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第五話 九州修学旅行(三日目)阿蘇山へ 夜は楽しい学年レク

修学旅行三日目。

 午前六時半。

【皆さん、起床時刻です。着替え終わったら速やかに大広間へ移動しなさい】

昨日と同じように、酒田先生からのモーニングコールが流れ出す。今朝は小夏も含め、四人ともすっきり目を覚ました。

 希佳は起き上がるとすぐに、枕元に用意してあった体温計を手に取りわきの間に挟んだ。

 一分ほどのち、ピピピピっと鳴って希佳は取り出し数値を眺める。

「希佳さん、お熱下がった?」

「うん、ばっちり。36.4分」

 真優子からの問いかけに希佳はとても嬉しそうに答え、ピースサインをする。

「「「おめでとう!」」」

 三人はパチパチ拍手した。

四人他生徒達は洗顔と着替えを済ませて、朝食場所となっている大広間へと移動した。

今朝は、皿うどんも並べられていた。生徒達や先生方はウスターソースなどをかけて味わう。

朝食後、お部屋の整理整頓を済ませて八時頃に旅館をあとにした。

貸切バスは長崎市内から島原港へ。

辿り着くと、貸切バスは超高速カーフェリー『オーシャンアロー』に積み込まれる。生徒達先生方一同はバスから一旦下りて、船内や甲板へと散らばった。

それからしばらくのちフェリーはブオーッと汽笛を上げ、熊本港へ向けて出港した。

船内。

「うーっ、気分悪っ。揺れ過ぎ」

 窓際席に座る小夏は、やや苦しそうな表情をしていた。

「こなつちゃん、大丈夫?」

 その隣に座る緑は、心配そうに話しかけた。

「酔い止め、あんまり効果なかったみたい。バスとフェリーのダブルパンチはきついわ。これぞリアル島原の乱ね」

「花見、島原の乱っていうのはな、寛永一四年……」

 どこからともなく現れた酒田先生が小夏に近寄ってくる。

「あーん、聞きたくありませーっん」

 小夏は席を立ち、他の座席へと逃げていった。

「せっかく船酔い気分、忘れさせたろうと思ったのにな」

 酒田先生はにこりと微笑んだ。

 生徒達先生方は写真を撮り合ったり、談笑したりお菓子を食べたり、甲板でカモメにエサをやったりしてくつろぐ。

 熊本港には、出港してからわずか三〇分ほどで辿り着いた。

 一同は再び貸切バスに乗り込む。

ここから貸切バスは、阿蘇山の方へと向かっていく。

しおりのスケジュール表に次の予定として書かれていたのは、乳搾り体験。山麓に広がる牧場へと移動する。

白黒斑模様でお馴染みのホルスタイン達が、そこで草を貪りながらのんびり過ごしていた。

生徒達は牧場のおじさんから説明を受けたあと、乳搾りにチャレンジしていく。

「わたしからやるーっ」

 二組六班は、緑が先頭を切った。ホルスタインにそーっと近づき乳頭を指でつまみ、そばに置かれたバケツの中へ搾り出していく。

「すごーい、ほんとに出たよ、お乳。面白ーい」

 上手くいくと、緑は子どものようにはしゃぎ出す。

 続いて小夏がチャレンジしてみた。

「こうかな? うわっ、なんか思ったより簡単に出て来た」

 小夏はいきなり出てきた牛のお乳に少し驚く。

「コナツ、上手だね。次はマユコからどうぞ」

「ちょっと、怖いな。私、牛さんのぬいぐるみやキーホルダーはすごく好きなの。でも、本物の牛さんはちょっと……大きくて迫力あるし」

 真優子はぼそぼそと打ち明けた。

「真優子ちゃん、二次元美少女キャラは大好きだけど、三次元は無理だっていう船曳先生と同じような感覚ね」

 小夏はにっこり微笑んだ。

「ホルスタインは大人しいから大丈夫だって」

 希佳に説得され、真優子は恐る恐るホルスタインへ近づく。

「失礼します」

こう一言告げてから、乳頭を指でそっとつまんだ。そしてきゅっと揉んでみる。

「あっ、出た」

真優子のお顔はちょっぴり赤らんだ。

「最後はワタシだね。牛ちゃん、こんにちは」

 希佳はホルスタインに向かってぺこりと一礼した。

