18.おはなしの終わりに
「はい、かまいません。」
図書館に取り付けられた窓が、光を四角く切り取っている。どこから入り込むものなのかは分からなかった。
差し込むその光は色も傾きも、いつまでも変わらないままであった。
「……ふーん。」
あんたがいいならいいんだけど。
吐き出されたその言葉が、どうしてかひどく拗ねているような音をしていて、わたしは思わず笑いそうになってしまった。すこしだけ上がってしまった口角を隠すために、口元に手を添える。
そんなわたしの意図に気が付いているのだろう。じとりと音がしそうに眼をすがめて、神様はわたしを見やるのだ。
「……まあ。とりあえずまとめると、今回の話はつまり―――翻訳したいけど、地球と異世界ミッドガルドでなんか共通点がなくっちゃ駄目なんですよ。じゃあ、「ギフト」での図書館の8時間+ミッドガルドの16時間≒地球の24時間。ってことにしますよん、それでとっかかりができたから翻訳できますよんってことよね」
「はい、その通りでございます」
「で、その代わりに、あんたは「一日」8時間、早く歳をとりますよーってのは伝えた通り。
加えて、ちょろまかした8時間は、何が何でも消費してもらう。そこんとこは、ほら、大人の事情的な奴でさ。
で、ついでに「ギフト図書館」での8時間は、異世界での時間とは別換算。あんたが午前10時に図書館に入ったなら、あんたが中で8時間を使おうとも、図書館をでたら外の世界は午前10時なわけ。」
捕捉とまとめを終わりにして、神様の言葉がそこで切れる。
くるくると指先で、セットされた髪の毛を弄ぶ。何度か神様の唇が開いて、閉じてを繰り返した。
たぶんこれは、好意なのだろう。
確かに彼女には、勝手に異世界に連れてこられた。加え、神様目線のめちゃくちゃさで、好き勝手な振る舞いをする。どこか人間は自分より下等な生物だと考えている節があるし、どこか人間を侮蔑して斜に構えている節もある。
それでも本にたいする教養の深さや、遠慮のなくなってきたわたしへの言葉選びだとか、会話の応酬だとか、そういったものがくすぐったくてしょうがない。吹けば飛ぶようなか弱い生物に対する憐憫なのかもしれない。
それでも、私から彼女への、好意と呼ばれるこの感情は、その指先でもってわたしの頬をやわらかにくすぐるのだ。
言い淀んだ彼女の姿。
そうだったらいいな、と心の中で呟いて、だからこそわたしが言わねばならないのだと、思った。
「それで、わたしは、何を捧げればよいのでしょうか」
器用な質ではないので、出来れば両腕は健在のままだと嬉しいです。冗談めかして笑って見せれば、露骨に眉根が顰められた。
その反応に、少しだけ足元が浮き上がるわたしは、きっと、性格が悪いのだと思う。
「……あー、あんたの寿命を幾らか貰おっかなーとは。ほら、なんかカミサマっぽいし、そういうの?」
「はい、わかりました。」
「まあ、もともと1.5倍速で年をあんたはとるわけだし? それは「ギフト」のせいだから? つまりアタシが貰ってるのも同じってゆーか? まあ?」
ぽかりと口の空いた、間抜けな顔をしていたのだと思う。
神様はこちらに字取り止めをやって、唇を突き出した。
「……なによ」
「いいえ、その、」
言葉が喉からあふれそうになって、それを喉を鳴らして飲み込んだ。
彼女のやわらかさを、野暮なことをして汚したくなかった。
あの、とわたしは微笑んだ。自分でもびっくりするくらいやわらかな声だった。
「今度、神様にも読んでいただきたい本があったらご紹介しますね。」
「え、あんたのオススメとか何がでてくるか分からな過ぎて怖いんだけど」
無惨。コミュニケーションとは、かくも難しい。
これでSF部分終了です。
難産も難産ですが、書いてて楽しかったです……!
分かりづらかったらすいません、お楽しみいただければ幸いです!




