俺、彼女の心を見透かせない
たこ焼きを買った後、俺たちは熊谷の元へ急いだ。
…半泣きだったのは言うまでもない。
まぁ人混みでたった一人にさせてしまうのは確かに熊谷にはレベルが高すぎたか。
たこ焼きを半分分けると言うと少し機嫌が戻ったようだった。
「んじゃま、変わるか」
「そうですね」
いつものように背中合わせで替わる。
さっき走ったせいか妙に鼓動が早く感じた。
…しかし、何度目になるかな。入れ替わるのも。
浴衣で動きにくい違和感を感じるほど輪廻の体にも慣れた。
「秋、熊谷。ほれ、あ~ん」
ベンチに座った俺(輪廻)がたこ焼きを隣の少女の前でチラつかせた。
「え、えぇぇええ!?」
安定の熊谷リアクション。
「早く。口、開けて」
俺(輪廻)は一歩も退かない。
「………あ、ぁ~ん」
屈した熊谷が口を開ける。
俺(輪廻)はその中に一つ、たこ焼きを入れる。
口に含んだ熊谷だったが。
「~~~!!」
あまりの熱さに悶えた。
「秋ち、じゃなくて熊谷!水!これ、飲め!」
先程まで俺が持っていた飲料水をパスする。
熊谷はそれを一気に飲み干した。そして。
「ごほっ!ごっほっ!」
むせた。
「大丈夫か?あ、熊谷」
それを見た俺(輪廻)が背中をさすっている。
……実際は女子同士だから微笑ましい状況かもしれないが、俺の体でされると少し気恥ずかしい。
「あら、北川君。ここにいたの」
ひときわ目立つジャージで話しかけてきたのは佐々木(女)であった。
別れた時に比べて顔がやつれている気がする。
「まっさと!僕にもたこ焼き頂戴!」
佐々木(男)が背後から現れ、俺(輪廻)は肩をびくつかせた。
両手にヨーヨーやら、金魚やらを持っているとこを見ると、佐々木(女)がやつれている理由が察して取れた。
「それより、佐々木君。まだ勝負はついてないわよ」
「えーもう他に屋台ないよー」
「……あ、ほら!カタヌキ、まだやってないわ!早く行くわよ」
「え、あ、ちょっと~」
ヒカルを引き摺る最中に、こちらに謎のいいねをして人混みのなかに消えていった。
あいつも中々負けず嫌いだよなぁ。
佐々木劇団の嵐が過ぎ去った後、しばらく呆然としていたが。
「熊谷。あ~ん」
「ま、まだ続けるんですか!?」
「半分って言ったからな。嫌か?」
「いや、嫌ではなくて、その、えっと……い、嫌じゃないです、はい」
熊谷は完全に屈して、もう一つたこ焼きを食べた。
今度は悶えもしなかったし、むせもしなかった。
「よく出来たな、熊谷。よしよ~し」
ここで俺(輪廻)が謎の強行にでた。
大型犬をあやすように頭を撫でまくる。
「せ!?せんぱぃ……」
勿論、熊谷の意識は天の上である。
「お、おい輪廻。さすがにそれ以上は熊谷が昇天するぞ」
輪廻の声で言った俺の忠告に、ピタッと手が止まった。
「……北川先輩。以前、私の未練がどうこう言ってましたよね」
「以前っていうか大分前だけどな。それがどうした?」
「…思い出したんです。私の未練を。先輩はそれを叶えてくれるんですよね」
…輪廻の未練って神崎関連じゃなかったっけ?
と、思ったがそれはあくまで俺の予想であることを思い出した。
「まぁ俺のできる範囲内ならな」
その時、自分の心に何かが溶け込んだ気がした。
苦しいような寂しいようなそんな感情。
―幽霊は永く居座ると性格や感情に影響が出てくる。―
姫ヶ岳が言っていたのはこのことなのだろう。だから、次の彼女が発した言葉が嘘であることをはっきりわかった。
「私の未練は…秋ちゃんを残してしまったことです。先輩、秋ちゃんを幸せにしてください」
ただ、真偽がわかれど、真意は掴めなかった。
【五章 決意と成仏と夏祭りと】