 ウモゥゥゥゥゥゥゥ。

 意思が通じたのか、ホルスタインは大きな鳴き声をあげる。

希佳も真優子と同じようにして揉んでみる。

「ありゃま? 出ない。出し切っちゃったのか」

 ウモゥゥゥ。

 残念がる希佳に、ホルスタインは申し訳なさそうに謝った、ような気がした。

このあとは、牧場近くのレストランでランチタイム。

 各班、決められた席に着く。

 メニューは各自、自由に選べるようになっていた。

「思ったよりもたくさん種類があるね」

「どれにしよう。迷うなあ」

緑と小夏はメニュー一覧をじっくり眺める。

「馬肉カレーがお勧めみたいよ。さすがは熊本。ワタシ、それにしよう」 

「じゃ、あたしも」

「わたしもーっ」

 希佳の選んだメニューに、小夏と緑も同調する。

「そんじゃコナツ、グリーンさん。辛さどれにする? いろいろ選べるよ」

「あたし、大辛にするよ」

 小夏は迷わず答えた。

「おう、辛口よりさらに上の一番辛いやつか。コナツ勇気あるね。辛いもの好き?」

「うん! 大好き。韓国料理とか四川料理とかタイ料理とか、大好物なの」

「すごいね。本当に、大辛にするつもり?」

 希佳は念を押して訊く。

「もっちろん!」

 小夏は気合十分な様子だ。

「こなつちゃんって昔から激辛料理には目が無いからね。幼稚園の頃、遠足でおやつにカラムーショ持ってきてたし。わたし辛いのは全くダメ、わたしは甘口にするよ」

 緑は笑顔で言う。

「あたし、甘い物も大好きよ。甘い物食べてからすぐに辛い物食べると、辛さがより一層強く感じられて最高のエクスタシーを味わえるもん」

小夏は満面の笑みで嬉しそうに語る。

「スイカと塩に代表される味の相乗効果ね」

 真優子はくすりと微笑んだ。

「希佳ちゃん、あたしと勝負しない? 大辛食べて、どっちが先に平らげるか?」

 小夏は希佳に挑戦状を叩きつけた。

「やめとく。ワタシ辛過ぎるのは無理。中辛にする」

 希佳は手をぶんぶん振り、拒否のサインをとる。

「そっか。希佳ちゃんの舌もお子様なのか」

 小夏はくすっと笑った。

「あっ、コナツのさっきの発言ちょっとムカついた。ワタシ、やっぱ大辛」

 希佳は眉を顰める。これにはカチンときたようだ。

 こうして三人のメニューが決まる。

「まゆこちゃんは何にする?」

 緑は問いかけた。

「あのね、私、お子様ランチが食べたいの。お飲み物はミックスジュースで」

 真優子は顔をやや下に向けて、照れくさそうに小声でポツリとつぶやいた。

「マユコ、今でもお子様ランチ食べたがるなんてかわいいとこあるねえ」

希佳はにっこり微笑みかけた。

「さすがにちょっと恥ずかしいんだけどね、どうしても食べたくて……」

 真優子のお顔はさらに下へ向いた。

「まゆこちゃん、わたしも中学一年生の頃までは頼んでいたから、全然恥ずかしがることはないよ」

「そうそう、きっと後悔するよ。ここのやつは年齢制限ないみたいだし」

「向こうの席見て。他にも食べてる子いるよ。マユコも堂々と頼んだらいいじゃん」

三人がこうアドバイスすると、

「じゃあ私、これに決めた」

真優子は顔をクイッと上げて、意志を固めた。

希佳はボタンを押してウェイトレスを呼び、三人のメニューを注文する。

「……それぞれお一つずつですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

 ウェイトレスは確認し終えると爽やかスマイルでそのままカウンターへと戻る。真優子のことを全く疑っていないようだ。

 

「お待たせしました。お子様ランチでございます。それとお飲み物のミックスジュースでございます。はいお嬢ちゃん。ではごゆっくりどうぞ」

 真優子の分が最初にご到着。新幹線の形をしたお皿に、旗の立ったチャーハン、プリン、タルタルソースのたっぷりかかったエビフライなど定番のものがたくさん盛られている。さらにはおまけにシャボン玉セットも付いて来た。

