2.明滅ギャルと異世界のはなし
「ぱんぱかぱーん!」
鈴を転がすような、そこの抜けた明るい声。
わたしは困惑を隠せなくて、とりあえず眉を顰めることしかできなった。
「え、と……」
「おめでとうございまーす! あんたは異世界の救世主様に選ばれましたー!
あんたは今から異世界に行って、魔王を倒す聖者……いえ、聖女となるのですー!」
「ええと、分からないです……訳が分からないです……」
上下左右の感覚もなく、話声以外の音と匂いも存在しない。どこまでも広がる白一色の空間。
それだけでも頭がくらくらとするのに、目の前には明滅するギャル。
真白い空間に、えらく丈を詰めたローブを着こなす、ばっちりメイクのギャルがいる。
格好はルネサンス時代のギリシア神といったところなのだが、ぱっきりと色付けされた紫のアイシャドウと濃いめのチークがそれらの雰囲気をぶち壊していた。
しっかりと巻かれた髪の毛が、濃い紅色で彩られた唇が、爛々と輝く金色の瞳が、この空間の異質さに輪をかけている。
あまりにもわたしの中の常識から逸脱した事象に、脳みそが揺れているような感覚に陥る。
おまけに異世界だの魔王だの聖者だ聖女だの、わたしはどうしたらいいのだろう。
眉根を寄せたわたしを見て、目の前の明滅するギャルはからからと笑い声をあげた。
「なんもかんも兎にも角にも、そう決まったからさ、あんたに拒否権はないよーん」
何を言うのだこのギャルは。
「あ、でもでも、ほら? よくあるでしょ? なんか異世界に行くときにチート能力もらえるやつ。あと言語対応ぱーぺきのステキ福利厚生付き。そういうのはちゃんと用意してるから安心してねー。んでんで、ほら、何がほしい?」
「え、え、待ってください……何がなんだか……魔王とか異世界とか、何がどうやらさっぱりで……」
「ん? あんた、あんまりそういうのに詳しくない感じ? 転移系ハイ・ファンタジーって知らない?」
「あ、そ、それならわかります。いや待ってください、つまり私は転移して異世界に飛ばされてしまう、のですね……」
ハイファンタジー。それは舞台を異世界とする物語のことである。
対義語にローファンタジーという、現実世界を舞台にして、そこで魔法が使われているといった物語を指す言葉が存在する。聞きなじみのある言葉を耳にして、私の頭は少しだけ回転数を取り戻した。
「そうそう、話が早くて助かるわー。最近多いじゃん、異世界転生で俺つえー! チートと無双スキルで俺何かやっちゃいましたか? ってやつ!」
「おれつえー……?」
取り戻した回転数が瞬時に減速した。
「あーまじか。そういうのは知らないタイプか
んー……俺つえーってのは、とりあえず新しいテンプレート、流行りの雛型って思ってもらえれば。後半は気にしないで。俺つえーの中の形式だから、そもそも前半がわからないと説明のしようがないし。
……というかあんた、流行りに乗っとかないと、サムいやつって思われるよ? そういう扱いされてきたでしょ、アタシにはわかんのよー?」
「す、すいません……」
「まあいいや、とりあえず閑話休題。話を進めるから。あんたは異世界とかいう、地球とはちがう世界に行くことになったの。今回はあんたがするのは、異世界転移。あんたがそのまま異世界に行く感じ。別人になるとかじゃないから期待しないで。
異動は決定事項。たかが人間風情のあんたに拒否権はない。いい?」
「は、はい……いや、よくはないですけど……」
んで、こっからちょっと説明長くなるから。
そうおいて説明された自称「カミサマ」の話は、荒唐無稽で奇想天外な、わたしにとっては御伽噺にしか思えないものだった。