俺、カオスな借り物競争を突破する
俺を除く全員が駆け出した。
どうする。競技は始まっている。あのいつもツッコミ役でボケの限度を知らない佐々木が作ったカードなど、無茶な大喜利そのものだ。
そもそもあいつ運営だったのかよ。
しかしまだ希望はある。さっきのカードの中にもまともなのが二、三枚見られた。
つまり、カードは佐々木だけが作ったわけじゃないということだ。
確率としては低いかもしれないが確かにある可能性を信じ、俺は目の前に落ちているカードを拾った。
そこに書かれていたのは…。
『可愛い後輩と恋人繋ぎでゴールへ』
…。行動まで規制するのは借り物競争と呼べるのだろうか。
とはいえ、これも佐々木が書いたんだろうが、おそらく軽いほうだ。
俺は自分たちのテント、青組のテントへと向かった。
帰宅部の俺はそんなに顔が広くないので顔見知りの後輩は二人しかいない。しかも、その片方が幽霊で見えないとしたら、消極法で。
「熊谷。ちょっと協力してくれ」
「え!えっと…か、カメラですか?」
「違う。お前だ」
「わわ、私ですか!?」
「そうだ。頼む」
「…わ、わかりました…」
俺の手を握った彼女は立ち上がってゆっくりと走り出した。
彼女の足はかなり遅く、ゴールまでの短い距離で三、四回コケかけたが、何とか支えきって見事に一位を取った。
ふむ。他の面子のお題が難しかったのか、それとも俺よりやる気がなかったのか知らんが取る気もない一位を取ってしまった。
しかし、まぁそんなことより。
「…えっと、き、北川先輩?さっきのカードって何が」
「おい、佐々木。何だ、あのカードは」
運営テントの下で悠々と寛いでいる佐々木に問いただした。
「何だとは失敬ね。私は見てる人も楽しめるようなお題を書いただけよ?」
「せ、先輩、お題を」
「見てる人じゃなくて、お前が楽しめるようにだろうが」
「え、何でわかったの。もしかしてエスパー?むしろ、コスパ?」
「せんぱ」
「何でコストパフォーマンスなんだよ」
「………」
「ん?どうした、熊谷」
「………いえ、何でもありません…」
?どうしたのだろうか。やけに暗い表情だ。
「ところで北川君。熊谷さんと一緒にゴールしたところを見ると『可愛い後輩と恋人繋ぎでゴールへ』を引いたと思ったんだけど、恋人繋ぎじゃなかったわね?」
「え、えええ!?かかか、可愛い……!?そ、それに、こここ、恋人だなんて……」
一瞬で熊谷の顔の明暗が変化していく。
「…人前で恋人繋ぎなんぞ出来るか」
あと言葉聞いただけでショート寸前のこの子にそんなことさせるなんて、もうオチが見えてる。
「うーん。あのお題は北川君を狙ってやったのだけれど至極残念ね。来年にリベンジしてやるわ」
「しなくていい」
その後、俺らは二人がかりで口から「プスプス」と故障音を出す熊谷を押して戻った。
「北川先輩…神崎先輩の真似でもしてるんですか?」
「ん?何が?」
「…いえ、わからないならいいです。そうゆうことなんでしょうから」
「?」
変わらず俺の席を貫通して寝そべっていた輪廻がそんなことを言ってきたので。
「あんな鈍感男の真似なんて金払われてもしねぇよ」
と返したら。
「はぁ…秋ちゃんも大変ですね」
とため息を吐いて、小声でそう呟いた。




