表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛され聖女は今日も図書館の中!  作者: にゃむりん
19/35

side カミサマ①

 例えばそれは、朝と夜があること。水が存在すること。

 光が差すということ。人というものが存在していること。

 それは当たり前のことで、それは疑いようもないことである。

 だから、おかしいのだ。


「は、え、」


 絶句。

 まさにそれしか表現ができなかった。

 アタシはぽかんと口をあけ放って、意味のある言葉なんてなんにも言えなかった。

 カミサマになって、汗なんてかかなくなった筈なのに、背中を冷や汗が伝った気がした。


 何を。


 息を吐きだしたら、想像以上にか細い音がした。


 何を言っているんだこの女は。


「よかった。正解の様で安心いたしました。」


 女は微笑む。

 その微笑みに、背筋が泡立った。息を飲んだら、ひ、と音がした。


「最初は天文学的な話かと思ったのですが……ええと神様、惑星の自転速度の求め方はご存じですか?」


 目の前の女が、何食わぬ顔をして、惑星の自転速度の求め方と、それによる「1日」という時間区分について語っている。悪いけど、アタシはそっち系は門外漢。長文解説はノーサンキュー。


 すこしだけ戻ってきた思考のかけらを手繰り寄せて、アタシは言葉を吐き出した。


「いや、え、は、な、なんで……アンタをこっちの世界に連れてきた時に、朝と夜との感覚とか言語とか常識とか味覚だって、そういうのみんな異世界仕様にして、違和感感じないようにしたのに、なんで、」


 おかしいのだ。

 何を言っているんだ、どうしてそうなったんだ。



「どうしてあんたは、「時間の概念」だなんて根本を、疑うことができるわけ!?」



 異世界に飛ばされた。

 でもそこでは話も通じますし、ご飯もおいしいです。私の常識もある程度通じます。そんな世界でした。

 それならば、それでいいだろうに。何を疑うことがあろうてか。

「今まで通りに」生きていけばいいじゃないか。


 異世界に飛ばされました。

 でもそこでは話も通じますし、ご飯もおいしいです。わたしの常識もある程度通じます。そんな世界でした。

 それでも、わたしは時間が流れていくことに疑問を持ち、空気が存在していることに疑問を持ちます。

 海が山が、そこに世界が存在していることを疑います。


 おかしいだろう。

 日本国内旅行に出かけたぐらいの感覚じゃないか。たかが国内。話も味覚も常識だって通じてしまう。

 この女がやっているのは、旅行先で流れている時間が、出発地点の時間と同じものなのか疑うということ。

 県が変わった。そうだ、もしかしたらここの1日は前の県より短いんじゃないか。な訳ないでしょフツー。

 そもそもそんなこと疑わないでしょ。その発想が出てくる時点でおかしい。そういうことだ。


 しないでしょ可笑しいでしょ、そんなわけないだろう。

 自分の感覚が通用する世界で、何を疑問視するというのだろう。


 普通の女じゃなかったのか。

 周りから孤立していて、本が好きで、それだけしかないから図書館に逃げ込んでいる。

 なんとなく自分が周りと違うことも理解しているけれども、でも、周りになじむこともできやしない。

 周りに無理に合わせてみても、どこか違うのだと悲しくなることがある。

 違いを怖がって恐れていて潰されそうになっている。

 そんな女じゃなかったのか。

 少しだけ特別扱いになっていたのは本当だ。なんとなしの親近感さえ覚えていた。


 けれど。


 わたしは、と目の前の女の唇が弧を描く。

 隙間から除いた舌の赤色に、背筋を撫で上げられるような悪寒を感じた。



「SF小説も嗜んでおりますので」



 アタシは、アタシは―――何を、喚んでしまったのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