俺、後輩の熊谷は落ちやすい
「さ、佐々木先輩…。あの、さすがにアレは、ハードルが高いです…」
「何言ってるの。アレが出来ないようじゃ、まだまだお子様よ」
「で、でも…」
恋の(好かれているのは神崎だが)板挟みにされていた俺は、前の二人の会話に入っていけないだろうか、と逃げ場を探していた。
「なんかあったのか、二人とも」
俺は両サイドの威圧に屈しながらも自然に話しかけたつもりだったが、佐々木も熊谷も背筋を立てて驚いた。
「…今の一声で私の寿命が一万年縮んだわ…」
「お前、一万年以上生きる予定だったのかよ」
佐々木は胸の辺りを押さえていたが、何処か演技臭がする。
「そんなことより北川君。熊谷さんがリンゴ飴を欲しそうな目でこちらを見てくるの。北川君、奢ってあげて」
「え、さ、佐々木先輩」
「いや、佐々木が奢ってやったらいいだろ、部活の後輩なんだし」
「私、金欠なのよ。残念ながらね。それともアッチで遊んでる佐々木君と消沈してる姫ヶ岳さんの相手をしてくれるの?」
「………」
俺も毎週買っている(買わされている)少女漫画代で懐が寂しいのだが、バカと天才の両方を相手するなんてまっぴらごめんなので。
「えっと、あ、あの、お、奢ってもらってごめんなさい」
「こうゆうときは」
「ありがとうございます?」
熊谷は真っ赤なリンゴ飴を持ちながら、相変わらず疑問形でお礼を言った。
「ま、200円なら安いモンさ」
毎週600円の幽霊と比べれば格段に安い。
「……っせ、しゃんはい!」
どんな噛み方したら「先輩」が「上海」になるのか疑問に思ったがとりあえず聞き返してみる。
「どうした?」
すると熊谷の顔がみるみる赤くなっていき、それに耐えきれなくなったのか。
「い、いえ……やっぱり、な、何も、ありません…」
と、俯いてしまった。
俺は熊谷が何を言おうとしたのかわからなかった。そんな時、急な人波が押し寄せ。
「あ、わっ!」
小柄な熊谷は少し波に呑まれかけた。
「熊谷、俺の手を取れ!」
「え!?」
「はやく!」
熊谷が俺の手を両手で握ると、出来る限りコンパクトにそれを引き抜いた。
それが結果として、熊谷を抱き込む形になってしまったのはしょうがないことだろう。
「大丈夫か、熊谷?」
「あ、ああああ、アアアア………」
リンゴ飴並に真っ赤な顔がとうとうショートを起こしたようで、表情筋がピクリとも動かなかった。
「…………」
まぁ、さすがに俺でも少し恥ずかしいことをしたなと思ったので、熊谷落ちたのは当然だったかもしれない。
とりあえず屋台の脇にあった石段に熊谷を寝かせた。
そういえば、100%起こせる方法があったな。
確か、頬をこう…。
前にやった起こし方をやってみると、今回は数秒足らずで起き上がり、同時に俺の額と熊谷の額が衝突した。
ゴッという鈍い音が耳に届く。
「おぅ」
「…いてて……???」
俺も相当痛かったが、熊谷はどちらかというと今、どうゆう状況か確認しているようだった。
そして、全て思い出したようでまた煙が上がろうとしていた。
「わ、私…せ、先輩と……」
ここでまた熊谷をショートさせるのは無限ループに陥りそうだったので俺は熊谷の肩を持って。
「熊谷、一旦、落ち着け。今は横になっとけ」
そう言うと、思った以上に熊谷の聞き分けがよくスッと横になった。
「あ、あの、先輩。……さっきは、あ、ありがとうございました」
「……どういたしまして」
「あ、あと、その、一ついいですか?」
「何だ?」
「そ、その、て、手を、握ってもよろしいでしょうか」
「別にいいぞ」
減るもんでもないし。
そうして熊谷は俺の手を握るとすぐに眠りに落ちた。
赤ん坊の安堵したような、そんな寝顔で。




