俺、不安しかない修学旅行が始まる
不安の発端は修学旅行前日ことだ。
この高校では五月に生徒間の新たな親睦を深めるために二泊三日の修学旅行を実施している。
一日目はホテル設備や二、三日目の注意で終わるが、二日目は近隣の山を登り、三日目はレジャーランドに行って帰るというごくありふれたイベントだ。
このイベント事態には何も問題ない。
問題なのは共に行動する班の面子だ。
「ものすごく大きいね!東京ドーム三十個ぐらいかな?」
「…佐々木君。東京ドーム行ったことあるの?」
「ん?無いよ?」
「まぁそうでしょうね。三十個分だったらホテルじゃなくて城よ」
いつものようにアホなことを言うヒカルに佐々木が的確なツッコミを入れる。
「ははは!ホントに面白い面子が集まったな!」
「神崎先輩と同じ班…フフフ」
佐々木コンビを見て高らかに笑う神崎を、さらに輪廻が見て不敵に笑う。
「…不安だ」
まだホテルに着いただけだというのに、俺は不安感に押し潰されかけていた。
前日。
「私は生まれて初めて北川先輩を尊敬しました」
班のくじ引きが終わった後、彼女は珍しく珍しくその赤い瞳を俺に向けて輝かせていた。
彼女の名は春日井輪廻。
生前は一つ下の後輩で、今は俺にとりついた幽霊の少女だ。
「本当はイカサマして神崎先輩と同じ班になろうと思ってたんですが、その手間が省けました」
「イカサマって…。何しようとしてたんだよ」
「そうですね。気に弱そうな人だったら人目のつかない場所に呼び出して有難く譲ってもらいますかね」
「恐喝してるだろ、それ!」
――とまぁこんな感じで俺は幸か不幸か春日井輪廻の思いびと、神崎創始と同班、同室になってしまった。
「おおぉ!真人!部屋にゴミ散らかってないよ!」
「当たり前だ。ゴミあったらビビるわ」
「北川~テレビのリモコンがないんだが何処か知らないか?」
「俺が知るか。係の人に聞け」
「タンスを発見しました。ガチャ、テッテレー!輪廻は寝間着を見つけた」
「何処の勇者だ。しかも開けれないだろ、お前」
「真人見て見て!モモンガ!」
「シーツ、シワになるだろ。やめなさい」
「北川~テレビのリモコ」
「だから係に聞けって!」
ああ…このアホ二匹+幽霊と三日間、同じ部屋かと思うと胃痛がしてきた。
ちなみに佐々木は女子なので別部屋である。
「フフフ、今夜は長い夜になりそうですね」
首輪を付けたその少女はまた何かを企てているようだ。
「……」
まぁ、一旦悲観するのはやめよう。
物事を悲観的にしか見れないのは俺の悪い癖だ。
できるだけポジティブに考えよう。
わーい。三日間、授業しなくていいぞー。…はぁ。
「今日は一段と顔がやつれてますね、先輩」
「この状況で顔色変えずにいられるなら、ソイツは同レベルのアホか仏様だ」
俺はそのままベットに横になり、最終手段、泣き寝入りという現実逃避を実行した。