表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルMAX錬金術師がゲームと少し違う異世界に転移したけど、下町で冴えない薬屋をやってたら訳あり少女を拾ってしまって  作者: 御手々ぽんた
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/53

塔の中の錬金術師

 三叉路の町を出てから数年がたった。


 私はクレナイと世界各地を巡ってきた。


 そこで、様々な触媒を手に入れることができた。


 今ならゲームの時の三割ぐらいの品物が錬金できる。


 しかし、この世界で出会った様々な謎については何もわかっていないに等しい。


 私は今はとある場所で手にいれた塔に住んでいる。


 近くの漁村で、管理者が居なくなったからと格安で買ったものだ。

 かわりに塔の頂上で火を絶やさないことをお願いされたが。

 どうして放浪をやめ、今この塔に定住しているかは二つの理由がある。


 今日はそのうちの一つ目の理由に、ひとまずの結果が出る日になるはずだ。


 私は部屋の中央に鎮座する大きな純白の壺に近づく。


 表面は私自身が刻んだ細かい紋様に覆われている。


 紋様自体に意味はない。


 今も肌身離さず持っている、このアジサイの刺繍されたハンカチが、アジサイの絵自体には何の効果も無いように。


 もちろん、魔力を物体に込めるのに、何をモチーフにするかは非常に重要であることが、この数年の研究で解ってきている。

 自分自身に思い入れのあるモチーフにするのと、どうでもよい落書きだと、明確に効果に差異が発生するのだ。


 そういう意味では、イブはアジサイに強い思い入れがあるのだろう。

 私はこのイブのくれたハンカチ以上に魔力纏い効率の高いものを作れていない。

 私とイブの才能の差はあれど、それだけでは説明出来ない差がある。

 多分イブにとって、アジサイは自分自身を象徴するような花なのだろう。それほどまでに強い思い入れがなければ、ここまでの品にはならないはずだ。


 あれからイブには会っていない。

 たまにステータスでロイの無事を確認するだけ。


 風の噂では北の異形達との戦いは膠着状態らしい。

 誰も認めないが。


 イブは今では世界的な有名人だ。


 曰く、人類の希望、純白と鮮血の剣鬼、救国の英雄などなど、イブを祭り上げるプロパガンダは無数にある。

 実際にイブが戦場に立てば連戦連勝。一気に戦線を押し上げるらしい。


 そして、イブが北伐に発ってから数ヵ月で、奪われた国土は回復したらしい。

 しかし、その後は推して知るかな。

 イブ一人がどれだけ頑張ろうが、イブの居ない戦線では押し込まれる。

 イブは転戦に次ぐ転戦を余儀なくされ、結局戦線は膠着状態らしい。

 もちろん、こんな話、戦時下でしたらただでは済まないから誰も大っぴらには話せない。

 でも、この塔の近くの漁村の村人が知っている噂話をまとめればわかる程度のこと。

 それだけ、この国は今、疲弊している。


 そう、ここ数ヵ月のことを追想している間にも、いよいよ時間が迫ってきた。


 純白の壺に手を伸ばす。自身で壺の全面に刻んだネリネの紋様にそっと指を這わせる。


 微かに伝わってくる振動。


 ほんのりと温かい熱。


 私は何の魔力も込めず、ゆっくりと、ただ壺の中に届けるように歌い出す。


 私は壺に両腕を回し、額を当て、歌い続ける。


 それは追憶の歌。

 新生をことほぐ歌。

 ゲームの時にはなかった歌。

 私が数年の放浪でたどり着いた数少ない答えの一つ。


 まるで、私の歌に答えてくれるかのように、壺が大きく揺れる。


「いよいよか!」


 私は一歩下がり、固唾をのんで見守る。


 激しく揺れ出す壺。


 やがて硬質な音が響き、ついに壺にひびが入る。

 私の掘った紋様に添って、徐々に大きく、広がっていくひび。


 そうして、ついに壺が完全に割れる。


 なかから溢れ出す、深紅のポーション。

 壺の周りにあらかじめ用意していた排水路に流れ込み、排出されていく。

 ポーションが流れ出した後には、壺の破片にまみれた裸体の人型の姿がある。


 ゆっくりと立ち上がる、それ。


 目を明けこちらを見る。


 私はその姿を見て、感動にうち震える。


 声をかけてみる。


「こんにちは。この世界へようこそ。私の初めてのホムンクルスさん」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