俺、幽霊少女にとりつかれる
遡ること、今日の朝。
俺は彼女と出会ったあと、周りの視線が消え去るまでずっとあの十字路に立っていた。
その間は俺も彼女もしばらくの間は無言だったが、先に彼女が口を開いた。
「北川先輩ですよね、2ーBの」
「!…なんで知ってるんだ?」
あの薄ら寒い状況の後だったのでいっそう俺は驚いた。
「知ってますよ、だって先輩」
幽霊に対してに恐怖心はどこかにいってしまったようで、俺の心はただ彼女の次の言葉への期待でいっぱいだった。
しかし、返ってきたのは期待とは的外れで。
「だって先輩、あの神崎先輩ととても親しいじゃないですか」
「かんざきせんぱい?」
「そうですよ。出席番号九番、クラスは2ーB。血液型はO型で前から三番目の左から二番目、先輩の前の席です」
「え~と。そうだったかな、ははは」
神崎創始。
この名前を女子に聞けば10割中10割わかるかもしれない。
顔はアイドル並みの美形で、女子が言うところのさわやかタイプ(らしい)。
それによって同学年の連中はもちろん他学年の女子からもモテている。
が、一年間コイツといた俺から言わせてもらえばアイツはどこか抜けている。
やれノート見せてくれだの、やれ宿題忘れただの。
ホント。なんであんな男の何処がいいのか。まあ悪いヤツではないことも確かなのだが。
「ははは、はぁ」
愛想笑いと共にため息もこぼれる。
神崎がもう少し頭がいいか、性格が悪かったら愚痴の一つや二つや三つぐらい言いたいが本当にあの男はズルいと思う。
「……北川先輩ならいいかもしれませんね」
「はいはい、そうですね」
彼女は独り言のつもりだっただろうが、俺は車と人が行き来する横断歩道のほうを見ながら適当に相槌を打った。
そうだよね。神崎カッコいいもんね、顔とか顔とか顔とか。
「先輩、ちょっと頭下げてもらってもいいですか?」
「はいはい、なんですか?」
疑問形に対して疑問形で返しつつ、俺は何も考えずに頭を彼女のほうへ下げた。
この時、小学校のある先生からよく言い聞かされた言葉を思い出せなかったことに、後で激しく後悔することになる。
―「人の話はお腹を向けて聞きましょう」と―
ガチャリと首に変な物が巻き付けられた感覚があった時にはもう手遅れだった。
「ん?あ!?な、なんだコレ!?」
巻き付いた物に手をかけてみるも取れる気配がまったくしない。
「ふぅ。『とりつき』完了っと。あ、ちなみにその首輪は私が成仏するまで外れませんよ?」
首輪をガチャガチャやってる俺の目の前に彼女が立った。
初めて真正面で彼女と目が合う。
髪は美しい紫で肌は透き通るほど白く、瞳の中は赤く爛々と輝いていた。
「私の名前は春日井輪廻。利用できるものは利用せよがモットーです」
彼女は初めて自分のことを語り、そして。
「よろしくおねがいしますね」
と俺に対して初めて本当のような作り笑いを見せた。
それで、俺の初恋は儚く散り、そこの幽霊とりつかれてしまったわけだ。
「あ!神崎先輩、校庭にいましたよ!北川先輩、行きましょう!」
当分、この幽霊に振り回されるんだろうな。
俺は佐々木コンビと別れて、校庭に向かって走る幽霊のあとを追いかけた。




