16.時間制限と図書館と
「……は?」
唇からこぼれた言葉を耳ざとく拾い上げた神様が、むくりと空中で起き上がる。
えらく短いローブの裾を払って、胡坐の様な体制で座り込んだ。
「なに、なんか思いついたの?」
「あ、はい。ほら、図書館って、開館時間があるじゃないですか。だから、どんなに浸っていたくても、限界があります。でも、ここには制限時間がありません。だったら、もういっそ、この図書館に時間制限をつけるのはいかがですか?」
あまりにも当たり前の話ではあるのだけれども、地球の図書館というものは、公の施設であり、それを運営しているものがいる以上、開館時間と閉館時間が定められているのが常である。
どんなに居心地がよかったとしても、そこにはずっといられないのだ。
しかし、「ギフト」による図書館は、その規約に縛られないため、いついかなる時でも、どれだけでも利用することができる。加え、中でいくら時間を過ごしても、ミッドガルドでは時間が進まないというとんでも図書館なのである。
本当にとんでもないのである。
引きこもり未遂事件を思い出し、静かに頷きを落とすわたしを、神様がなまあたたかく眺めてくる。
「なーる程ねぇ。で、両方に制限がありますよーってのを、共通点にしようって訳ね」
「いえ、この話はまだつづきまして」
「あ、そうなん?」
あれま、と呟いて神様が宙に浮く。
胡座をかいたまま空中に留まるのは絵面的に大丈夫なのだろうか。
しかし、それ以上に、短い裾からすらりと伸びた足に、老婆心からの心配が湧いた。
ええとですね、とわたしは言葉を続けた。
「時間という概念があるのか分からないところに、時間制限という制約をつけるために、時間というそのものについて考えてみたのですが、」
神様が胡座のまま落ちた。
神様は、ロダンの男のように頭に手をやって、眉根を寄せた。
「……鶏と卵どっちが先かみたいになってんじゃん。あんた頭良すぎてたまに訳わかんないんだけど」
「過分なお褒めを頂きまして、恐縮至極にございます」
「ほめてないほめてない、あんたぱっと見さ、色々薄そうなのに、なかなかに図太いのウケるんだけど」
うがーとかぐわーとか。とうてい意味の込められた言葉とは思えない奇声を上げて、神様が両手で頭を抱えた。
というか、と強い語気で言い放って、わたしに指先を突きつける。
「もー!あんたと話してると、話があっちゃこっちゃ行ってるから、話が進まない! このまま適当にくっちゃべるのでもいいかなとか思うじゃん! ああもう、それだと何にもならないから、とりあえず簡潔にスピーディーにシンプルに話すべし!」
楽しくなってしまっているのは自覚があったので、わたしは神様の言葉に従って、単刀直入に話をつきだした。
「このミッドガルで何日か生活して気が付いたのですが、ここミッドガルドは、もともとの世界、つまりは地球よりも「1日」が短いのではないでしょうか?」
「……ふうん、なんでそう思ったの?」
す、と神様の瞳が細められる。
瞳孔のない瞳が、それでもこちらを射抜くように細められていた。
その反応にわたしは手ごたえと確信を感じる。
わたしは言葉を続けた。
「そしてその、「1日」が短い理由―――この世界の、「時間という概念」、それ自体が地球のものより重いからでは、ないでしょうか。
そうですよね、神様?」
話しているうちに楽しくなってきて―――わたしは、きっと笑っていたのだと思う。




