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47 彼がふと抱いた疑問

「じゃあ、ゼストのお店に戻るわね」


 メルとゼストがあっという間に戻って行ってしまい、アイルも「じゃあ、私も」と奥から自分の荷物を持ってきた。


「奥の休憩室にベッドがあるから、使ってくれて構わないからね」


 ニヤニヤした顔で「一台しかないけど」とヒルドに声を掛け、アイルはチェリーの前に立った。

 「また来て」と熱い視線で見上げる、きっかり三秒間のラブアピール。まだ諦めてはいないようだ。


 治癒で少し落ち着いたらしいヒルドがポッと顔を赤くしているが、リトはかなり嫌そうに何度も首を横に振っている。

 こっちも進展はなさそうだ。


 三人を見送ると、「私たちも帰りましょうか」とチェリーが治療中の二人に歩み寄った。


「リト、ありがとね」

「チェリーさん、今日は男前なんですね」

「お忍びのつもりだったんだけど」

「気を付けて下さいね。無許可で11時過ぎると、捕まりますよ? それに、こんな夜中に外を歩くなら、やっぱりあの剣を持っていてもらえますか?」


 夜11時過ぎの外出に許可が居るとクラウが言っていたことを、すっかり忘れていた。

 この世界も一日が24時間で、来た時に合わせておいた腕時計は10時を回った所だった。


 (せ、セーフ)

 

「うん――そうね。明日戻るから、その時に受け取らせてもらうわ」


 そんな二人のやり取りを横から聞いていた俺は、会話がひと段落したところを見計らって彼女への質問を挟んだ。


「あの、リトさん」

「何ですか、ブースケ」

「いや、ブースケじゃなくてユースケだけど。美緒は元気にしてますか?」


 ちょっと涙が出そうになるのは、美緒を懐かしむからじゃなくて俺の名前が全くリトさんに浸透されないからだ。


「美緒ちゃん? とっても元気にしてますよ。とっても元気だし、そんなに心配しなくて大丈夫です! 魔王様ともすっごく仲が良いし」


 それはかなり心配だ。そういえば詳細は不明なままだが、クラウは美緒を味わってしまったんだろうか。


「さっきも夕げの時にカーボの丸焼きをいっぱい食べて、「食べ過ぎです!」って従者に止められていましたからね」

「そ、そうですか」


 美緒の近況を聞くごとに、(たくま)しさが増しているような。


「安心……していいんですよね?」

「勿論です!」


「魔王の所に女の子が集められているってのは聞いてたけど、君も向こうの世界から来た人だったんだね。今度僕に話を聞かせてくれないか?」


 リトと半身を密着させたまま、こっちへ身体を回したヒルドに、俺は嫉妬心を再燃させながら「あぁ」とサヨナラの手を振った。


   ☆

 そして、俺たちは二人でチェリーの家に向かった。


「あぁ。それにしても全然酔えなかったわ」


 がっくりと溜息をつくチェリー。飲み物もそうだが、食べ物もシーモスの肉とピザをつまんだ程度だ。

 けれど、俺は全身が疲れていてすぐにでも寝たい気分だった。


「そういえば、チェリーさんはどうしてアイルさんにあんなこと聞いたんですか? クラウのこと……」


 魔王のクラウが異世界から巨乳の女の子を集めている話だ。

 チェリーは「そうだね」と笑う。格好のせいか、今日はいつもより大分男らしい。


「彼女も言ってたでしょ? クラウは真面目だって。私もそう思う所があったから、どうなのかなって思っただけよ。色んな人の話を聞くのは大事なことよ?」


 俺は「ですね」と頷いて、頭の中にクラウを思い出してみた。

 俺がアイツに会ったのなんて、ほんの数時間。性格がどうのなんて言える程良くは分からない。


「でも、巨乳のハーレムなんてちょっと羨ましいとは思います」

「うふふ。正直なのは結構なことよ。けど、リトの事だって気になるんでしょ? そういう目で見てたじゃない」

「ひぃいい。は、反論できないじゃないですか」

 

 突然なんてことを言うんだろうか。


「あら?」


 にっこりと俺を振り向いたチェリーが、ふと足を止めた。

 彼の目が俺の少し後ろに釘付けられる。


「どうしました?」

「そこにホクロなんてあったのね」


 俺の首筋にある大きいやつの事らしい。いつも髪に隠れているが、風が吹いて偶然見えたようだ。


「あぁ、生まれつきみたいです」


 チェリーは「へぇ」とだけ呟いて、再び歩き出す。

 これは小さい頃に事故で死んだ二歳年上の兄貴と同じものだと聞いている。


「じゃあ、おやすみなさい」


 家に着いてすぐ、チェリーは自室へと入ってしまった。

 二人きりの夜とか変なことを言っていた割には、あまりにも呆気ないと思ってしまった。


 いや、これが普通なんだ。何かあっちゃ困るだろう?


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