「先に食べてていいよ。マユコ、いつも食べるの一番遅いし」

 希佳は許可を出した。

「ありがとう。それじゃ、いただきます。エビフライは、私の大好物なの」

 真優子はしっぽの部分を手でつかんで持ち、豪快にパクリとかじりつく。

「美味しいーっ!」

 その瞬間、真優子はとっても幸せそうな表情へと変わった。

「真優子ちゃん、あんまり一気に入れすぎたら喉に詰まらせちゃうかもしれないよ」

「モグモグ食べてるまゆこちゃんって、なんかアオムシさんみたいですごくかわいいね」

 小夏と緑はその様子を微笑ましく眺める。

「食べさせてあげるよ。はい、あーんして」

 希佳はもう一匹あったエビフライをフォークに突き刺し、真優子の口元へ近づけた。

「ありがとう、希佳さん。でも、食べさせてもらうのはちょっと恥ずかしいな。このお皿の上に置いといてね」

 真優子のお顔は、ステーキの焼け具合で表すとレアのように赤くなった。

それから一分ほど経ち、他の三人の分も続々運ばれて来た。

「それじゃ、希佳ちゃん。勝負始めましょっか」

「うん!」

 小夏と希佳は睨み合った。

「ねえみんなーっ、今からこなつちゃんときかちゃんの激辛カレー早食い対決が始まるよーっ」

 緑は大声で叫ぶ。するとたちまち大勢の生徒達が二人の周りに集まってきた。一般客の一部もちらりと眺めていた。

「コナツ、べつに呼ばなくてもいいのに。なんか恥ずかしい」

 希佳は少し迷惑がっている。

「あたしはますます気合入っちゃったよ」

 小夏はとても嬉しそうだった。

【いーけ、いーけ、いーけ、いーけ!】

 多くの群衆から喝采を受ける二人。

「二人とも頑張れ。それじゃ、よーい、スタート!」

 緑は合図を掛けた。

「いただきまーす」

 小夏が先攻を取った。スプーンでルーとライスをいっしょに掬い、お口に運ぶ。

「美味しいーっ」

 瞬間、満面の笑みを浮かべた。

「ワタシも余裕で食べるよ!」

 こうなってしまったら後戻りは香車の駒のごとくもう出来ない、と感じた希佳は少し躊躇いながらもスプーンでルーの部分だけを掬いとり、すばやく口へと放り込んだ。

「あれ? あんまり辛くないような……」

 ところがそれから約二秒後、

「うっ、うひゃあああああああ!」

 希佳はガバッと立ち上がってセルフサービスドリンクコーナーに向かって一目散に突っ走り、メロンクリームソーダを取り出しゴクゴクゴクゴク飲み干す。彼女の口元はまるでバーナーの点火口と化していた。辛さは後になってじわり、じわりとやって来たのだ。

「もうギブアップ? あたしの圧勝ね」

 アハハハッと大声で笑う小夏。得意げに勝利のポーズVサインもとった。

「今日は調子悪かっただけ」

意地でも負けを認めようとはしない希佳、悔しさとはまた別の涙を流していた。彼女は大辛馬肉カレーをウェイトレスに下げてもらい、緑と同じ甘口を注文し直したのであった。


「こなつちゃんすごーい。途中で水も飲まずに全部平らげちゃった。完食おめでとう!」

 小夏の成し遂げた偉業? に、緑はパチパチ拍手する。

「楽勝だったよ。全然辛くなかったもん。馬肉はとっても美味しかったけど、ちょっと期待外れかな」

「ねえ小夏さん、胃は、大丈夫?」

 真優子は少し心配そうに尋ねた。

「平気、平気」

 小夏は爽やかな表情で答えた。

「さすがですね」

 真優子はほとほと感心する。


昼食を終えた一同は、貸切バスに乗って草千里ヶ浜へと移動した。

牛や馬達がのどかに過ごし、草が青々と茂るこの場所で記念撮影を済ませたあと、ロープウェイに乗って阿蘇山火口付近まで行く予定となっていた。

しかし、火山ガスが規定値より多く発生していたため立ち入り出来ず。

一同はこの近くにある火山博物館で過ごすことになった。火口の様子はここにあるライブカメラで眺める。

「あたし、本物をめっちゃ見たかったーっ」

「わたしもーっ。天気すごく良いのに残念」

 がっかりする小夏と緑に、

「これも自然の成り行きなり」

 鶴見先生はこうおっしゃられた。


今夜の宿泊先は、阿蘇にある国民宿舎。

 生徒達の泊まるお部屋は純和室で、布団はすべて畳敷き。

夕食時。生徒達は馬刺し、辛子レンコン、高菜ライス、いきなり団子といった熊本名物料理に舌鼓を打った。

入浴時間、今日は一・二組が二番目だった。

「久し振りのお風呂、とっても気持ちいい」

 希佳は幸せそうな表情を浮かべて湯船でゆったりくつろぐ。

「たった一日空けただけじゃない」

 小夏は呆れ顔で突っ込んだ。

「ワタシ、毎日入らないと気がすまないんよ」

「タイミング悪くアレ来てて、三日とも湯船に浸かれなかった子も何人かいるのよ」

「それはご愁傷様」

 小夏の伝言に、希佳は憐憫の気持ちを持ってコメントした。

「私はまだ来てないよ。あの、今夜の学年レクは、クイズ大会なんだけど出てみない? 二人一組で飛び入り歓迎。優勝すると、あのハウステンボスに売ってた特大テディベアが貰えるの」

