最終話 修学旅行最終日 楽しい思い出いっぱい出来たよ
修学旅行最終日。
六時半起床。
七時から、生徒達はレストランで洋風バイキング形式の朝食を取る。生徒達、先生方一同はパンや目玉焼き、フルーツなどを自由に選び、楽しい食事タイムを過ごした。
食後にお部屋の整理整頓をして、八時半頃に宿舎を出発。
「こなつちゃん、乗り物酔いは大丈夫?」
「うん、今日は平気。お腹すっきりさせてきたから」
貸切バスで移動中、緑と小夏は楽しそうにおしゃべりし合う。
貸切バスは博多駅に戻る前に、太宰府天満宮へ立ち寄った。
本殿前で集合写真を撮ったあとは、各班自由行動。
「こなつちゃん、梅ヶ枝餅、美味しいね」
「うん。でもあたしは一つだけにしとく。太っちゃうから」
「本当に梅、入ってないな」
「たこ焼きラムネの原料に、たこが使われてないようなものね」
名物の梅ヶ枝餅を頬張りながら、二組六班四人は境内をてくてく歩く。
「ここって受験の神様が祀られてるのよね。あたし達、受験関係無いのにね」
「ほんとだね。スペースワールドか吉野ヶ里遺跡行きたかったよ」
小夏と緑はちょっぴりがっかり感も持っていた。
「私は、関係あるよ」
真優子はきりっとした声で告げた。
「えっ、まゆこちゃんよその高校行っちゃうの?」
「エスカレータ使わないの?」
緑と小夏は真優子の予期せぬ発言に、驚き顔で尋ねる。
「違うよ、二人とも安心して。私、特別選抜クラスの理数コースに進もうと思うの。そこは内部生でも入試パスしなきゃ入れないので」
真優子は笑顔で答える。
「ワタシもそこ進むつもり」
希佳もさらりと言った。
「あのクラス目指すんだ。すごーい! わたしもそこ進もうかな。また同じクラスになれるし」
「あたしと緑ちゃんには絶対無理だって」
「確かにね」
緑と小夏は笑い合う。
(水泳が始まるまでに、あと二kg痩せられますように)
(将来、雑貨屋さんになれますように)
(理数コースに合格しますように)
(ワタシ、もっと絵が上手くなりたぁい)
四人それぞれ違った願い事をして、お参りを済ませた。
生徒達は境内をあとにすると、すぐ近くにある、ガラス張りの近代的な外観が特徴的な九州国立博物館へと足を運んでいく。
予定されていた出発時刻が迫って来ると、
「皆さーん、そろそろバスへ戻って下さいねーっ」
持丸先生他、各担任から声がかかり始める。
二組六班の四人も、二号車の貸切バスの方へと歩き進んだ。
午後一時過ぎ。
貸切バスは号車順に、今度は博多駅前へ向けて一直線。
「皆様、修学旅行はどうでしたか?」
まもなく到着する頃、二号車のバスガイドさんはマイクを使ってこう質問すると、
「めっちゃ楽しかったーっ」「また来たーい」「蒸し暑かった」「阿蘇山最高!」
クラスメート達は次々と返答していく。とても幸せそうな表情を浮かべて。
到着後、クラス委員長が代表してバスガイトさんと運転手さんに花束を贈呈した。
バスを降りた後、荷物をトランクルームから出す。クラスメート達と先生方は自分の荷物を持って、博多駅構内へと向かう。緑と真優子が昨日獲得した特大テディベアは、プレゼント箱に詰められて運びやすくしてもらっていた。
他のクラスもあとに続いていく。
持丸先生の予告通り、博多駅でお土産を買う時間を一時間ほど設けてくれた。
「明太子、明太子、博多といえばやっぱこれね」
小夏、
「わたし、『ひよ子のたまご』買おう。博多駅小倉駅限定だって」
緑、
「じゃあ私は『博多ぽてと』と『筑紫もち』を買うね」
真優子、
「博多人形、欲しいけど高過ぎる」
希佳。
