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神からのお祈りメール

 転生して辺りを見回すとそこは一面の草原だった。


 足元に紙が落ちている。

 拾ってみる。


 ざらざらとした手触り。触ったことはないが、羊皮紙のようだ。

 裏に何か書いてある。


『拝啓 転生者殿


 お約束のゲームのスキルの付与には成功するも、

 転生場所にズレが発生。

 諸事情により修正はかなわない事となりました。

 幸多き第二の生をお祈り申し上げます。


 神より』


「お祈りメールか!お前が神だろ!諸事情って何!街どこだよ!」


 思わず叫び声が漏れてしまった。


 気を取り直して今の自分の格好を確認する。


 身に付けているのはゲームの初期装備と同じ布の服。

 足元は革の靴。


「インベントリ」


 ゲームの時のように唱えると、透明なウィンドウが目の前に表示される。



 インベントリ

 ・触媒:純水 × 1

 ・ビン × ∞


 どうやらゲームの時の、錬金術師がメイン職の初期アイテムのようだ。

 ここら辺は神が言っていた通りか。


 ついでにステータスも確認する。

 ゲームで見慣れていた数値が並んでいる。


 あとは実際にスキルが使えるか確認するか。


「インベントリ」


 私は再度インベントリ画面を表示させると、触媒:純水の項目をタップする。


 手の中にちょっとおしゃれな感じで装飾の施されたビンが出現する。


「ふーん。こんな感じで出てくるのか」


 軽くビンを振ると中に水が入っていて、ぴちゃぴちゃ音がする。


 左手に持ちかえ、次にビンを取り出す。


 コルク栓のされたシンプルなガラスビンが出てきた。


 コルク栓を開け、ビンは右手に持ち、

 早速錬金術のスキルを使ってみる。


 初級マナポーション作成と念じると、体が反応し、魔力を練り始める。

 ゲーム時代に何千回と唱えていた呪文を、口が覚えているかのように歌い出す。


 歌に合わせて練られた魔力がゆっくりと、触媒である純水のもつ「水のイデア」を経て、液体へと物質化し、初級マナポーションとなってビンの中に溜まっていく。


 数十秒の間、流れに身を任せて歌い続ける。ビンがいっぱいになった所で歌をやめ、コルク栓をして完成。


「ふー。できたできた。やっぱりここは神が言ってたみたいにゲームに近い世界みたいだな。無事にスキルも使えそうだね。魔力を練るのもなんとなくできたし」


 錬金術士のスキルである物品鑑定を使って確認するとちゃんと初級マナポーションと表示される。

 そうしてスキルの確認がてら初級ポーションを量産していると、前方から馬車の音が聞こえてきた。


 馬二頭立ての幌馬車が近づいてくる。


 御者と、隣に剣を携えた男が見える。


 どうやら今、私がたっている場所は街道のようだ。あまりに草が生え繁っているので草原かと思っていたが、よく見れば周りよりは幾分まばらで草の背丈も低い。


 私は曳かれないように草を掻き分け、街道の端に寄る。


 目の前で幌馬車が止まった。手綱を握ったまま、御者が声をかけてきた。


「そこのお方、こんな町から離れた場所でそんな格好でどうされました?」


 日本語で話しかけられたことに安堵する。

 御者は髭面で表情が読みづらい。

 隣の男は警戒しているのだろう。腰の剣に手を添えている。


「はじめまして。私は薬師を生業としてますカルドと申します。このような格好で失礼します。この格好等は込み入った訳がありまして」


 軽くお辞儀をして、ひとまずゲームの時の名前を名乗っておく。


「これはご丁寧に。私は旅商人をしております、ラインバルブと申します。こちらは友人のケルスナーです」


 そう言ってラインバルブは隣の剣を携えた男を紹介する。ケルスナーは相変わらず無言のまま、時たま視線を周囲にやり、警戒しているようだ。


「こちらこそご丁寧にありがとうございます。このような怪し風体の男が街道にいて、驚かれたでしょう。実は色々と困っておりまして」


 そう言うと私は弱々しくさも困ってますと言った感じの笑みを浮かべた。


「さもありません。そのご様子だと盗賊にでも遭われましたかな?」


 ラインバルブもさも心配そうと言った表情を浮かべて話している。


