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批評の先について

 もうそろそろ批評はやめようかと思っている。批評という形で言いたい事を言うのができなくなってきている。その代わり小説の方が軌道に乗ってきたと感じているのでそちらに移行していこうと思っている。


 「言いたい事を言う」「自分の中にあるものを表現する」という事は簡単なようで難しい事だと常々感じている。僕は批評の最後に「自分はこう考える」「こう思う」という言葉をよく使う。それはある人には独断と見えただろうが、違う意味も入っている。結局の所、現状、自分はこんな風に考えるしかできない、という意味も入っている。己の独断と、それを相対化する目と、両方入っているつもりだが、僕のブログを読んでいる人には独断としか見えないのかもしれない。


 批評は結局は、告白であり、自分の思考、思想の吐露である。それはなんだってそうだ、と言う事もできるが、しかし、単に思想表白では物足りなくなってくる所に別の表現が生まれる。


 ミハイル・バフチンの理論を辿っていくと、「小説」というのはそういうものではないかと思う。小説は作者の声が屈折している。声は、プリズムに当たった光のように分散し、屈折して、一つの世界を作り出す。作者の声は絶対的な声ではなく、作品それ自体が作者の声である。では、作者はどうしてそんな面倒な事をしなければならないのか。


 これに関しては非常に難しい問題と感じている。作者の世界に対する言明が素直に価値があると信じられ、それに大きな意味があれば、小説という面倒な問題は作る必要がなくなる。


 色々な見方があるが、僕はヘーゲルの言う『外化』が妥当だと思っている。ある種の言明、告白、説教といったものは、作者から読者への一本の線である。そこでは読者は作者の意見に従うか従わないか、少なくとも、それを吟味する事が求められる。しかし、『作品』は作者と読者の中間に浮かんでいる。『作品』は説教ではなく、あくまでもそれ自体を目的として存在している。


 小林秀雄は真の作家というのは、自己廃棄をした事があるーーそんな風な事を言っていたが、その理由もここで明確となる。作品は作者を殺しもする。作品は作者を押し上げる道具というより、むしろ、作者から独立して運動する何かである。だとすると、作者はどうしてそんなものを作らねばならないのか。『作品』という世界が生まれるには作者が一度死ぬ必要がある。自己の廃棄の経験が、作品という独立世界を要請する。自らに屍を感じた人間が、作品という生を再び生む。


 そのようにして、作品は、それを作った作者を越えていく。作品は単なる道具であり、作者である『私』がのし上がるための素材に過ぎない。こうした考えを持っているのであれば、その人はやがて、作品を作るのをやめるだろう。彼に必要なのは「作品」ではなく、「私」であるからだ。が、「私」が終わった後に「作品」はある。


 こういう考えはおそらく、芸術至上主義と取られる事だろうと思う。本当はそんなふうなものではないと思っているが、ここで説明するスペースはない。これからは、批評はあまりやらなくなるのかもしれない。「私」(ヤマダヒフミ)が何かを言い、それを「読者」(これを読んでいる人)がどう受け取るのか、その形式とやり取りそのものが作品内に形として入ってこなければならない。小説というジャンルは充分そういう度量があるし、そういうものを活用していきたい。そんな風に思っている。

 

 …ちなみに、この文章自体も当然、批評的な文章である。この文章もやはり、『ヤマダヒフミ』という別になくてもいいはずの作者名が入っている。こうした名前を越えていく事がこれからの課題となるだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言]  普遍性についての語りだと思いました。  そして、批評は作り手の為にあると思うから、受け手に対しては、小説を書く必要があると思うし、つまり、ヤマダ氏が小説を書こうとする気持ちは、そういう事…
[一言] 埋め込まれた人間性は、作品に現れるので、仕方ない事象ですね。いくら足掻いても、変わる事はない。 「作品とは」という問いには、簡単に答えが出せないですし、書く事によって分かった気がするのでしょ…
[良い点]  ヤマダヒフミさんの批評者としての「死(の予感)」と、新たな可能性としての「小説」が語られており、一つの転換点といえる(かもしれない)ところです。 [一言]  初めまして。 ヒフミさん(あ…
2017/05/12 23:10 退会済み
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