二組六班の四人他生徒達、先生方も楽しいショッピングタイムを過ごす。
そして午後三時過ぎ。
生徒達先生方一同を乗せた新幹線は、博多駅を出発。
帰りの新幹線の中では、疲れ果てたのか寝ている子が多かった。
新神戸駅に到着後、コンコースで解散式が行われる。
点呼確認、先生方からの諸注意のあと、
「お馴染みの決まり文句ですが、家に帰るまでが修学旅行です。では、これより解散とします」
教頭先生はこう締めた。
生徒達からパチパチ大きな拍手が沸く。
「きみたち長旅お疲れさん、解散の前に、ワタクシからスペシャルプレゼントだよーん」
そのあとに、船曳先生は大きな紙袋を引き摺りながら嬉しそうに告げた。紙袋の中に入っていたのは、水色リボンで括られたプレゼント箱だった。
生徒達から歓声が上がる。
「一箱ずつとって、後ろに回していってねーん」
船曳先生は、各クラス一番前にいる子に配布していく。
「わぁー、嬉しい! お菓子か何かですか?」
緑の手元に行き渡ると、興奮気味に尋ねた。
「ふふふ、開けてからのお楽しみだよーん」
船曳先生は薄ら笑いを浮かべながら答える。
「何だろな」
「水色リボンとは、これからの季節にぴったりですね」
緑と小夏はわくわくしながらリボンをほどき、包装紙をはずして蓋を開けた。
「あれ? 紙しか入ってない」
「何これ?」
緑と小夏はきょとんとなる。
中に封入されていたのは、二つ折にされたB4サイズの用紙。
他の生徒達も何人か中身を開けていた。
「楽しい気分に浸っているところ悪いんだけど、これはね、中学総復習、アンド数Ⅰ・Aの演習プリント十枚セットさ。三年生諸君は実力テストが近いからねん。それの対策用になるよん。休み明けまでにやっといてねーん」
船曳先生は笑顔で告げた。
「船曳先生、多すぎですよ。あたし、ゆっくり休むつもりなのに」
「わたしもこんなプレゼントはいらないよう」
小夏と緑はとてもがっかりする。
「先生からもプレゼントがあるわよ」
そんな二人をよそに持丸先生は、十枚綴りになっている英語の演習プリントを各クラスに配布していった。
「こんなの、絶対無理だーっ」「勘弁してーっ」「いらんわー」「もっちゃん鬼やー」
当然のごとく、生徒達から大ブーイングが起きる。
「気持ちの切り替えが大切です。先生からも何か課題出そうかな」
酒田先生はマイクを使ってこう言い放った。
騒いでいた生徒達は途端にしーんと、大人しくなる。
これにて本当の解散となった。
生徒達はそれぞれの交通手段で家路に就いていく。
○
「数学と英語の課題、中身ちょっとだけ見てみたけど、分からない問題もけっこうあったよ。答え付いてないし、ちゃんと仕上がるかなあ」
「あたしも正直不安だ」
「こうなったらお母さんにお願いして宿題全部やってもらおうかなあ。絶対無理だけど」
緑と小夏は沈んだ気分で帰り道を進んでいく。
「緑さん、小夏さん。私もお手伝いしますから。休日中にいっしょにやりましょう」
「ワタシの手にかかれば、これくらいすぐ終わっちゃうよ」
すぐ側を歩く真優子と希佳は、そんな二人に労いの言葉をかけてあげた。
「本当!? よろしく頼むよ、まゆこちゃん、きかちゃん」
「悪いわねえ。あたしはなるべく自分の力でやるよう心がけるよ」
大喜びする緑に対し、小夏は少し申し訳なさそうにしていた。
中学部三年生は明日から金土日の三連休。
月曜日からは、また普段通りの学校生活が戻ってくる。
高等部へエスカレータ式に進学する子、特別選抜クラスを目指す子、よその高校を受験する子――それぞれの進路へ向かって、残りあと約十ヶ月の中学生活を思い思いに過ごしていく。
(おしまい)