表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛され聖女は今日も図書館の中!  作者: にゃむりん
1/35

0.プロローグ

 

「それ」を飲み込んで生きてきた。

 咀嚼し嚥下し腹の奥でどろどろに溶かして生きてきた。

 そうしてきた。

「それ」は呪いだ。

 一度口にしてしまえば、わたしの全身に絡み付いて動けなくさせる。

 もしもがあれば、絡み付いたそれは、わたしの四肢をばらばらにしてしまうだろう。


 わかりました、と笑わねばならぬ。

 頑張ります、と胸を張らねばならぬ。

 任せてください、と肯定しなければならないのに。

 そのどれもができなくて、中途半端に開いた口からは、乾いた吐息ばかりが漏れた。


 こだまでしょうか、いいえ、誰でも。そんな詩がある。

 よいことも悪いことも、投げかけられた言葉には、どんな人だって同じように返すのだという、そんなことを綴った詩だ。

 周りの誰もがあのやさしい世界の登場人物だなんては言わないけれど。


 少なくとも、わたしは、綴葉つづりは あやはそうやって生きてきた。

 そこにはやさしい理由なんて、どこにもなかったけれど。


 そうでしょう、と言われれば、そうですねと。

 いやでしょう、と言われれば、いやですねと。

 こだまでしょうか、いいえ、よるべない女の悲しいおうむ返し。


 何もなかったわたしには、そうすることでしか、周りの輪にいられなくて、必死に笑顔を張り付けた。

 身寄りもなく、居場所もなく、しがない大学生でしかなく、生きるすべもろくに持たない女の処世術だった。


 でも、今は。

 居場所ができた。あたたかな人を見つけた。役割を持ち、生きる意味を見つけた。

 ここにいたいと、思ってしまったのだ。


 じわりじわりと、視界がぶれる。

 飲み下した「それ」はわたしのなかでちゃあんと生きていて、わたしの渇ききった涙腺を刺激しながら転がり落ちた。



「たすけて」



 言葉が四肢に絡みつく。

 嗚呼、嗚呼言ってしまった。

 ついにわたしは。


「無論」

「もちろん」


 耳元で聞こえた声に顔を上げる。

 そこには、嗚呼、そこには。



「絶対に、たすけてみせる」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