俺、想像以上の天然少女に苦難する
「で引き受けたはいいが警戒されてないか?俺」
次の日の正午。俺は学校の中庭で電話越しに佐々木に聞いていた。
「大丈夫よ。女性には無害の人って言ってあるから」
「おい。にはって何だ。男女問わずに無害だ」
昨日、しんみりとした空気出してやがったくせに、一日たったらケロッとしてやがる。
「多分、中庭にいると思うから…生還を祈るわ」
「戦場か何かなのかよ」
俺のツッコミと同時にプツリと電話が切れる。
中庭―――。
比較的、校庭より人は少ないものの、大きな柏の木や桜の木が木陰を作り、その下のベンチで仲睦まじいカップルが座っていたり、文系の先輩が本を読んでたりするような場所だ。
もちろん、日影男子である俺は校庭同様、あのベンチに座ったことはない。あって通り道程度だ。
しかし、ベンチで昼食を取っている人もよく見かけるため、彼女もそうなのだろうと思っていたが。
「なん…だ…と…」
俺は少年漫画のようなセリフを吐いて戦慄してしまう。
彼女、熊谷秋奈は空席のベンチがある、にも関わらず校舎の影の石階段に座っていた。
ぼ、ボケのレベルが高すぎる…。いや、というよりこれはボケなのか?
「あ!ほ、ホモ川先輩…!ど、どうも」
熊谷は俺に俺に気がつくとあたふた後、行儀よく一礼した。
佐々木や輪廻から聞いていた通りの真面目さだ。
だから、靴下の柄が左右で違うのはファッションではないのだろう。
「……熊谷。どうしてベンチで食べないんだ?」
「あ、えっと…えへへ」
ヤバい!これは俺の方が先に心が折れる!頼むからその笑顔で俺を見ないでくれ!
『生還を祈るわ』
佐々木の言葉が脳内で再生する。
とりあえず立ったままだと熊谷に気を使わせそうだったので石階段に座る。
「えっと、下手ですけど、その、た、食べますか?」
「…どうも」
そう言って彼女が取り出したおにぎりを有り難くいただいた。
味の感想は一言でいうと…岩塩食ってんじゃね、と思うぐらいの塩の量だった。
「ど、どうですか?や、やっぱりおいしくないですか?」
不安そうな瞳の、おそらく無意識であろう上目遣いに思わず。
「い、いや?美味しいよ、うん。とっても」
「ほ、ホントですか!?」
軽く返したのに対して、熊谷が思っている以上に食い付いてきた。
「うぅ。私のおにぎりをおいしいって言ってくれた人…リンちゃんしかいなくって…」
「へ~。リンちゃんねぇ」
おいおい随分と可愛いニックネームじゃないか。
「…何ニヤニヤしてるんですか。八つ裂きにしますよ」
いつもより弱い覇気で輪廻が威嚇する。いくら彼女でも自分の過去話は恥ずかしいのだろう。
「んじゃあ、熊谷。一つ質問していいか?」
「え、えっと…どうぞ」
「今でもそのリンちゃんのことは大切か?」
風でサラサラと木の葉が靡き。
「はい。リンちゃんは私の、一番の親友ですから」
笑顔で誇らしげに断定口調で彼女は言った。
「あの子は多分、一生、お前のことは忘れないよ」
熊谷が去った後、俺は端から見れば独り言のように幽霊に言った。
「そうですね…。私も秋ちゃんのことは忘れませんよ」
「ところでリンちゃん」
「…先輩。次にその名前で呼んだら細切れですよ」
それは怖いな。八つ裂きより怖い。
「で輪廻。お前って辛党だったんだな」
「いえ?バリッバリの甘党ですよ?」
「え、だって、さっきの」
「…だっておいしいって食べなきゃ、頑張って作ってくれてるのに可哀想じゃないですか」
「…お前。あの子に優しすぎないか?」
「先輩だって優しかったじゃないですか」
「俺は辛党だから率直な感想を述べたまでだ」
「そうですか。では辛党の先輩に嬉しいお知らせがあります」
「何?」
「明日からおにぎりの数が倍になります」
「…マジ?」
「マジです。経験者は知っているのです」
「………」
数ヶ月後、医者に塩分取りすぎと言われたのは言うまでもない。




