12.「ひらけ図書館」
「あー……図書館ってすごい……紙の匂い……嗚呼、素敵……わたし前世紙魚だったのかな」
お行儀悪く机に突っ伏して、胸一杯に空気を吸い込む。
勇者サマとの楽しい楽しいお出かけが終わった後、私は自室にて「ギフト」を発動。現れた図書館でわたしは読書の限りを尽くしていた。
「ああ……やっぱり最初の一冊は図書館の本にしたのは正解だった……ランガナタンの図書館学の五法則は最初の本の選択として最高だった……」
読み終えた本の、その背表紙に頬を寄せる。
この「ギフト」として神様に創造された図書館は、わたしの予想をはるかにしのぐ快適さであった。
わたしが願えば、紙と筆記具がどこからともなく現れることをはじめとし、飲み物や軽食がいつの間にか用意される。ご丁寧に飲食スペースまで用意されている。
もちろん検索システムも完備。私の脳内を読み取っているのか、曖昧な手がかりからでも目的の本がいつの間にか用意される。本の紙で誤って指を切ってしまったところ、ばんそうこうまでいつのまにか準備されていたのには、さすがに肝が冷えた。
もちろん図書館内を散策することも可能で、日本十進分類法によって分けられた本たちが、整然とわたしを待っている。内部は華美な装飾などは施されておらず、よくある県民図書館といった風体であるが、その素朴さが逆に心地がいい。
実に居心地がいい。問題があるとするならば。
「ひらけ図書館、て……」
「ギフト」の力を使うための呼び水として、なにか詠唱が必要となるのではないだろうか。
そう考えたわたしの口から出てきたのは、世界一有名な開閉呪文のオマージュであった。
いやでも、ひらけ図書館って。
成人を超えてから、まともに唱えた呪文が開けゴマのパロディとは。
思い出すと、顔に熱が集まってくる。
「やっぱり呪文といえば、ラテン語にすべきだったのかな……」
25メートルプールもかくやという豪奢な部屋の真ん中で、千夜一夜物語を全力でパロディする女なんて、前代未聞にもほどがある。それだったらまだ、「ぽい」雰囲気の言葉を口にしていた方が、それこそ「らしさ」があったのではないだろうか。
「いや、そもそも異世界に転移させられて、聖女とか言われる人の方が、前代未聞なのかなぁ」
一度考え始めると、思考は鈴なりに続いてしまう。
わたしはぶんぶんと首を振った。こんなにたくさん本があるのだから、今は図書館の空気に浸っていたい。ここのところ、召喚の儀だ、勇者様とのお出かけの準備だで、ろくろく本に触れることができていなかった。
もそり、と次の本に手を出す。さっきは重めの本だったので、今回は軽い本にしよう。
そう思って手にしたのは、一冊の絵本である。
日本ではペロー版が有名ではあるが、その物語の起源は古く、紀元前6世紀だといわれている。
消炭さん。葉限。サンドリヨン。古代エジプトをはじめとし、中国や日本などにも、細かな設定は違えども、似たような体系の物語が存在している。
ひどい扱いをされていた女の子が、王様に見初められて幸せになる物語。
「……シンデレラ」
こんなご時世に、現実でそんなことあるはずがない。
憧れる自分が莫迦みたいだとは思いつつ、どこかでずっと夢見ていた。王子様が現れてくれること。
何かのきっかけで日常が変化して、幸せになれること。
指先でページをめくる。むかしむかし、あるところに。お決まりのフレーズで始まる物語が、なんだかなつかしくてこそばゆい。
「……やっぱり、好きなんだよな」
もう、あの頃みたいに純粋さは失ってしまったけれど。