 真優子は少し興奮気味になりながら三人を誘ってみる。

「あれが貰えるの!? わたし、出る、出る!」

 緑はかなり乗り気だった。

「なんか微妙。ワタシ、せめて人気アニメブルーレイ全巻セットとかがいいな」

「あたしはそれに加えてゲームソフトとラノベ人気作品詰め合わせも欲しい」

 しかし希佳と小夏はそうではないようだ。

「希佳さん、出てくれない。私、みんなの前に出るのは恥ずかしいよ」

 真優子は希佳の目を見つめながらお願いする。

「それはダメ。クイズってことは暗記してるかどうかの知識問題がほとんどでしょ。そういうのはワタシ、苦手なんよ」

 希佳は優しく説得した。

「まゆこちゃん、わたしといっしょに出よう。学年トップのまゆこちゃんとコンビなら優勝間違い無しだよ」

「プレッシャー感じるなあ」

 真優子はちょっぴり困り顔になった。

「大丈夫! わたしも一生懸命頑張るから」

 緑は自信満々に言い張った。

 こうして風呂から上がった後、緑と真優子のペアで出場登録を済ませた。

全クラスが入浴を終えた後、生徒一同と先生方は館内大ホールへと移動した。

 舞台上には長机と、参加者人数分のパイプイス。長机の上にはチーム数分の押しボタンと、色紙が数枚置かれていた。

全部で十二チーム二十四人が出場することになっていたのだ。

緑と真優子他、参加者は舞台に上がり、イスに座って始まるまで待機。

しばらくすると、

あんたがたどこさ、肥後さ、肥後どこさ♪ という歌声がホール内のスピーカーから流れ始めた。『肥後手まり唄』である。

【ではこれより第二回学年レク、クイズ大会を始めますばい】

 その音声を背景に、司会進行役が告げる。すると客席にいる生徒達から大きな拍手が沸いた。司会進行役は初日の第一回学年レクと同じく、学年レク実行委員長が務める。

 クイズの形式は、早押しと書き取り。その両方がランダムに出題されるとのこと。最初に五ポイント獲得したチームが優勝となる。

【それでは第一問、日本一高い山……】

「分かったーっ! 富士山だ。楽勝、楽勝」

 緑は問題文が「山」と言い終えたところですばやくボタンを押し、自信満々に答えた。

 数秒間の沈黙。

「あれ? 違うの? 合ってるよね?」

 緑は客席の方をきょろきょろ見渡す。

 次の瞬間、

 ブブーと不正解音が鳴り響いた。

同時に、生徒達から笑いも起こった。

「えっ、なんで、なんで?」

【ですが……日本で二番目に高い山は何でしょう?】

 動揺する緑をよそに、司会進行役は問題文を続けた。

「知らなーい」「二番目なんて眼中にないよ」「立山?」

 客席にいる生徒達は叫ぶ。

「こらこら、おまえら。一年生の時に地理で習わんかったんか?」

 酒田先生は笑いながら突っ込んだ。

「北岳です。ちなみに標高は三一九三メートルです」

 真優子が答えた。

【正解。でも一度間違えてるのでポイントはあげられません。分かってたのに惜しかったね、魚田・大学チーム。早く答えたいという気持ちが墓穴を掘りましたね】

 司会進行役はにやりと微笑んだ。

「さすがや、大学さん」

 酒田先生は褒めて、パチパチ拍手した。

「ずるい」

 緑は不平を呟く。

「緑さん、問題はなるべく最後の方まで聞くことが大事よ」

「ごめんねー」

 真優子に注意され、緑はてへっと笑う。

【魚田・大学チーム、これから五問、つまり六問目終了まで回答権がありません】

 司会進行役が嬉しそうに告ぐ。

「そんなー」

「五問も!?」

 緑と真優子は嘆いた。

「これはまずいかも」

 客席にいる小夏も少し心配する。

「グリーンさん、マユコ。まだ諦めたらダメよ」

 希佳は客席からエールを送ってあげた。

【第二問、日本一長い駅……】

 またも言い切る前に、あるチームがボタンを押した。

「阿蘇下田城ふれあい温泉駅」

 そのチームの一人が、ぼそぼそとした声で答えた。

【正解。日本一長い駅名とされる、南阿蘇水の生まれる里白水高原駅の西隣にある、これもまた長い駅名を持つ駅は何駅でしょう? という問題でした。鉄研チーム、推察力抜群ですね】

 司会進行役に褒められ、鉄研チームのメンバー二人は照れ笑いした。

「マニアかよ」

 小夏はすかさず突っ込む。

「私も知らなかった。さすが鉄道研究会の子達ね」

 真優子はほとほと感心する。

 続く三問目も四問目も五問目も正解チームが出てしまい、ポイントを先制されていく。

(全部分かってたのに)

 真優子は内心、とても悔しがる。

(まゆこちゃん、本当にごめんね)

