晩餐会にて 前編
そっとナイフを滑らせ、魚の肉を切り取る。
一口頬張ると、強い香辛料の香りが鼻を突き抜ける。
貴族の食事とやらは味付けが濃すぎる。
高級品の香辛料や砂糖をふんだんに使うのが良いとされているらしく、どれもが味が濃い。
私は下町の食堂の方が良いな。
そして、まわりの誰だこいつ、という視線が突き刺さる。
周囲が優雅に会話を続ける中で、ぽつんと、浮きまくっている私とリリム。
高い金を払って急いで作った服は、それでもまわりの絢爛豪華な服と比べると地味すぎて浮いているし。
そもそも、登城するために急遽借りた貸し馬車も悪目立ちしていた。そこから始まった周囲の奇異の視線が今も続いている。
今は、シロガネをロイに探してもらっているから、我慢だ、自分。
そう自分自身に言い聞かせ、薄ら笑いを張り付け、無駄に胸を張って食事を続ける。
・・・・・・負けるもんかっ
(はっ、これは精神的ダメージを狙った敵の攻撃なのでは・・・)
そんなことを考えながらリリムに視線を向ける。
濃紺のノースリーブのドレスが、リリムの褐色に焼けた肌に合い、エキゾチックな雰囲気を醸し出している。
そんなリリムは私以上に、奇異、好奇の視線を浴びながらも、美味しそうに無心に料理を食べている。
なぜ、こんな味の濃いものをあんなに沢山食べれるのか、不思議だ。
そうして、何とか食事の時間を乗りきった。
後半はひたすら各テーブルに活けられている紫陽花の花を眺めていた。
晩餐会、想像以上の強敵だった。
多大なるダメージを負わせてくれたものだ、私のハートに。
本命のロイが戻ってこない。
これはいよいよ何とか抜け出して、私が探しに行くしかないかと思っていると、メイドがお盆に紙を載せてこちらに歩み寄ってくる。
そのメイドが、お盆から紙を取り、手渡してくる。
裏返してみる。
メッセージカードらしい。
カードには、
「談話室でお待ちしています」
とだけ書かれていた。
そのメッセージを読んでいると、メイドが、お辞儀をして口を開く。
「カルド様、ご案内致しますので、ついてきてください。なお、こちらは男性専用となっております。」
リリムの方を見ると、まるで、ここは任せた、と言っているかのような良い笑顔でサムズアップしていた。
その反対の手には追加した食べ物がしっかり握られている。
(こいつ、食事しに来ただけだろ。というか、晩餐会でおかわりって!)
と思いながら、一人メイドに連れられ談話室へ向かった。
談話室に到着する。
シックな赤基調で調えられた部屋。魔道具の光で煌々と照らされた室内はまさにこの国での権力を誇示しているかのよう。
そんな部屋のなか、貴族の中年男性が1人、ソファーに座り、お茶を飲んでいた。
案内してきたメイドがお酒とお茶とどちらにするか聞いてきたが、どちらも断り、対面のソファーに座る。
(確かこいつが今回の会の主催者か。)




