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63 10年前の二人の関係

 その時間を、俺はやたら長く感じていた。


 当初はクラウと二人だけだったはずなのに、中央廟(ちゅうおうびょう)に居るティオナへの謁見(えっけん)は、気付くとメルやゼストまでが同行することになっていた。もちろんヒルドも名乗りを上げたが、リトに夕げの支度の手伝いを頼まれ、コロリと態度を変えて部屋を出て行った次第だ。


 3人でクラウを待って30分は過ぎただろうか。

 ヒルドが居なくなった途端、メルまでも会話することをやめてしまった。


 空いたソファに座って腕を組み、じっと目を閉じるゼスト。

 メルは俺の横に並んで、うとうとと舟を()いでいた。俺が遠い方の肩を抱き寄せると、そのまま寝息を立ててしまう。


 (わずら)わしいほどの沈黙に息苦しさを感じた俺は、何度も自画像のゼストに目を向けてしまった。ヤツの美意識に賛同はできないが、張り詰めた空気から逃れるにはちょうど良かった。


「やぁ。待たせてごめんね」


 クラウが開かれた扉から現れたのは、まだ明るい時間だった。

 ゼストはハッと開いた目を細めて、立ち上がる。


「俺とメルも同行して構いませんか?」

「いいよ。ゼストも行く予定だったんでしょ? ティオナは忙しい人だから、何度も行くよりいいだろ」


 さっきまではなかったマントが、クラウの背中に付いている。俺が初めて会った時に付けていたものと同じだろうか。

 俺がこの世界に来てマントを付けているのを見たのは、魔王とその親衛隊だけだ。剣師だと自称するヒルドにはついていない。


「クラウ様」


 目を覚ましたメルが嬉しそうに声を掛け、クラウに駆け寄った。


「クラウ様は、本当にユースケのお兄さんなの?」


 好奇心いっぱいの顔で答えを待つメルの前にしゃがんで、クラウは「そうだよ」と彼女の肩に片手を乗せた。


「僕が向こうの人間だったってことはメルも知ってるだろ?」

「はい」

「今まで故郷のことなんて気にもしなかったけど、ユースケと自分が兄弟だって知ったら、自分に興味が沸いて来てね」


「ティオナは大昔からあそこにいるんですよね?」


 ゼストの口調がいつもと違う事に違和感を感じながら、俺は三人の会話に耳を傾けた。


「そう。だからゼストも彼女の所に行こうとしたんだろ? 彼女は秘密主義だからどこまで教えてくれるか分からないけど、はぐらかすことはあっても嘘はつかないからね」


 「はい」と同意するゼストに「ね」と返して、クラウはメルに向き直る。


「それにしても。メルは城に来ちゃダメじゃないか。ユースケに会いに来たの?」


 (とが)った物言いではなかったが、メルは「ごめんなさい」と肩をすくめる。


「ユースケに、もう会えなくなるような気がして」

「そんなことないよ。ただ、僕もユースケに会って話がしたかったから」


 クラウは小さなメルにやさしく笑い掛ける。


「怒らないから、無茶する前に相談して」

「はい」


 何気なく見ていると大した疑問も感じないが、メルがこの小さな彼女になる前の二人の関係を思い出して、俺は『不思議な光景だな』と首を(かし)げた。


 魔王メルーシュと、異世界人のクラウ――今とは真逆の関係と言っていいだろう。

 禁忌(きんき)を犯したクラウを気に入ったとかで、魔法と王位を譲ったという過去の経緯が妙に気になってしまう。


「じゃあ行こうか」


 立ち上がったクラウに続いて、俺たちは部屋を出た。

 廊下には夕げの匂いが漂っていて、食欲が掻き立てられる。


 幅の広い階段を下りて、来る時とは別の廊下へと進む。城の奥へと続く長い廊下は、窓と反対側の壁に等間隔で絵が飾られていた。


 そういえばヒルドの絵もどっかにあるんだよなと思った時だ。

 この偶然をヤツに言ったら、『運命だよ』と喜ばれてしまいそうだ。


 風景画や人物画が並ぶ中で、一際目を引くその絵が「さぁ見てくれ」と言わんばかりに猛アピールしてくる。

 絵の右下に書かれた小さな文字を、異国人の俺は理解することが出来なかったが、これがそのヒルド作『太陽の爆発』だと確信することが出来た。


「おぅ、それだぞ、ヒルドの描いたやつ」


 足を止めた俺に、ゼストが尋ねるより先に答えをくれた。

 太陽の原型など何もない。放射状に殴り書きしたような色とりどりの線に、物凄いエネルギーだけは感じ取ることが出来た。


 「まぁ、素敵」と手を叩くメルだが、俺にはさっぱりその芸術を理解することはできなかった。


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