 真優子のその心境が、緑にも伝わったようだ。真優子の表情に表れていた。

【第六問、次の漢字の読みを答えなさい】

 司会進行役が告げると、鶴見先生が大きな画用紙を持って舞台の上に上がってきた。

 画用紙には、『鹿尾菜』という文字が墨で大きく書かれていた。

 参加者の方に見せた後、客席にも見せる。

「読めへんわー」「しかおな?」「むずっ」「分からん」「漢検何級くらいの問題?」

 当然のような反応が起きた。

 回答権のあるチームは、用意された色紙に答えだと思うものを書き記していく。

 制限時間の十秒が経ち、

【そこまで、皆さん答えをオープン】

 司会進行役は命令する。

出された答えは、[しかおさい][かおな][かびさい]、無回答の四パターンだった。

【なんと全チーム不正解。あの、ひょっとして魚田・大学チームは知ってましたか?】

「ひじき」

 真優子がちょっぴり悔しそうに答えた。

【おおおおおっ! やはり。さすが中間テスト学年トップ、橙女中最強の頭脳ですね。ちなみに鶴見先生はこれを毎日食べて、髪の毛の黒さを維持してるそうですよ。これより魚田・大学チーム、復活!】

「やったあ!」

「良かった」

ようやく回答権が戻って来て、緑と真優子は表情がほころんだ。

この形式だと正解チームが複数出る場合がある。その場合、ポイントが与えられるチームはじゃんけんで決められる。つまり運も左右されるのだ。

その後は、九問目まで早押しクイズが続き、魚田・大学チームが独走する。一気に三ポイント獲得し、トップに躍り出た。

 ところが、十問目、ダイヤグラムに関する数学問題。十一問目、難読地名のひらがな表記と連続で続いた書き取りクイズで共に正解したものの、他に正解していた鉄研チームにじゃんけんで連敗し、彼女らに並ばれてしまった。

