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第五話

 消灯時間が過ぎた後、布団へと潜る。手には携帯を握り締め、押切部長に貰ったメモを開きSNSアプリTwinsを起動し相手のIDを打ち込む。

 『こんにちは』と打ち込んでみた、これで既読マークが出れば茜が読んだと解かるのだ。


 携帯を握り締める事数分、既読マークが付き、

 【こんにちは】雷親父のスタンプが送られてくる。俺は直ぐに、

 『怒っている?』と書き込むと既読マークが付いた。

 【怒ってないよーなんでー?】と返事、さらに立て続けて、

 【所で相談ってなーに? 人に話せない事があるからって先輩に聞いたんだけど……】と送られてきた。

  行き成り確信を付く辺りさすが天然と言える。そりゃ人に話せる事は内容ではない、君が好きだからーと面と向って話せるなら態々、部長を仲介してIDなんて聞いていない。

 

 『えーっと……そうそう160cm越えおめでとう。俺よりも15cmも高く飛ぶなんて、今度の大会でも県大会余裕じゃないのか』

 【まだまだだよー先輩に追い付くだけでも精一杯、それよりもナツ君だってもっともっと伸ばさないと】

 『茜との差は、たった15cmですし』カバのスタンプをつけて送信っと。

 【あのねぇ、15cmって凄い差なんだよ、仮に私があと15cm飛んだら県内トップレベルなんだから。あっでも男子は女子よりも高く飛べるしナツ君にとってはたったなのかなぁ】


 確かに男女では飛べる高さが違う、全国レベルで言えば男は200cm、女子で言えば170cm、その差は30cm以上も開きがある。やっと140cm飛べる俺はまだまだ伸びるチャンスはあるが既に160cm飛ぶ茜にとってはミリ単位での世界に入ってくる。

 俺は布団の中で文字を打ち込む。


 『あのさ、もしも、俺があと30cm――は無理として後15cm飛んだらさ褒美に何かくれない?』大仏のスタンプを送信っと。

 【なんで私が】ドーナッツにクエスチョンマークが付くスタンプが送信されてきた。

 

 

 御もっともである。

 其処をなんとか、と頼み込むこと数十分俺はようやく茜の許可を得たのであった。

 その代わり大会が終わるまではTwins禁止、真面目に練習する事になった。


 

 寺の朝は早い、俺たちも五時には起こされる、もとい自主的に起きる。何年も使われている雨戸を外すと気持ちい風が部屋の中へと入ってくる。


「いやー今日は朝から天気がいいねー」

「まったくの雨だな」


 俺の言葉に反抗する草薙、確かに空からは雨が降っている。


「いいんだよ、俺の空は晴れているから」

「おっはよー、女子特性の朝ごはん作っているよー。先輩が男子を起こしてきなさいって言われて来たんだけど起きてるね」


 茜が元気良く現れて食事の用意を伝える、俺たち男子が思い思いに部屋を出ると最後に部屋を出る茜が俺の服を小さく摘みだす。


「ん?」


 聞えるか聞えないかのかの声で俺は振り返ると小さな紙を手渡してきた。


「これ、私のメアド。実はSNSってあんまり得意じゃないのよね。用があったらこっちにメールして。じゃっ頑張ろうっ」



 少し赤い顔をした茜が俺の手の中に紙を握らせるとスタスタと走って行く。

 俺は昨日の事を思い出しニヤニヤが止まらない。確かに女の子にしてはさっぱりとしたスタンプが多かったし、俺としてはTwinsのほうが楽だし、でも苦手ならしょうがない。約束なので大会終わるまではメールも少し控えたほうがいいかな。合宿は今日で終りだが俺の恋人ゲット野望は此処から始まろうとしていた。


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