私、北川先輩はいつもタイミングが悪い
「あの~ココの席座ってもよろしいですか~?」
「ん!お、おう。いいぜ」
「うふふ。では失礼しますね~」
私がハンバーグに夢中になっているとき、向かいの席に淡い桃色髪の女子生徒が座った。
その女子生徒のことを私はよく知っている。
姫ヶ岳 夏希。クラス、2年D組。
バスケ部のマネージャーで学力もトップクラスの秀才。ちなみに口癖は「ですね~」。
身長162cm。体重50kg(推定)。
スリーサイズは上から85、59、62…。
表向きは後輩からも慕われるマイペースなマネージャーだが、どうせ裏では胸で男をたぶらかすような女に違いない。あくまで予想だが。
大体、胸が大きくてないがいいというのだろうか。
アレはただの脂肪の塊で何も得することなんて……ぐすん。
生前の私だったら立ち直れないほどのショックを与えれたのに…。
いや、今こそまさに好機なのでは?
「そのためには神崎先輩とこの女を裂く方法を」
「何してんの?お前」
「はひっ!?」
背後から不意に聞こえた私(先輩)の声に驚き、先輩(私)は椅子からバランスを崩した。
「危ない!」
それを見兼ねた神崎先輩が庇うように飛び込む。
私は一瞬、まぶたを閉じて頭への衝撃に備えた。
数秒間の沈黙。ゆっくり目を開けるとそこには。
倒れて仰向けになっている北川先輩と、それを押し倒した覆い被さっている神崎先輩の姿があった。
倒れたのとドンピシャのタイミングで恐らく『入れ替わり』の時間が切れたのだろう。
そこまで思考した上で、『壁ドン』もとい『床ドン』状態の先輩らを見て。
「きゃああああああ!」
たった一人にしか届かない叫び声を上げた。
「おおお、落ち着け、輪廻!まま、まずは状況確認をだな!」
「そそそ、そうですね!ととと、とりあえず北川先輩を殺して埋めるのが先決ですよね!?」
「あぁ、駄目だ。神崎、さっさとどいて便所いくぞ!」
「え、今?」
「今日の今だ!トゥデイ、ナウ!」
追いかけようとしたものの、神崎先輩を連れてトイレに逃げ込まれまるで人質を盾にしている強盗犯のように先輩は立て籠った。
ぐぬぬ、小癪な…。
しょうがないので待ち伏せしておくと、思った以上より早く先輩は出てきた。
降伏したか?と警察気取りの私だったが、北川先輩の顔を見て、なんというか、気が引けた。
別に怒ってる様子でもなく、何かこれといって変わったところもなかったが。
ただ、一瞬、私を見る目が雲っていたように感じた。
「どうした?さっさと飯片付けにいくぞ」
「え、あ、はい」
この時、私は彼が隠し事をしていることに気がつかなかった。
私にとって重要で残酷なその隠し事を。