私、鈍感でないことに悲観する
「………?」
鎖を手繰って行った先は賑やかな屋台、の裏。
首輪の付いた彼と卑しい乳デカ女がそこで対峙していた。
北川先輩に見つからないように、私はその辺の茂みで様子を窺うことにした。
初めに口を開いたのは乳デカ女の方だ。
「さぁ、お返事を聞きたいのですね~Yesか、Noか」
北川先輩とこの女の間に何かがあるのは薄々わかっていた。私は天然でもなければ馬鹿でもない。
あの女が家に来たとき、怪しさ満点の雰囲気を感じていなかったわけがない。
それに、北川先輩もあの日から惰眠の時間より思い悩む時間が増えていた。
しかし、私にはその原因も関係もついぞわからなかった。
「………俺は」
彼に重い口が開く。
「お前の言ってることも間違いじゃないと思う…俺が協力すれば、全員が報われるって、ハッピーだって」
謎を解明するためにも私は耳を済ます。
それがよくなかった。その言葉はあまりにも予想外で、想定外で、心に刺さるものであったから。
月の明かりが顔を照らす。
「なぁ、姫ヶ岳。その全員にさ。輪廻は入ってるのかよ」
このとき初めて、私の話をしていると知った。
「俺はアイツに約束したんだ。いや、口では言ってねーから心のなかで誓ったってほうが正しいか。俺が願いを、未練を叶えてやるってな」
何故か体に電気信号が流れた。
何故か止まった心臓が動悸した。
何故か冷たい心が熱を持っていた。
何故だ。わからない、いや、わかる。わからないようにしているだけだ。
中学の時にも一度抱いたことのある感情だから、知っているはずだ。
ただ、目を、心を背けているだけだ。
「だから、俺は協力できねぇよ。あいつの未練ぐらい俺一人で背負える」
彼がそう言い放った。
その後、チラリと乳デカ女がこちらを見た気がした。
思考の追い付いていない私は、ただ直感的に、感情的にその場にいるのが嫌になって逃げ出した。
樹々をすり抜け、最短距離で最高速で駆け出した。
不運だ。自分が鈍感であったらこんな面倒な感情が生まれることがなかったのに。
嫌だ。これ以上自分の我が儘で、人の関係を壊すのは。
だから…私は歩みを止めた。
逃げて逃げて逃げた先には人の優しさに甘えてしまう私がいると思った。
音の無い、静かなこの場所。
私は卑しく醜い感情を狐面の下に圧し殺した。
柏手が一つ鳴った。




