俺、後輩の浴衣選びに付き合わされる
このデパートは中途半端な都会であるこの町にとっては、規模の大きい建物だ。
現在、建設中のマンションと張り合えるのはこのデパートぐらいだろう。
生活必需品から衣類、食品、家電にいたるまで数多くの店が並んでいる。
とはいっても別に洗濯機やら掃除機やらを買いに来たわけではないので一階の家電をスルーし、俺らはエスカレーターに乗った。
「……なぁ、輪廻」
熊谷には聞こえないように隣にいた彼女に声をかける。
「何ですか、先輩。はしゃいでるんですか。子どもですか」
「違うわ。何で熊谷を連れてきたんだ」
「いいじゃないですか。私も久々に秋ちゃんと買い物したかったんですよ。先輩も賑やかなほうが好きでしょう?」
「日頃の俺を見ててよくそんなこと言えるな」
学校での俺の周囲は毎日お祭り騒ぎだ、このやろう。
「それとも、先輩は私と二人っきりで買い物したかったんですか?」
「……いや、まぁそんなことはないけどさ」
そっぽを向きながら俺は返答した。
べ、別にそんなつもりはなかったからな。うん。
「ま、今日はちゃんと秋ちゃんエスコートしてくださいよ」
「あぁ、そうだな」
そうして俺たちはエスカレーターを降りた。
「え、えっと北川先輩。きょ、今日は、その、さ、誘っていただきありがとうございまちぃた!」
「………うん」
噛んだな。物の見事に。
「それじゃあ先輩。和服専門店を探しましょう!」
「え、調べてないのかよ」
「私がそんな面倒なことやるわけないじゃないですか」
「いや、そんな胸張って言われても……」
「せ、先輩!!あ、あの…わ、和服買うならあのお店がいいってお母さんが…」
熊谷がテコテコと見取り図の所まで走り、一つの店を指差した。
さすが、熊谷だな。どっかの幽霊と違って計画性がしっかりしてる。
「何か悪口言いませんでした?」
「言ってない。それじゃあそこに行ってみるか」
「は、はいぃ!」
何度もコケかける熊谷の歩幅に合わせながらその和服専門店へ向かった。
「そういえば…熊谷は浴衣とか持ってるのか?」
「え……えっと、な、何で浴衣なんですか?」
「あぁ、今週の日曜日に祭があるんだよ。熊谷も一緒に行くか?」
「は、はい!い、行きたいです!」
おお、想像以上の食いつき。
「そ、それじゃあ私も新しいの買ったほうがいいですね…」
「そうだな」
「……えっと、き、北川先輩…。その…。」
熊谷は歩くのを止めるとスカートの裾を握り始めた。
「どうした?」
「わ、私の浴衣を、え、選んでくれまひぇんか!?」
相変わらず噛みながら熊谷は言った。
恥ずかしがり屋の彼女が男に服選びをお願いすることは中々レベルが高かったようで 、断りでもしたら今にでも泣き出しそうな表情だった。
「まあ、それぐらいしないと一緒に来た意味ないしな」
俺の返答に対して、熊谷は無言の赤面で返した。
さて引き受けたはいいものの、俺もファッション云々かんぬんは人並み以下のため、人の服、しかも女子の服を選ぶなんて三輪車からバイクに乗れと言われているように感じてしまうレベルだ。
というわけで。
「輪廻、後は任せた」
「え、何で私ですか」
「今どきの女子のファッションを俺ごときがわかるとでも?」
「そんな胸張られても困……あーいやそうですね。そうしましょうか」
そこで納得されるのもちょっとどうかと思ったが、いつものように背中合わせで心と体を入れ替えた。
……そして流れた数十分……。
俺(輪廻)は色んな浴衣を熊谷に着せるも決めあぐねていた。
「ん~。この色の浴衣もいいが、花柄模様も捨てがたい。秋ちゃ、熊谷はどうゆうのがいい?」
「え、えっと、その、で、できればお花とか、明るい色とか、あと、帯が簡単なほうが…」
「なるほどな。んー悩ましい」
……これでかれこれ数十分である。いったい何度入れ替わり直したことか。
女子の服選びが大変っていうのは何処かで聞いたことがあったがこれほどとは……。
椅子のようなクッションに腰を下ろすも、体がすり抜けしりもちをつく。
……このまま寝てていいかな。
「これが一番いいな!うん!」
ようやく決まったか?…もう俺眠いんだが…。
「ふむふむ。「『天然と鈍感には見えない浴衣』か。熊谷、これを着てみてくれ」
へぇー。おとぎ話にでも出てきそうだな……って。
「おいぃぃぃ!何、着せようとしてるんだ、お前は!」
眠気もどっか飛んでったわ!
「私の声で叫ばないでくださいよ。私は秋ちゃんに似合う浴衣を選んだだけです」
「さっきの明らかにハンガーだけだったじゃないか!」
熊谷も何、試着しようとしてるの。
「とりあえず体を返せ!」
「そんなに秋ちゃんの浴衣姿見たいんですか。しょうがないですね」
即座に俺(輪廻)の首のボタンを押させ、瞬く間に入れ替わった。
もはや手慣れたものである。
「せ、先輩……き、着替え終わりました……」
何が!?いや何を!?
「熊谷、ちょっとま」
止めようとするもシャッと試着室が開き、そこには……!
「ど、どうですか、北川先輩……」
中にいた熊谷は、澄んだ瑠璃色と藤の花が描かれた浴衣姿だった。
「先にあの浴衣を入れておいたんですよ。秋ちゃんの要望にも応えたものにしましたが、いかがですか先輩?」
「……すごく似合ってる」
異性にそう言われて恥ずかしいからか、熊谷は素早く閉めた。
「…それにするか?」
「………はい」
彼女は小さく応え、試着室のカーテンが揺れた。




