俺、三ラウンドなんて冗談だろう
「あ、ありがとうございました!」
「ああ。次からは気を付けなよ」
「は、はい!」
麦わら帽子を持った女子生徒はそのまま自分の班のところへ戻っていった。
話によると風で流されていった麦わら帽子を神崎が追いかけ、見つけたはいいものの帰り道がわからなくなってさまよっていたらしい。
やれやれ。
後先考えないというか、お人好しというか。
無駄に走らされた俺の身にもなってみろってツッコミは一旦置いといて。
「何でまだ背中に乗ってるんですか、輪廻さん?」
「思ってた以上に乗り心地が良かったので、歩くのも面倒になって…。北川先輩のせいで私は駄目人間になってしまいました」
「人を駄目人間製造機みたいに言うな!」
最初、恥辱の極みとか言ってたくせに。
俺は駄々こね始める前に腰を下げて降りろと合図した。
「うぅ、少し名残惜しいですが…よいしょ。では体貸してください、先輩」
「全然惜しんでねぇじゃねぇか。あと体借りて何するのか述べよ」
「あの麦わら帽子女子は感謝の意が足りません。なので谷間にでも落として有り難みをわからせようかと」
「何だよ、その無駄なスパルタ」
ライオンかよ。
「別にスパルタじゃありませんよ。谷底に突き落としてしまえば遺体片付けてなくていいですし、事故死に見せることもできます」
「ただの犯罪だった!」
「やだな~北川先輩。犯罪はバレなきゃ犯罪じゃないんですよ?」
「大悪党のセリフじゃねぇか!」
「光ちゃ~ん。真人は何やってるの?」
「アレはね。友達がいないから一人ショートコントしてるのよ」
「誰が一人ショートコントだ。この熟年漫才コンビが」
「誰が熟年漫才コンビだ!」
「誰が熟年漫才コン、ゴホッゴホッ!」
まだ疲れが残っているのか、佐々木が鉄板ネタでむせた。
「…こんな状態の時にあのフリをするなんて…北川君。あなた、ド畜生ね」
「お~い!北川、佐々木~早く飯くいにいこうぜ~!」
「「誰を待ってたと思って、ゴホッゴホッ!」」
「おいおい、大丈夫か二人とも…ってあれ?」
神崎はキョロキョロと辺りを見回す。
「どうかしたか?」
「いなくなってるぞ、佐々木が」
「私ならいるけど」
「あ、いや、男の方だよ」
男の方?あぁ、ヒカルか。
「ヒカルなら別にいいだろ。どうせ、カブトムシとか追ってるだろうし」
「そうね。仮に遭難したとしても彼なら一ヶ月はもつわ」
「私は神崎先輩が無駄ならオールOKですよ」
「何か辛辣すぎないか?」
「あいつのためにまた歩くなんて御免だ」
「彼のためにまた歩くなんて御免よ」
「あの人のためにまた歩くなんて御免です」
と疲れきった三人の声は見事に重なり、夕日で二つの影が伸びた。