俺、彼女の本気を目の当たりにする
佐々木への返答は「考えておく」とだけ言っておいた。
これは安請け合いできるような話じゃない。
漫画の主人公だったらなりふり構わず引き受けるかもしれないがこれは現実だ。
もし俺がしくじったら?
もし熊谷秋奈の苦手意識が増長したら?
もし取り返しのつかないことになったら?
ここまで俺は責任は持てない。
忘れてもらっては困るが俺は基本的に悲観主義者だ。
優しい人間にはなりたいが、お人好しにはなれない。
「…ここも元通りになってしまいましたね」
「…そうだな」
帰り道。輪廻と初めて出会った十字路は事故以前の姿に戻っていた。
割れていた床屋のガラスは新しく張り替えてあり、歩道の花束もすっかり消えている。
まるでそこで人が死んだことが忘れ去られてしまったように、いつもと同じ、普通の時が十字路に流れていた。
「…こんな風に私もいつか忘れられるのかもしれませんね…」
隣にいた幽霊の少女が言葉をこぼす。
「まぁ少なくとも俺は、忘れようとしても出来る気がしないがな」
「でも、それもいつまで続くかわかりません…。だから、北川先輩」
何かを決心した表情の彼女はまっすぐにこちらを見て。
涙を少し浮かばせて。
彼女は初めて。
「一生のお願いです…!秋ちゃんを…。私の親友を、助けてください!」
俺に頭を下げた。
それによって、輪廻にとって熊谷秋奈がどれだけ大切な人かを理解できた。
しかし。
「…お前の一生は終わってるだろうが。って誰が笑うんだよ、こんなブラックジョーク」
俺は輪廻の頭に軽く手刀を食らわせた。
「ジョークってなんですか!私は真剣に!」
「五月蝿い。お前は今日の神崎がおかしかった理由でも考えてろ。…熊谷秋奈は俺がなんとかする」
「……え?」
輪廻は不意をつかれたからか俺を見たまま固まった。
彼女がどれだけ本気で、どれ程熊谷秋奈を大切にしているのかわかったが、俺がそれ以上に思ったのは。
こうゆう重い雰囲気で卑屈になるのは俺だけで足りるということだ。
彼女がわざわざシリアスを被る必要はない。
「それに、それが未練で残ったら面倒臭いしな」
「え?何か言いましたか?」
「いいや?何も言ってねぇよ?」
十字路を過ぎ去り、飛びさる飛行機が曇り空が掻き分けられていく。
隙間から出た夕立が、彼女の涙の跡を照らした。




