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貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!  作者: 栗栖蛍
11章 俺はその時、彼女にもう一度さよならを言いたくなった
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118 眠り姫は何を思う

 バタリと扉の閉まる余韻(よいん)に重ねて長い息を吐き出した俺は、改めて元老院(げんろういん)議事室を振り返った。


「ユースケ、ここで感情的になっちゃダメだよ。元老院の魔法師はみんな上位レベルだからね。白装束はその証みたいなものなんだよ」

「ミーシャはそんなに強いのか。ってことはムーシャも?」

「分からないけど、外見で判断しちゃいけないってこと」


 ヒルドの話を聞きながら、俺たちは元老院の印が描かれた紺色の廊下を抜けた。


畜生(ちくしょう)。どこに行ったら美緒がいるんだよ……」

「落ち着いてよ、ユースケ」


 『みんなと居る方が安全』……美緒と最後に別れた時、俺はそんなことを考えていた。

 あの時感じた不安に、彼女を引き留めておけばよかったと後悔が(つの)る。


「俺は阿呆(あほ)か……」


 闇雲に走り出そうとする俺を、ヒルドが「待ってよ」と引きとめる。


「あの口ぶりだとミオはハイドと一緒なのかもしれないけど。まずはクラウ様の所に行ってみない? ティオナ様が居るはずだから」


 「そうだな」と(うなず)きながらも、どこか遠回りな気がしてしまう。けれど二人の手掛かりは何もなく、そうするのが懸命だと自分を納得させた。


 通りすがりの侍女にクラウの部屋を聞いた。

 メイド服でポニーテールの彼女は、最初「えっ」と戸惑っていたものの、俺に気付くとすぐにその場所を教えてくれた。


 城の中階。

 元老院の議事室のように特別なエリアになっているのかと思ったが、想像よりも普通だった。だいたい、さっき城を巡った時に一度ここを通っている。


 他の部屋と同じ扉。クラウ自慢の南側の庭には面しておらず、東を向いた部屋だった。

 侍女が教えてくれた目印は、ドアノブのすぐ上に彫られたグラニカの紋だ。見落としてしまいそうな小さなものだったが、ヒルドが「ここだね」と確認して扉を叩いた。


 返事はなかったが、物音が聞こえてすぐにそれは開かれる。

 最初に青い髪の毛が見えて相手がティオナだと分かった俺は、ごくりと息を呑んだ。

 中から現れた彼女は、若い姿のままだ。俺たちを見るなり「いつも一緒だね」と苦笑し、「クラウ様はまだ眠っているよ」と声を潜め、部屋へ招き入れた。


 彼女の姿にミーシャの言葉を重ねて、俺は激しい(いきどお)りを覚えたが、ヒルドに「ダメだよ」と(なだ)められ、どうにか胸に抑えた。


 入口は他の部屋と大差なかったが、中は想像以上に広かった。飾られた調度品の一つ一つも、俺に用意された客室とは比べ物にならないほどだ。

 窓際のベッドに眠るクラウの傍らにメルの姿を見つけて、俺は「あれ」と声を掛けた。


「二人とも。クラウ様がまだ目を覚まさないの。さっきまでリトが居て、寝てるだけだから大丈夫だって言ってくれたんだけど」


 彼女の親衛隊であるヒオルスは、ここに居なかった。

 メルは不安げな表情をクラウに向けて、小さな椅子に腰かけたまま彼の手を両手で握りしめている。


「怪我したわけじゃないのか?」


 聖剣が抜けなかったからとは聞いたが、中央廟の底で実際何があったのかを俺は知らない。

 眠り姫のように目を閉じたまま、何を思っているのだろうか。


「これは、どういうことなんだよ……」


 パタリと扉を閉めたティオナの背を見据えて、俺は絞り出すようにその言葉を吐いた。感情のままに言ってしまったら、怒りを抑えられない自信がある。

 自分の腹部を鷲掴みにしながら、元老院議事室で聞いた話を一つ一つ彼女に伝えた。


「本当なのか……? 聖剣を抜かせるために、保管者を消すってのは……」

「あんのペラ娘がっ!」


 俺の言葉に表情を険しく歪めたティオナが、突然声を上げた。

 ミーシャの言動に苛立ちを見せるのは、きっとそれが本当のことだからなのだろう。

 

「本当なのか?」


 俺はその言葉を繰り返した。


「アンタは知らなくてもいい話だよ」

「だから、本当なのかって聞いてんだよ! お前たちは最初から美緒を殺すためにこの世界に連れて来たのか? あいつをどこにやったんだよ!」

「やめなさい!」


 カッと血を上らせた俺に、メルが立ち上がって叱責(しっせき)を飛ばした。

 メルは大きな音にピクリとも動かないクラウから離れ、ティオナの前で頭を下げた。


「ティオナ様、申し訳ありません」

「貴女が謝ることではありませんよ」


 首を横に振るティオナ。

 メルに謝罪を促されたが、俺は謝る理由なんて一つも見つけることができなかった。彼女がこの世界にとってどれだけ偉いかなんて俺には関係ない。

 それでも、メル隊の隊長として部下の無礼に頭を下げた彼女に恥をかかせるわけにもいかず、俺は無言のまま頭を下げた。隣でヒルドが「それでいいよ」と言わんばかりに小さく顎を引く。


 メルはまだ不満そうな顔をしていたが、俺に一呼吸分の睨みをくれると再びティオナに顔を向けた。


「無礼には変わりません。元老院とティオナ様のお考えあっての事。我々が口を挟める話だとは思っていません。けど、ユースケは当事者だと私は思います。話せることだけでも話していただかなければ、彼は納得できないはずです」


 黄色い熊のワンピースを着たメルは、幼い少女の顔でそんなことを言った。

 ティオナは「貴女も変わらないですね」と呟いて、数秒間目を伏せる。


「大人しくする魔法を打ち込んでやろうかと思ったけど、流石メルーシュ様だ。私だって手荒な真似はしたくないんだよ」


 それが本心かどうかは分からない。

 ティオナは胸の前に両手を広げ、その真ん中に白い光を生み出した。

 攻撃を予感して、俺はぎゅっと身を縮めるが、すぐにそうじゃないと理解する。

 光は徐々に光沢のある球体を形どって、俺はその答えに辿り着くことができた。


()みの(たま)……?」


 俺は眩しさに目を細めつつ、「そうだよ」と答えたティオナの返事に緊張を走らせた。




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