私、先輩のお姉さんがイタイことを知る
遅刻から始まった5限目が終わり、北川先輩は昼休み同様、机の上でふて寝していて、神崎先輩はもうバスケットの練習に行ってしまっていた。
そういえば、私は北川先輩に触れることは出来るのだろうか。
私は物を触ることは出来ない。けど、この半透明の鎖や首輪は触れた。
となると彼に対しては触れることが出来るのではないだろうか。
恐る恐る先輩の頭を突っついてみると、何かに当たったような感触がある。
どうやら予想通りのようだ。
ふふふ、いいこと思いつきましたよ…。
私はふて寝している先輩の耳元に顔を近づけ、そして、大きく息を吸って大音量で叫んだ。
「きたがわせんぱいー!バスケ、見にいきまし」
「やかましい!…あ」
彼から大音量のツッコミが返ってきたが、これも計算の内。私の声は他の人には聞こえないが、先輩の声は聞こえる。
ずっと寝てた人がいきなり大声で叫んだら周囲からの目線が冷たくなるのは当然なことだ。
ふんっ。素直にバスケを見に行けばよかったものを。
「光ちゃーん。真人は誰に言ってるの?」
「しっ。見ちゃいけませんよ」
「お前らはお前らで黙れよ、佐々木コンビ」
ふふふ、でもこれで北川先輩もどっちが立場として上か、わかったでしょう。
「それじゃあバスケ見に行きましょう、先輩!」
「……」
「いやだ~!神崎先輩のバスケット~!」
「駄々をこねるな、小学生か」
数分後、私は帰宅する先輩の鎖に引き摺られていた。
互いに干渉し合うことは可能でも先輩のほうが圧倒的に力が強いようだ。
となると力が逆転するのは『入れ替わり』の時しか…。
「先輩、もう一度ボタンを」
「押さない」
「あ!あんなところにUFOが!」
「興味ない」
「…先輩、実は私…幽霊なんです!」
「だからどうした」
うう、取り付く島もない。
「い~や~で~す~!家に連れ込まれて暴行される~!」
「いかがわしい言い方をするな!」
私の抵抗はむなしく、そのままずるずると引き摺られていった。
「ふぅ、ただいま」
彼の家に着いた時にはまだ日は下っていなかった。
「ああ、おかえり。我が弟よ」
リビングと思われる部屋には黒髪でかなりラフな格好の女性がソファーでゴロゴロしていた。
「…姉さん、学校は?」
「午後は体育があったからね。早退という名のサボタージュを実行した次第さ」
眠いからか彼女は目をゴシゴシと擦っている。
「…よくわかんないけど、そんなんで出席日数足りるの?」
「それは愚問というヤツだよ、我が弟。世界的に有名なアインシュタインも『物事はすべて、できるだけ単純にすべきだ』と言っている。私にとって出席日数なんて許される範囲の誤差0まで単純化したいものだね」
「…つまり、面倒だから行かなかったってこと?」
「理解が早くて助かるな、我が弟。あ、そうそう、今晩は父君も母君もいないから私が夕飯を作ろう。弟は湯船に浸かって今日の疲れを癒すといい」
「そうさせてもらうよ」
先輩が部屋を出たので私もそれ追いかける。
一瞬だけ振り返ると先ほどの女性が黒い眼でこちらを見ていて、幽霊の私も少し身震いをした。
「先輩、さっきの方は…」
「ん?ああ、あれは俺の姉だよ。頭の良くて、頭のおかしい姉さ」
先輩の顔は呆れ顔でなければ誇らしげでもなく、いつもよりも少し気だるそうな顔だった。
正直言って、かなりイタイタしい姉だと思うが、これは彼にとっての日常なのだろう。
私は少しばかり、本当、五ミリ程度だけ彼と彼の周囲に興味を抱いた。




