俺、ヤンデレ幽霊は
熊谷を家に送った後、人気のない夜の道を二人で歩いていた。
「……………………」
「……………………」
バスに乗る前からこの調子だ。
でも、まぁ無理矢理連れ出して、着いた先でずっと待たされたら輪廻じゃなくても不機嫌になるか。
金あったかな、と思いつつ俺は妥協案を提示した。
「輪廻。今日は何でも驕ってやるぞ。大分、付き合わせたからな」
チラッと隣を見ると輪廻は少しうつむいて。
「………それじゃあ、おんぶしてください」
「……は?」
「いいから、おんぶしてください。早く」
「?わかったけど…」
高価なものを覚悟していた俺にとっては安上がりですごく助かるのだが……。
疑問を抱きつつも、俺は輪廻をおぶった。
割りと最近、おんぶした回数が増えたからか。この重みに心地よさを感じていた。
「先輩。どうして先輩は私を成仏させてくれようとするんですか?」
馴染み深い交差点で、輪廻が急にこんなことを聞いてきた。
「そんなの……お前を見れるのが俺だけだからに決まってるだろ」
「嘘ですね」
コンマ一秒足らずの即答だった。
「北川先輩は嘘を吐くとき、目を伏せます。恥ずかしいときもそう。若干頭が下を向いて、それによって目に影が出来ます」
「……なんでそんなこと言えるんだよ」
図星を突かれて、癖を見抜かれて。そして、それを素直に疑問に思った。
答えは実に簡単だった。
「そんなの、ずっと見てたからに決まってるじゃないですか」
「?なぁそれってどうゆ」
首を回して90度弱。実に歪な俺たちらしい形で。
俺と輪廻の唇が重なった。
急なことだったので味なんて感じられなかったが、柔らか感触はあった。
彼女が離れるまでの一瞬一瞬が長くて、輪廻は。
「北川先輩。好きです。心から愛しています」
笑った。
本物の本当の笑顔で。
だけど、目には。
涙が浮かんでいた。
ボトッと首輪が外れてコンクリートの上に落ちた。
そのまま砕けて光の粒になって空に舞った。
「く、首輪が…」
あまりにも色々なことが急すぎて俺は混乱していた。
けれど、何か不味いことが起きているのは、それだけはわかった。
「…もう必要ありませんよ。先輩を縛るものは何もありません」
背中に感じていた重みが少しずつ軽くなっていく。
「私のことは忘れてくださいね。これからは他の」
「ふざけるなよ……ふざけるなよっ!」
回していた手が空を切って、俺は後ろを振り返った。
輪廻は俺にはもう届かない所まで飛んでいた。
「……私の未練、前に言いましたよね。『少女漫画みたいに自分の好きな人と相思相愛になりたかった』って。もう叶っちゃいましたから」
俺の声が聞こえてないように彼女はたんたんと続ける淡々と続ける。
「北川先輩には、幸せになってほしいです。だから」
「だから、何だよ!」
俺は叫んだ。
いつもクールぶっておどけてる皮を脱ぎ捨てて、心の声を吠えた。
「俺に幸せになってほしいから忘れろ?出会った頃も?修学旅行も?体育祭も?嘘を吐くなよ!!」
「………………!」
「俺だってなぁ。何回もお前の嘘に騙されてきてきたんだよ!俺の方がお前のことをずっと見てたんだよ!だから!」
むせそうになる喉をグッと噛み潰して俺は言った。
「だから、お前の本音を聞かせてくれよ。輪廻」
「……………………………そ。そこまで言って約束破ったら八つ裂きですからね」
「あぁ、ドンとこい」
少女の肌白な顔はみるみる赤くなっていって、黒い髪は風で広がって、瞳からは大粒の涙が落ちた。
「……わずれないでほしいです。わすれないでください。楽しかったおもいでも、悲しくなったおもいでも」
「わたしの、ことも」
「忘れるかよ。忘れるもんか」
ワガママなとこも、泣き虫なとこも、出会った時も、今日という日も………。
「さようなら。北川先ぱい」
彼女はゆっくりと光の粒になって、最後には虚空だけが残った。
「…………………いった………か………」
次の瞬間、膝から崩れ落ちて、全身の力が抜けた。
柵が壊れて、我慢していたものが溢れてきた。
輪廻と出会った交差点。
彼女のいなくなった今は、ただ一つ。
残された俺の泣き叫ぶ声だけがその場を支配していた。
六章 【全ては始まりの場所へ】END




