俺、彼女の案はやはり斜め上すぎる
「はぁはぁ」
威勢よく飛び出したはいいものの、元々限界突破しながら登っていた俺が、より負担がくる下りにバテないわけがなく。
また、すれ違う人たちの「え、何で逆走してんの」という冷たい眼差しによって心も体もズタボロだった。
「…先輩」
「な、何だ?」
「私に一つ考えがあります。体を借りてもいいですか?」
「…あぁ、うん。いいんじゃないのか?」
正直、意識が朦朧としていて何言ってるか聞き取れなかったが、とりあえず相槌を打った。
「それでは…」
彼女は前のめりになりつつ俺の首輪のボタンを押した。
もうお馴染みのように鎖が巻き取られ、俺と彼女の心が入れ替わる。
すぅと足元の疲労感が消え、体も軽くなったように感じる。ただ、精神的には変わらずどっと疲れてはいた。
「さて…どれでしたっけ」
目の前には背負っていたリュックをガサゴソと俺(輪廻)が漁っていた。
「あ!ありました!」
そして、リュックから取り出したのは…。
神崎が休憩の時、使用したタオルであった。
「お、お前、まさか…」
「…何ていう目で見てるんですか、先輩。さすがの私もこんな非常事態にただの変態行為なんてしませんよ」
「そ、そうか。安心した」
確かに今そんなことしたらただの変態だしな。
「私が考えた作戦のキーアイテムはこれです!」
堂々と神崎が使用したタオルを前に突き出し、そのまま俺(輪廻)はタオルを顔に当てたって。
「変態行為じゃねえか!」
「違います!」
キリッとした表情で俺(輪廻)が応える。
「端から見れば変態行為に見えるかもしれませんが私が今行っているのは作戦の一環です。まず私が神崎先輩のタオルによって匂いを覚えてしまば、同じ匂いがする方向に神崎先輩はいるはずです」
「お、おう」
強引が過ぎる言い分ではあったが、わりと本気そうだったので好きにさせてみた。
「それでは、ボフンッ」
「……」
さすがに自分の体で神崎のタオルを嗅ぐという絵面はショッキングすぎるので俺は素早く後ろを向いた。
「…どうだ?何かわかったか?」
背中越しに聞いてみる。
「あれですね、えっと…汗の匂いって興奮しますね」
「俺の体と声で、んなこと言うんじゃねぇ!」
「まぁ冗談はここまでにして」
「いや、絶対冗談じゃねえだろ。本音だっただろ」
「神崎先輩の大方の居場所はわかりました。ここから一番近いのはこっちです」
そう俺(輪廻) が指差した先は。
「獣道なんだが…」
「こっちで間違いありません。私の嗅覚を疑うんですか?」
「いや、正しくは俺の嗅覚だがな」
「仮に迷子になったとしても北川先輩が飢え死にするぐらいで何も問題ありません」
「問題しかねえわ!…それに熊とか出てきたらどうすんだよ」
「今時、野生の熊なんているはずが」
と輪廻が言いかけたとき。
「ガサガサ!!」
「「!?」」
草むらのなかで何か大きい物が動き、二人の視線が草むらに集中する。
ゆっくりと後退りし、生唾を飲み込んだ次の瞬間…!
「ふぅ。ようやく道っぽいとこに出てきたな。あれ?北川、何してんの?」
ズボンは膝から下が泥まみれで小さな麦わら帽子を被ったアイツが草むらから出てきた。
「…お前が何してんだよ、神崎」
幽体なので聞こえるわけがないが、冷静にツッコミを入れた。