紫陽花を愛でる晩餉の集い
錬金術で一通りのものを作り終え、片付けをしていると、扉がノックされる。
リリムが帰ってきたかなと開けると、宿の女主人が立っていた。
変な顔をしている。
こちらを警戒しているのか、他に心配事があるのか、そんな、あやふやな表情だ。
手に持った封筒を渡してくる。
「お客さん、これ、この街の裏カルテル経由で届いているよ。あんた何者だね。」
何者と言われても困るので、無言で手紙だけ受けとる。
その様子を不安げに見ていた宿の女主人だが、結局何もそれ以上は言わずに去っていく。
部屋に戻って手紙の外側を検分する。
蝋で封がされて紋章の印が押されている。初めて見た。
それ以外に宛名も差出人も書かれていない。
開けるか迷っているとリリムが帰ってきた。
「ただいまー。面白い情報はいくつかあったけど、手掛かりはなかったー」
酒臭い。
私は微妙に距離を取る。
手の中の手紙を眺めながら、リリムに生返事を返していると、ひょいっと手紙を奪われる。
「あっ、」
そのままビリビリ破り出すリリム。
「勝手に開けるなよ」
思わず文句を言うが、リリムはどこ服風で手紙を読み始める。
これだから酔っぱらいは・・・。
取り返そうと手を伸ばすが、そのまま手を頭の上まで上げて、仰ぎ見ながら読み続けるリリム。
と、届かない、だと。
いや、リリムの方が背が高いのは知っていたけどさ。
実力行使するのも大人げないので、諦める。
「リリム、読み終わったら返せよ。」
「読み終わった。食事会の誘いだな。貴族からの。」
そう言いながら手紙を渡してくるリリム。
ざっと流し読みをすると、確かに三日後の『紫陽花を愛でる晩餉の集い』と言う、食事会のお誘いらしい。最後に差出人らしき貴族の名前があるが、当然知らない名前だ。
「その貴族は軍閥系のかなり上位のやつだぞ。なんでそんなのから手紙を貰っているんだ、カルドは。」
「なんでだろうな。今回の一連の騒動の仕掛人が自信満々で挑発してきているとか?」
「居場所まで知られているってことは、そいつの手のひらの上で転がされているんじゃないか、俺たち。」
「それは否めないが。」
その時、ロイが戻ってきた。
どうやら収穫は無いらしい。
しょぼんとした雰囲気のロイをこっそり慰めておく。
「そういや、リリム。面白い情報って?」
「ああ、英雄様が戦線から戻ってきてるらしいぞ。何でも三日後には王都の晩餐会に出席するんだと。普段は駐屯地にいて王都の中にはなかなかいらっしゃらないから、ファンが一目見ようと騒いでた。」
「ふーん。ミーハーなのはどこにでもいるんだな。」
「ミーハーってなんだ。」
「いや、何でもない。この『紫陽花を愛でる晩餉の集い』とやら、出るしかないな。他に手掛かりがない。」
「そうか。じゃあエスコートされてやるから、ドレスはよろしくな。」
「エスコート?ドレス?」
「貴族の食事会なら当然晩餐会になるぞ。ドレスもエスコート相手も必須に決まってるじゃないか。カルドも正装しなけりゃ舐められるぜ。」
「・・・服がない」
「三日もあれば金積めば何とかなるさ。おすすめの店、あるから行こうぜ。」
そういうとリリムはなぜか楽しそうに私の腕を引っ張る。
そのまま強引に引きずられ、服屋に行くこととなってしまった。
やれやれ。