その次の問題に差し掛かる前に、

【これより、スペシャルゲストのご登場です。どうぞ】

 司会進行役がそう告げると、持丸先生と酒田先生が客席に向かって手を振りながら、舞台の上に上がってきた。

 他の修学旅行実行委員の子達がイスと、その他必要な物を手配する。

 客席からは、大きな拍手が沸いた。

「まゆこちゃん、先生が参加するよ」

「酒田先生は、雑学の知識も豊富よ。ア○ック25の予選に、もう少しで通過するところまでいったこともあったらしいの。ちょっと厳しくなるかも」

「本当? 酒田先生凄すぎる」

 魚田・大学チーム、やや自信を失う。

【それでは第十二問、鶴見先生の飼っているペットの鶏の名前は?】

 司会進行役は、一般教養を身に付けただけでは答えられないような問題を出してきた。誰もボタンを押さない状態が続く。十秒間回答がないと全員不正解となる。

「まゆこちゃん、知ってる?」

「さすがの私でも、先生の秘密なんて知るわけないよう」

 緑の問いかけに、真優子は困惑する。

「チャボ衛門です。皆さん答えないから遠慮せずに押したよ」

 あと一秒でタイムアップになるところで、持酒チームがボタンを押した。答えたのは、持丸先生だ。

【正解。さすが! この問題は先生方しか知らないですよね。第十三問。アルファベットでUNC……】

「「はいっ!」」

 またも持酒チームが、目にも留まらぬ速さでボタンを押した。

「国際連合貿易開発会議」

 酒田先生が冷静な口調で答える。

【正解です。アルファベットでUNCTADと表記されるものは、何の略称なのか答えなさいという問題でした】

「はっ、早い。私は問題文最後まで聞いたら分かったよ」

「さすが社会科の先生だね」

 真優子と緑は唖然とした。

十二問目から十五問目までずっと早押しクイズで、持酒チームが正解し続け四ポイント獲得。魚田・大学チームは一気に逆転された。

「なんで先生が出るんですか? 反則ですよ」

 緑は抗議する。

「うちらと先生じゃ、実力に差があり過ぎますよ」「せこい」「不公平です」「ハンディ付けてーっ」

 他の参加者からもブーイングが起きた。

「世の中そんなに甘くはないねん」

 酒田先生はそれに臆せず、きりっとした表情で言い張った。

「先生もあのぬいぐるみさん欲しくて、でも、先生だけの力では絶対無理だから酒田先生にお願いしたの」

 持丸先生は照れくさそうに打ち明けた。

【酒田先生、優しいですね】

 司会進行役はパチパチ拍手する。連動するように客席からも。

「いやあ、まあ。かわいい教え子のためなら」

 酒田先生は微笑み顔で告げた。

【では、第十四問、数学に関する問題です。サインθを微分するとコサインθ、ではコサインθを微分……】

 魚田・大学チームはここでボタンを押した。

「マイナスサインθ」

真優子は大きな声で答えた。

【正解。数Ⅲレベルの問題なのに、よく分かったね。ちなみにうちはこの間の中間テスト、数学21点でした】

 司会進行役は照れ笑いながら自嘲する。

「今こんな点数取ってたら、これから大変な目に遭っちゃうよん」

 船曳先生はその子に向かって苦笑いしながら忠告しておいた。

 この問題には持酒チームも手に負えなかった。

これにて魚田・大学チーム、持酒チーム、共に優勝にリーチのかかった4ポイント。

他の十一チームのうち、三ポイント獲得が鉄研の一チームだけで、他は一ポイントと0ポイントだった。

 もはや魚田・大学チーム、持酒チームの一騎打ちといった感じだ。

「先生、絶対負けないよ」

 緑は持酒チームの二人を見つめる。

「こちらも手加減しないわよ」

 持丸先生は微笑んだ。

「そういや魚田さん、一問も正解答えられてへんやん。全部大学さんの力やろ?」

 酒田先生は挑発してくる。

「いいじゃないですか!」

 緑はぷくぅと膨れた。

「みどりちゃん、頑張れーっ」「ファイト!」「酒田先生に一矢報いてやり」

 他のチームの子達から応援される。もはや他のチームは、勝負を捨てているように見えた。

【では第十五問。江戸時代に活躍した、長崎県生月島……】

「「はい!」」

 最初に押したのは、鉄研チームだった。

「「生月鯨太左衛門」」

 二人、声を揃えて答えた。

【正解。江戸時代に活躍した、長崎県生月島出身、二メートル二七センチの身長を誇る力士の名前を答えよという問題でした。マニアックな分野の知識量はすごいですね】

 司会進行役は褒め称える。

 これにて鉄研チームも4ポイント獲得。優勝争いに加わった。

「白鵬さんよりも強いのかなあ。まゆこちゃん、知ってた?」

 緑は問いかける。

「お相撲さんのことはさすがに知らないよ。あの子達すごいな」

 真優子は鉄研チームに少し尊敬の念を抱いた。同時にあのチームに絶対負けたくないという気持ちも高まった。

【じつは、ボーナスポイント問題を出して一気に5ポイントの大逆転、なーんてのを打ち合わせ会議で考えていたんですけど、酒田先生からお叱りを受けて没になっちゃいましたーっ】

 ここで、司会進行役は笑いながら打ち明けた。

 参加チームや客席から「えーっ」「それじゃあ盛り上がらない」などとため息が漏れる。

「地道にコツコツ積み重ね。それが大切なことやねん」

 酒田先生はみんなに向けて言い放った。

【おっしゃる通りですね。では第十六問、レモンなどに多く含まれる、ビ……】

 今度は持酒チーム、魚田・大学チーム。ほぼ同時にボタンが押された。

(遅れちゃった)

(たぶん、答えはあれね)

 鉄研チームの二人は、ちょっぴり悔しがる。

【これはどちらが先か。判定は鶴見先生にしてもらいましょう】

 司会進行役がそう言うと、鶴見先生がゆっくりとした歩みで舞台の上に上がってきた。

「ほんの一瞬、0.05秒くらい、魚田・大学チームの方が速かったかな」

 鶴見先生は穏やかな声で告げる。

「やったあ!」

「嬉しい」

 緑と真優子は手を取り合い、大喜びした。

【それでは魚田・大学チーム、三秒以内に答えをどうぞ。3、】

 司会進行役は告げる。

「L‐アスコルビン酸」

 真優子は大きな声で答えた。

 

(間違ってた?)

 真優子の心臓の鼓動は急激に高まっていく。

 答えたあと、沈黙が続いていたのだ。


【正解! レモンなどに多く含まれる、ビタミンCの正式名称を答えなさいという問題でした。優勝は魚田・大学チーム。特大テディベアゲット、おめでとうございます!】

 十秒ほどのち、司会進行役は大きな声で叫んだ。

 そのあと客席からの歓声と盛大な拍手、そして他のチームからも拍手が送られた。

「先生の負けね。普通にビタミンCって答えようと思ったの。あなた達の勝ちよ」

「アタシも正式名称は知らんかった。魚田さん、大学さん。ようやった。おめでとう!」

 持酒チームも拍手を送った。

「バンザーイ! まゆこちゃん、わたしたち、優勝だよ」

 緑は、呆然としていた真優子の体を揺さぶる。

「……ゆっ、優勝、優勝!? 嬉しい、すごく嬉しい」

 真優子はハッと気付いた後、声を徐々に大きく出して喜びを実感した。ちょっぴり嬉し涙も流れていた。

【はい、どうぞ。持てるかな?】

 司会進行役は二人に、高さ一メートル以上はある特大テディベアを手渡す。

 緑と真優子、片方ずつ持って受け取った。

 再び客席と他のチームから盛大な拍手が送られる。

他のチームに続き、緑と真優子も舞台から下りようとしたその時、

「ちょっと待った、魚田さん、大学さん。こんな景品じゃまだ物足りないよねん。ワタクシからもう一問、クイズを出題するよん。それに正解すればニューヨーク旅行券をプレゼントするよん」

