転進
それは突然だった。
それまで定期的に受け取っていた二体目のシャドーからの連絡が途絶えた。
そもそも、連絡はステータス画面に、文字のメッセージとして届くように、シャドーのスキルを調整していた。
ゲームの時のシステムを再現するここ数年の研究のなかで、偶然生まれた副産物で、かなりコストの高い仕様となっている。
具体的には、使い魔につけられるスキル、ステータスの補正のキャパシティの、ほとんどをこのメッセージ送信機能のスキルで使ってしまっている。
燃費も悪くて、一日数十文字の送信が限界だった。
緊急時以外は毎日深夜に一度、シロガネの様子を定期送信するようシャドーにお願いしていたが、昨夜のメッセージがなかった。
その代わり、シロガネの危機を告げるメッセージが残っていた。
内容は国軍に捕まり、王都に連行されると言うもの。
なんでも私が手配されていて、巻き込まれたらしい。
そして何より不安を煽るのが、メッセージが途中から文字化けしていて読めない。
その後も何度か短いメッセージをシャドーは送っているようだがすべて文字化けしてしまっている。
まるで何者かにジャミングされてしまっているかのようだ。
朝食の席でそんなメッセージをこっそり見て、難しい顔をしてしまっていたのか、リリムに心配されてしまった。
冷静じゃなくなっている自覚があるので、気を落ち着けるため、リリムと軽く話すことにする。
「口元の血、だいぶ落ちてきたね」
「ああ、もう少しで御祓も終わるよ。俺の事情に巻き込んでしまって申し訳なかった」
「いや、まあ。そういやあの海エルフたち、なんでリリムの居場所がわかったんだ」
「奴らの54船団には有名なドリームウォーカー、まあ、人間で言うところの夢占い師がいるんだ。」
「へー」
(この世界、夢占い系のスキル保持者が多いのか?確かイブの傍にもいるんだったよな。)
「そういや、さ」
「なんだ、歯切れが悪いし、何かあったか?」
「細かく説明は出来ないんだけど、ちょっと心配な相手がいるんだ。さっきわかったんだけど、王都に様子を見に行こうかと思ってさ。」
「おお、当然、俺もついていくからな。カルドが自分から誰かを助けたいだなんて。さすが俺を助けてくれた恩人だ!」
リリムはそう言うとカラカラと笑っている。
(そんなんじゃないんだけど、まあ、こういうのも意外と悪くないか。)
「ここら辺からだと山越えか、もしくは街道を行くならガロア砦の近くまで行って山を迂回するしかないよな。どちらが早いと思う?」
「カルドは急いでいるのか?」
「出来たら急ぎたい。」
「なら、良い道知ってるぞ。」
「・・・本当に良い道なのか?」
「ああ!山越えや迂回より断然早いね。今日1日歩けばつくから、俺に任せとけ。」
そう言うと、話は終わったとばかりに出発支度を始めるリリム。
普段より二割は元気で煩いリリムに急かされ、しぶしぶその後ろを着いていく。
しばらく街道を戻ると、そのまま道をそれ、獣道にわけいっていく。
リリムは腰のカットラスを抜き、豪快に藪を切り裂きながら進む。
途中、小休止を挟みながら進み続け、日も落ちるかと言う頃、山脈の裾野に着いていた。
(やっぱりここから山越えするのかな)
私がそう思っていると、リリムは何かを探すかのように、辺りをうろうろし始めた。
ようやく何か見つけたらしい。
(何見つけたんだ?何もそれっぽいものは見当たらないけど。)
自信満々で藪を切り開き進むリリム。
さらにしばらく進むと、ようやく着いたのか、くるりと振り返り、口を開いた。
「カルド、着いたぞっ。ここが地下洞窟の入り口だ。ここを行けば山を抜けれるぞ」
そういって自慢げに示した先には、人一人がようやく入れるかといったぐらいの、苔むした岩の裂け目があった。