「ええ、だいぶ色々と失ってしまって。幸い、ごく小さいながらインベントリ持ちでして、何か買い取っていただけたらなと」


 ラインバルブの瞳がギラリとひかり、笑みが深くなる。


「それはずいぶんと良いスキルをお持ちなのですね。ぜひともお持ちの品、拝見させてください」


 私はだいぶ買い叩かれそうだなと思いつつ、原価ゼロだしと思い直し、先程最初に作成した初級マナポーションをインベントリから取り出し、ラインバルブに手渡した。


「お恥ずかしながら思い入れはあるポーションでして」


 ──何せこの世界で最初に作ったものだし


 ラインバルブは手の中のビンをまじまじと見て、顔色を変えた。


「な、なんと! こんなに透明なガラスは見たこともない。中身はポーションと言っていたが全く濁りもない。これはもしや噂にきく霊薬……!?」


 ラインバルブの独り言のような呟きは、声が小さくて後半はよく聞き取れなかった。


「一滴、試薬に使ってもよろしいですかな」


 ラインバルブは恐る恐る尋ねてきた。


「どうぞどうぞ」


 私は許可を出しつつ、ビンにもラインバルブが驚いたことを心にとめておく。


「ケルスナー、頼む」


 ケルスナーはラインバルブに一つ頷くと、馬車の中から小匙と黒い石を取り出してきた。


──あれは鑑定石かな。やっぱりゲームと同じようなアイテムもあるんだな。


 ラインバルブは慎重にポーションのビンの蓋を開け、小匙でほんの少しの初級マナポーションを掬うと鑑定石に垂らした。


 鑑定石全体が青色に染まり、元に戻る。


──やっぱりゲームと同じだな。マナポーションだから青く染まった。スタミナポーションなら黄色になるんだろうな。


「この均一な色合い、やはりマナの霊薬! カルド殿が作ったのですか!」


──うん? 名称がゲームと違うな。それに凄い食いつきだ。これは下手に作れるとは言わないと方が良いかもな。


「ははは、秘蔵の品ですが、お眼鏡に叶ったようで何よりです。どうでしょう、おいくらぐらいで引き取って頂けますかな」


 私はラインバルブの問いを流して商談をすすめる。


「確かに秘蔵の逸品といえる品です。しかしこれだけの品ですと手持ちが心もとないのですよ」


 ラインバルブは髭を扱きながら顔をしかめてこちらを窺うようにそう言った。

 その作ったようなしかめ面に内心苦笑しつつ、私は交渉で一歩譲ったことを示すために、先に妥協案を提案する。


「ふむ、町まで行けばどうでしょう。こうしませんか。こちらのポーション、実はもう一つあるのですよ。一つを預けるので、一緒に私も町まで馬車に乗せてもらえませんか。町に着いたらもう一つのポーションもお渡ししますので、そこでポーション2つ分のお値段から馬車に乗せてもらった手間賃の差額を引いた額をお支払いいただければ」


 そして次に譲るのはそちらですよとばかりにラインバルブのしかめ面を真似して眉を寄せた表情を向けた。


「なんと、もう一本お持ちとは! ええ、ええ、是非ともそうさせていただければ!町まで馬車で四時間ほど。手間賃として3万リルとして、ポーション2つで20万リル。お支払は17万リルでいかがですか?」


──一気に値段交渉まできたか。だいぶ足元を見られているのは間違いないけど、状況的には仕方ない。釘だけ差して、ダメもとでポーションの値段交渉だけしておくか。


「ふむ。確かにこんな怪しい私のようなものを町の()()()連れていって下さるなんて、それぐらいの手間賃は仕方ありませんな」


 そこでニヤリと笑って見せて、しっかり責任もって連れてけよとラインバルブに釘を差しておく。


「それとお渡しはビンの中身をそちらの容器にお渡しでも良いですかな?」


 ラインバルブは一瞬詰まり、返答する。


「できればビンも含めて一本12万リルでいかですか」


「ビンは回収したかったのですが、これも何かの縁でしょうし、初めての取引を記念してそのお値段でお譲りしましょう」


 そうして私はラインバルブと商談成立の握手を交わし、馬車に乗せてもらい町を目指した。


──握手をするのは洋風だな。

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― 新着の感想 ―
[一言] ボッタクリじゃ馬車3時間で宿4日でまだお釣りが出る 薬も瓶も買いたたき次の商売に続かないね
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