 船曳先生が突如舞台の上に上がってきて、こう告げた。客席にいる生徒達からも大きな拍手が沸いた。

「ニューヨーク旅行券って、さすが芦屋の坊っちゃんね」

「気前良過ぎる」

 小夏と希佳の、彼に対する高感度はますますアップした。

「挑戦してみるかい?」

 船曳先生は尋ねる。

「特大テディベア貰ったし、わたしべつにいいや」

「私ももう十分です」

 緑と真優子は断った。すでに大満足していたからだ。

「挑戦してーっ」

「マユコ、グリーンさん。やって、やって」

 小夏と希佳は強く要求した。

 他の生徒達からも同じような声援が送られた。

「じゃあ、やってみましょう」

「そうだね」

 真優子と緑のやる気が急上昇した。二人は再びイス席に戻る。

「それでこそ橙女生だ。山の高さに関する○×クイズを出題するよん。かなり難しいけどねん、大学さんの実力は侮れないからな。ちょっと準備するよん」

 船曳先生がそう告げると、緑と小夏が座っている場所七、八メートル後ろ側の幕が閉じられた。

三〇秒ほどのち、再び幕が引かれた。

 現れたのは、襖のような形をした大きな紙。横幅五メートル、高さは二メートルくらいあった。真ん中に縦の線が一本引かれていて、その右側に○、左側に×と書かれていた。

「あれって、クイズ番組によく出てくる、間違えると泥か白い粉まみれになるやつでしょ?」

 緑は突っ込む。

「その通りっさ。だから慎重に選ばないとねん」

 船曳先生はにやりと微笑む。

「魚田さん、大学さん。間違えて泥まみれになっても、替えの下着と体操服は用意してありますので、思いっきり突き破ってね」

 持丸先生は客席から告げた。

「泥まみれにはさせません」

 真優子は強く言い張った。

「ふふふ、では問題。阿蘇高岳の標高と、ニセイカウシュッペ山では、阿蘇高岳の方が高い。○か×か? さあ、正しいと思う方に飛び込みたまえ!」

 船曳先生は嬉しそうに問題文を述べる。

「ニセイカウシュッペ山って、わたし聞いたことないよ」

「私もないよ、そんな山。名前から判断して北海道にあるのは間違いないと思うけど。阿蘇高岳の標高は確か、一五九二メートルだったと思うの。ニセイカウシュッペ山の標高なんて、見当もつかないよ」

