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愛され聖女は今日も図書館の中!  作者: にゃむりん
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28.一週間は7日間

「それじゃあ、彼女のことをよろしく頼んだ。」


 嫌われたのだろうと感じた三日後、わたしは勇者様に伴われ、ミーミル様のところに連れてこられていた。

 あんまりなタイミングではないかと、少しだけ舌を巻いた。



 わたしを魔法使い様の元まで連行したシグルド様曰く、隣国で不穏な動きがあるので、牽制の意を込めて、勇者様と騎士団長様御一行で訪問されるとのことである。

 勇者であるシグルド様だけ隣国へと赴き、聖女であるわたしを国に残しておくのにも意味があるのだという。

 聖女をこの国に残しておくことで、勇者と騎士団長という戦力の要が消えたとしても、他国から攻められないようにするのだといいう。


 

 聖女という存在がこの国に召喚されたことは周知されていても、その力の詳細は未だ未知数である。わたしの「ギフト」についても、シグルド様とグラム様をはじめとする何人かにしか認知されていない。

 加え、聖女だなんだとはやし立てられていても、魔王、ひいては魔族との戦争が表立っていない今、わたしはただ飯ぐらいの本の虫、穀潰しもいいところである。


 しかし、それを極力、好意的に恣意的に解釈するなれば、わたしという存在は、いまだ表舞台に立つことのない、謎の多き「聖女」であるといえるのだろう。

 つまり、「綴葉アヤ」という存在は、周辺国からすれば、その全貌を掴むことができぬダークホースといえるのではないだろうか。


 加え、そんな「聖女」事情に、我らが希望の旗印である勇者様の存在が重なってくる。

 話によれば、この白皙の美貌を抱いたシグルド様は、一人で一個師団を相手取れるほどの戦力をお持ちらしい。

 さらに、彼は頭の回転も腹正しいほどに優れていらっしゃる。先にも述べたが、「聖女」の現状と能力を正しく把握しているのは、この国の内部でもほんの一部である。

 そのうえでこんな外連味をかませるのは、シグルド様だけであろうて。長いとは言えない彼との付き合いであるが、お綺麗な顔の下に詰まっているのが、ただただ綺麗なものばかりでないことはよくよく存じ上げている。


 神様からチート能力をもらっているわたしだが、単純なスペックだけで言えば、よっぽどシグルド様の方がチート遣いではなかろうてか。


 勇者がそうならば、聖女もそうなのではないか。

 とんでもない戦闘力をもった勇者様が国を離れていても、どんなものだか曖昧な「聖女」がまだこの国には残っているんだぞ、という。能力が周知されていないのをいいことに、はったりを利かせたのだろう。

 わたしはただ本を人一倍読むだけの女でしかないので、ただただこの外連味が功を成すことを、祈り願うばかりである。


「勇者様ぁ、前も言ったかもしれないんですけどね、僕にだって用事があることだってあるんですよー。気ままな隠居生活に見えるかもしれないですけどね、こう見えて僕も結構忙しいんですよ?」


「彼女の事情に通じていて、ある程度実力もあり、信頼できる人物が君しかいないんだ。ミーミル殿」


「君、本が好きな子がいますぅ、とか言って僕に聖女サマを引き合わせたのって、何かあった時の託児所が欲しかったからじゃないですか?」


「その本が好きな子と存分に語り合える機会だと思ってくれていい。気に入ってくれて、家にまで招いたんだ。君に断るどおりはないだろう?」


「……はあ、昔はあーんなに可愛かったのに。オジサンは悲しいですよお」


「人は成長するものだ。大きくなったと褒めてくれてもかまわないさ」


 あまり和やかとは言えぬ会話劇の結果、折れたのはミーミル様だった。国賊だ、人間に仇なすだ、戦犯だなんだと些か不穏な言葉で脅されては、仕方のないことかもしれない。

 いつもより勇者様の腹から黒さが滲み出ていたのは、昔馴染み故のことだろうか。



 はあ、と隣の魔法使い様に聞こえないように嘆息した。

 勇者様が去り、その場にはわたしとミーミル様だけが残された。

 恨めしいほど煌めく笑顔をうかべたまま、彼女を頼んだぞ、と彼は言葉を置いていった。期間は一週間。一週間、この世界でも7日間。

 いつもより口角の角度が急なミーミルは、わたしをちらりと横目で見やった。それでもその口は開かない。

 だからわたしは息を大きく飲み込んで、勢い任せに言葉を吐き出した。


「……ミーミル様。わたくし、ずっと国立図書館におります。それ以外の時も、あまり気にかからないようにいたします。ただ、部屋の隅を少しいただけますと幸いです。邪魔にならないようにいたします」


「ええー、でも聖女様だと、便利な生活とかに慣れちゃってるんじゃないですか? ここは見ての通り、みすぼらしいところですし、あんまりおかまいできませんし、不便な生活を強いることになっちゃいますよ?」


「いえ、大丈夫です。少しばかりの場所をいただければ、それだけで大丈夫です。食事などもわたくしの方でどうにかいたします。かかった費用も色を付けてお返し致します。ご迷惑は極力かけないように致します」


「……」


 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 か細くなってしまった声は彼に届いたのか。わたしには分からなかった。

彼の眼窩に収まった、モスグリーンの湖畔が揺れることはなかった。


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