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レベルMAX錬金術師がゲームと少し違う異世界に転移したけど、下町で冴えない薬屋をやってたら訳あり少女を拾ってしまって  作者: 御手々ぽんた
第一章

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勝利と撤退

(イブ、生きていて良かった。しかし、なんなんだあれは。)


 遠目に見えるイブは、人間離れしたスピードで剣を振るい、次々に敵を屠っている。


(あの金色の輝きは魔力か?もしかして、こっそりロイに伝えていたイブの歌の秘密を、ロイがイブに伝えた?確かにいざという時はイブに伝えるようには指示していたが)


 私はイブの変わりように瞠目する。

 初めてイブが針に魔力を纏わせていたときからに、身体のスタミナ強化にも使える可能性は考えていた。

 しかし、それは訓練の効率が劇的に上昇する、程度だろうという見積もりだった。

 それも、劇的に増加するスタミナが無限の体力となって、訓練が急激に進む、ぐらいの。


 まさか半日見ない間にあそこまでの強さを手に入れるとは。


 町の兵士達が私のポーションを使って何とか倒している敵を、まるで紙で出来た人形のように軽々と引き裂き、殺している。


 急速に敵を斬り倒し、町に近づいて来るイブ。


 私の暴走魔石のポーションで生じた惨劇に気をとられていた町の兵士と敵達も戦いを再開しつつある。


 イブは今やすっかり敵に囲まれ、それでも、その驚異のスピードで全方位の敵を切り伏せ、着実に町へ向かって来る。


 敵の集団は明らかに、町の兵士達と、イブ、それぞれを狙う集団に別れ始めている。


 これまでとは比べ物にならない数の敵の集団が、イブを押し潰し殺そうと向かいだす。


 イブはそんな様子を一向に気にしたふうもなく剣をふり続け、血路を作り続ける。


(このままじゃ、イブがどんなに強くなったっていっても、数に押し潰されてしまう。何とかしなきゃ。新しい私の暴走魔石のポーションで、少しでも敵の気を引かないと。)


 私は相変わらず震えていた右手を握りしめる。


 その手を振りかぶり、全力で、握りしめた拳を自分の足に叩きつける。


 まるで巨大なハンマーで分厚い皮をまとった生肉を叩いたかのような、鈍い爆音が響く。


 その衝撃で強引に右手の震えを押さえ込む。

 待機していたクレナイに、イブと町から十分に離れ、かつ、イブに向かっている敵の集団に当たるようポーションを投げてとお願いする。


 再度、その粘体を長く長く伸ばし、投擲体制に入るクレナイ。


 一瞬の停滞の後、急激に縮み、ポーションが加速される。


 放たれるポーション。


 先程よりも大きな放物線を描き、山なりに町の壁を越えていく。


 そのまま敵の集団の真ん中に着弾。


 私は、覚悟する。

 自らの手で作ったものが、自らの指示によって引き起こす惨劇から、せめて目を逸らさないように。


 やはり最初は何も起こらない。


 そしてすぐに溢れ出した魔力が世界に変革を起こそうと干渉し始める。


 魔力が触れた大地は、今度はどろどろに融け出す。まるでマグマのように煮立ち初めた大地。


 ポーションの落ちた地点、最も近くに立っていた異形の敵は、自らの足が急に大地を踏みしめていないことに気づき、一瞬狼狽の表情を浮かべる。

 しかしすぐに、灼熱の泥となった大地に徐々に徐々に飲み込まれて行き、その表情をひきつらせる。

 足先の皮膚から伝わる熱が一瞬で体組織内部まで伝わり、焼き付くす。

 燃え上がることすら許されず、しかし意識を保ったまま、体を徐々に焼き付くされていく敵。

 その頃には灼熱の泥は町の外の平原の2割ほどまで広がり、幾千匹の敵達が阿鼻叫喚、各個体が怨嗟の声を上げ始める。

 そこに今度は大気に接触した魔力が、空気を暴風に変えていく。


 その暴風は溶岩と化した大地すら波立たせ、敵達は一気に大地に灰と化しつつ飲み込まれていく。


 暴風に乗って拡散される溶岩の雨。飲み込まれた大地の周りに立つ敵達へ、容赦なく降り注ぐ。


 あるものは顔に、あるものは腕に、溶岩の雨を浴び、一気に燃え上がって行く。


 もう敵達は半分も残っていない。さすがに浮き足立つ敵達。


 二度目となる惨劇、前回を超える地獄の出現に再度争いが止まり、皆が注目する。


 そんな中でも止まらず、それどころが更に加速して敵を屠り続けているイブ。


 地獄を恐怖に満ちた視線で注視していた兵士達も、その中で唯一動いているイブに段々と注目し始めていく。


 ざわざわとした兵士達の会話がここまで聞こえて来る。


「おい、あれ、」


「あれ、人間だよな。女の子か」


「そうだよ、人間の女の子、」


 切れ切れに会話が私のところまで届いてくる。


 その間にもイブは町へと近づく。

 イブの伸びやかで美しい歌声が町へと届き始める。


 すでに浮き足だっていた敵達は、変わらず自分達を機械のように屠り続けるイブの存在がもたらす、目に見える脅威に後押しされたのか、はたまたその変わらぬ歌声に恐怖したのか、退却し始める。


 イブがもうすぐ到着しそうなぐらいになると、兵士達のざわめきが段々と、応援へ、そして歓声へと変わり始める。


「なんと美しい歌だ」

「神々しい、神の使い、」

「黄金だ、黄金の歌姫だ」


 兵士達の歓声に混じり始める崇拝の響き。

 兵士達はまるでイブが大軍を一人で追い払ったと思いたいのだろうか。

 人間離れしているとはいえ、見慣れた人間の少女が敵を撃退したと思う方が、訳のわからない、急に出現した地獄絵図に助けられたと思うより、納得しやすいのかもしれない。


 逃げ惑う敵達のなか、イブが町の門へと到達する。

 爆発する歓声。

 兵士達は急いで塀から降り、歓声をもってイブを出迎える。


 歌を止めたイブを兵士達が恭しく迎える。


 私はイブが無事に町までたどり着けたことを見届けると、こっそり誰にも見つからないよう、屋根から降り、そっと店に戻った。



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