3.わたしの使命
神様曰く、今から飛ばされる異世界には魔族と人間の、二つの種族が存在しているのだそうだ。
そして両者は争いを続けており、何百年かに一度大きな大戦が起こっているのだという。
世界の名前はミッドガル。雰囲気としては、剣と魔法の中世西洋風ファンタジーを想像してもらえればというのが神様の言である。
ミッドガルの人間は、基本的にはわたしの想像しているホモサピエンスと大差はないとのことだが、中には魔法と呼ばれる特殊能力を扱うことのできる人もいるとのことである。
対して魔族と呼ばれる種族は、羽や鱗など、人間には存在しない要素も持った種族が存在しているという。
加え、その魔族の長が、魔王と呼ばれる存在であるというのだ。
その魔王に対抗できる力を持つのが聖者と呼ばれる存在であり、人間の旗印である勇者と協力して魔王を討つことが人間側の悲願である。
「そんな感じ! 分かった?
つまりあんたは、か弱き人間たちの希望の光! 明けの明星! 最終兵器聖女!
だから人間サマの悲願達成のためにも、あんたは向こうの世界にいったら、魔王ってのを倒さなきゃいけないの。
それがあんたが異世界に召還される理由。」
くるり、と神様がその場で回ってみせる。
重力を感じさせないスカートのはためきを、わたしはぼんやりと眺めていた。
あまりにもわたしの持っている常識とかけ離れた内容と現状。思考は疲労し、活動を弱めている。
それでも、わたしの中である一つの考えが、鎌首をもたげ始めていた。
「で、たぶん、まあそりゃ一筋縄ではいかないはずなのよねー」
神様は、芝居がかったしぐさで両腕を広げた。
「とゆーか、いきなりパンピーが異世界行って魔王倒せなんて絶対に無理なワケ。
で、じゃあまあどうしますかっていうと、あんたに特別な能力をつけたげる。
それは魔法の才能だったり、戦闘の才能だったり……まあとりあえずなんでもいいや。欲しいもの言ってくれりゃあとりあえずどうにかするから。要はあんたをチーターにしま……狩猟豹じゃないヤツ。チート使いってこと。
つまり、あたしとしては魔王を倒してくれればいいし、あんたには異世界で頑張って貰いたいから、カミサマからのプレゼント差し上げちゃいますよってコト。わかった?」
「……ええと、まとめますと、私は異世界に行かされ、魔王という存在を倒さねばならない、と。
その為に特別な能力を神様から私にいただける、ということですね」
「そうそう! で、何がいい?」
神様はわらった。からからと明るく笑った。
わたしは生唾を飲み込んだ。いつのまにか、喉の奥がひどく乾いていることに気が付いた。
芽生えた思考が、急激に丈を伸ばしてわたしに絡みつく。育ったそれは喉元に絡みつき、終いにはひどく私の心臓を締め上げる。
「その前にひとつ、確認させてはいただけないでしょうか?」
これだけは、確認しなければならないとわたしは思った。
シュレーディンガーの猫。開けてみなければわからない。
パンドラの箱のように、底には希望が残っているのかもわからない。
「ん?」
「わたしは、」
それでも、わたしは確かめなくてはならないと思った。
「わたしはもう、帰れないのですね?」