俺、虚ろな彼女の恐怖を身を持って知る
目を覚ますと俺は天井を見上げていた。
起き上がってみると俺以外研修室には誰もいなくなっていた。
神崎のヤツ。起こしてくれればいいものを。
そう思いつつ、立ち上がるためにテーブルに手を掛けようとするも俺の手は空を切る。
「………」
寝てる間も『入れ替わり』出来るのかよ。たまったモンじゃねぇな。
二次災害を防ぐべく、輪廻(俺)は鎖を頼りに俺(輪廻)の元に向かった。
「ん?どうしたんだ、あの子」
廊下の途中、周りをキョロキョロ見回す女子生徒を見つけた。
首からは高そうなカメラをぶら下げて何やら不安そうな表情だ。
制服は輪廻と同じ物なので一年生だろう。
今は一年生は別の部屋で研修だったから…なるほど迷子か。
ただ、幽体で気づかれないだろうし、すぐ近くだから大丈夫だろうと、優先順位を『春日井輪廻』に設定し直しその場を去った去った。
俺(輪廻)がいたのは壁三枚先の食堂だった。
思えばすり抜け出来るのだから壁通れたな、と今になって今になって気づく。
で肝心の俺(輪廻)が何をしているのかというと神崎の隣で…すごい勢いでハンバーグを食べていた。
どんだけ食いたかったんだよ、ハンバーグ。
そんな俺(輪廻)の前の席に女子が座った。
えーと確かアレはバスケ部のマネージャーだったか?
俺(輪廻)の空気が一転し黒いオーラが漂い始める。
止めないとなんかやらかしそうだな…止めるか。
「そのためには神崎先輩とこの女を裂く方法を」
「何してんの?お前」
「はひっ!?」
予想以上に驚かせてしまったようで、俺(輪廻)は体勢を崩し、椅子から椅子から転倒する形になる。
「危ない!」
倒れる俺(輪廻)に対して神崎が飛び込む。
その瞬間、俺は反射的に目をつぶった。
……何故だろうか。妙に後頭部が後頭部が痛い。
幽体で何かにぶつかるわけがないし…。
嫌な予感を持ちつつも目を開けると、ドアップの神崎がそこにいた。
…てか、これ、端から見たらヤバい絵面なんじゃ…。
「きゃああああああ!」
悲鳴を上げたのは体も心も病んでいる春日井輪廻だ。
やばい。このままでは殺される。
確証はないが俺の本能がそう伝えていた。
「おおお、落ち着け!まま、まずは状況確認をだな!」
「そそそ、そうですよね!ととと、、とりあえず北川先輩を殺して埋めるのが先決ですよね!?」
爛々とした紅の輝きはどこへやら。彼女の瞳は真っ赤な虚に変わっていた。
それを見て、俺はすばやく察する。
「あぁ、駄目だ。神崎、さっさとどいて便所いくぞ!」
「え、今?」
「今日の今だ!トゥデイ、ナウ!」
真っ正面からの説得が無理なら出来ることはエスケープのみだ。
トイレが近くにあったおかげで虚ろな少女から何とか逃げ切ることができた。
さすがの彼女も男子トイレにはこれないだろうと、俺は戻しそうなハンバーグを我慢した。