よくどもる。吃音症と言うのだろうか。髪もボサボサ。それでも、僕が知っている大人の中で博士が一番信頼できる。
僕は昨日起きた不思議な出来事を包み隠さず全部博士に伝えた。そして、意見を求める。
「博士、どう思いますか?」
「うーん、そ、そう、だね。にわかには、し、し、信じがた、う、うん、信じがたいな。」
「そうですよね、この指輪型端末を見てください。」
僕は指にすっぽりはまっている指輪を博士に見せた。
「こ、これは! うーむ、この見たこともない金属の質感。。。な、な、な、なるほど。」
博士はそう言うと僕の腕を掴んで角度を変えて何度も見たり、触って質感を確かめたりした。そして、博士は言った。
「信じよう。と、と、とにかく、この僕の一番弟子である君の言うことだ。ぼ、ぼ、僕は信じるよ。」
そして、続けて言った。
「と、と、と、とにかくだね、現場を見に行こう。」
現場に戻るのはちょっと怖かったけど、博士が一緒なら心強い。僕は博士と共に町外れの工事現場に足を運んだ。
町外れまで歩きながら博士に尋ねた。
「博士、一緒に来て貰えて嬉しいのですが、仕事は大丈夫だったんですか?」
「し、し、仕事? う、うん、ま、まぁ、な、なんとか、なるよ、し、心配、ないよ。」
いつも以上にしどろもどろで、ぶつぶつ声を絞り出した博士の表情からは、本当に大丈夫なのかどうかは分からなかった。
僕は、そもそも仕事をしていないのではないか。あるいは、案外、老いた親に仕送りなんかしてもらっている社会不適合者なのではないか・・・などと考えながら歩いていた。その時、博士が口を開いた。
「き、君。ぼ、ぼ、僕は、ちゃんと仕事しているからね。し、し、失礼なこと考えないでくれるかね。」
博士が急に言い訳じみたことを言い出したので、余計に怪しく思った。
△ △ △
工事現場に入る。そして昨日の穴から地下に潜る。
ところが僕が先導して穴に潜ったものの博士が後を着いてこない。僕が一度穴の入り口に戻ると博士が言った。
「ど、どこへ消えたのだ?」
博士には僕が急にいなくなったように見えたらしい。どうやらこの穴には奇妙な仕掛けがあるらしい。僕にしか見えず、僕にしか入れないという。
「そんな事ありますか? 本当に博士には見えないのですか?!」
「う、う、うむ。み、み、見えない。」
不思議だ。それで、博士と話し合って僕が様子を見に行って戻ってくることになった。
「た、ただし、無理はしないで。ち、ち、ちょっと、見に行くだけだからな。」
僕だって死にたくない。無理そうならすぐ戻ってこよう。博士は工事現場でそのまま待機していることになった。
とは言え、博士は遊んでいるわけではない。カバンの中から不思議な機械を取り出して、電磁波や熱量など様々な記録をはじめた。
僕はそんなカッコイイ博士の姿を横目に見つつ、穴の中に足を踏み入れた。
△ △ △
とにかく足音を忍ばせて僕は穴の中を進む。