 真優子は困り果てた。

「どっち選ぼう?」

 緑も悩む。

 客席も、「どこにあるの?」「外国の山だよね?」「スイスかどっか?」といった反応が起きざわついていた。

「簡単やな。ニセイカウシュッペ山。学生の頃、一度登ったことがある」

 酒田先生は呟いた。彼女には正解が見えたのだ。

「緑さん、×にしましょう。根拠は無いけど」

「分かった。無理して考えるより、一か八かの賭けだよね。わたし、記号問題で分からないのがあったらいつもそうしてるもん」

 緑と真優子、意見を合わせると、×と書かれた方へ向かってとことこ走っていく。

 突き破った瞬間、バシャーンという飛沫音が聞こえてくる。

「あーん、間違えちゃったーっ」

「ダメだったね」

 緑と真優子は嘆いた。泥まみれになってしまったのだ。

 ところが、

「おめでとう! きみたちの選んだ答え、合ってるよん。ニセイカウシュッペ山は標高一八八三メートルっさ」

 船曳先生はにこにこ笑いながらこう告げた。

「でもわたし、泥だらけですよ」

「普通間違えたら泥まみれになりますよね?」

 緑と真優子は質問する。

「ふふふ、きみたちに“入浴”旅行券をプレゼントさ」

 船曳先生はさらっと告げた。

 数秒間の沈黙。そののち、

「騙されたーっ。でも、テディベアちゃんゲット出来たからべつにいいや」

「いい思い出が出来て良かった」

 緑と真優子は笑いながら叫ぶ。二人とも満足そうだった。

 客席からも、ドッと笑いが起きた。

こうして、第二回学年レクは華々しく幕を閉じたのであった。

 緑と真優子は舞台裏から退場し、同じフロアにある大浴場へと向かっていった。


 それから三〇分ほどして、

「ああ、さっぱりした」

「二度風呂もいいものだね」

 真優子と緑は、持丸先生に手配してもらった新しい体操服を着て、景品に貰った特大テディベアを持ってお部屋に戻ってくる。

「明日には帰っちゃうのよね」

「九州、名残惜しいなぁ」

「私ももう少しいたい気分」

 小夏、緑、真優子は窓から外を眺めて別れを惜しむ。

「最後の夜だから、目一杯盛り上がらなきゃね。ワタシ、さっき売店で『九州の怪談朗読CD』買ったんよ。今からみんなでいっしょに聴こう」

 希佳はそう言い、リュックの中からその商品と、家から持ってきていた小型CDラジカセを取り出した。

「わっ、私、聴きたくないよううううううう」

真優子は耳を塞ぎ、カタカタ震え出す。

「マユコは相変わらず怖がりやね」

 希佳はくすっと笑う。

 朗読CDのパッケージには、一つ目小僧やろくろ首、お菊などなど有名な妖怪のイラストが多数描かれていた。

「きかちゃん、それはやめてあげてね。緑ちゃんが“おねしょ”しちゃうかもしれないから。小四の時の野外活動でね、レクリエーションで怪談やったんだけど、それが原因で夜中にトイレ行けなくなって……朝、緑ちゃんのお布団の上見たら、ジュワーッて」

 小夏はにやにやしながら語る。

「あああああああーっ、こっ、こなつちゃん、その恥ずかし過ぎる過去はバラさないでーっ」

 緑は顔を熟したトマトのように真っ赤にさせながら枕を手に取り、小夏に向けて投げた。見事顔面にヒット。

「緑ちゃんナイスコントロールだ。ごめんね」

「わたし、今はそういうの、ちっとも怖くないもん」

 緑はややムスッとしながら言い張る。

「本当かな?」

 小夏はアハハと笑う。

「実験してみよう」

希佳はそう呟いて、CDラジカセの再生ボタンを押した。

【一、佐賀怪猫奇談】

 おどろおどろしいBGMと老婆の声が流れる。

「きゃっ、きゃああああああああっ!」

 緑は悲鳴を上げ、すばやく停止ボタンを押した。

「希佳さん、こんなもの持ってきちゃダメでしょ」

 真優子は震えながら、泣きそうになりながら注意した。ちゃっかり、先ほどプレゼントされた特大テディベアにしがみ付く。

「グリーンさんもやっぱり怖いんだ。まだタイトルしか読み上げられてないのに」

 希佳はくすっと噴き出した。

「わたし、じつはまだ夜電気付けたままじゃなきゃ寝れないんだ」

 緑は照れくさそうに言った。

「今ちょうどホラー映画やってるよ」

 小夏はテレビの電源を付けた。画面いっぱいにゾンビが映し出されていた。

「こなつちゃん、やめて、やめて」

 緑は小夏の体を揺さぶり、リモコンを奪い取ろうとする。

 ちょうどその時、

「こらーっ、おまえらっ、さっきから騒ぎすぎや!」

 部屋の扉がガラリと開かれた。

 四人はぴたりと静かになる。

「一体何があったんよ?」

 酒田先生は呆れ顔で問いかけた。

「こなつちゃんが、ホラー映画を見せてくるんです」

「酒田先生、小夏さんと、希佳さんも叱って下さい!」

緑と真優子は強く言い張った。

「なんや、そんなことかいな」

 酒田先生は微笑んだ。

「ひどいですよね?」

 緑は話しかける。

「それくらいならまあええやんか。んっ? あそこに置いてるもん、CDラジカセやな。なんでこんなもん持ってきとるねん? 誰が持ってきたんや?」

 酒田先生は微笑み顔から次第に険しい表情になった。

「ワッ、ワタシです」

 希佳はびくびくしながら答えた。

「仙頭、CDラジカセ禁止言うたよなあ?」

 酒田先生は希佳に顔を近づけ問い詰める。

「はっ、はい。おっしゃいました」

 希佳は額からつーっと冷や汗が流れ出た。

「なんで持ってきてん? 答えてみぃ」

 酒田先生は大声で怒鳴り付けた。

緑と真優子はびくーっと震えた。

「そっ、それは…………ごめんなさい」

 希佳は頭を深々と下げて謝った。

「酒田先生、こなつちゃんはこんな物まで持ってきています」

 緑は、表紙にメイド服やスクール水着、セーラー服などを身に纏った女の子達が描かれた本を手に持ち、酒田先生に見せ付けた。

「ん?」

 酒田先生はそれをちらり見た後、小夏の方を向く。

「さっ、さっ、酒田先生。これは、小説なんですよ。小説は持ってきていいって言いましたよね?」

 小夏は慌て気味に言い訳する。

「見せてみぃ」

 酒田先生は緑から奪い取ると、中身をパラパラッと捲ってみる。

「なんや、絵ばっかりやないか。しかも中学生には如何わしい。これはマンガや! 没収」

 続けてこう一喝した。

「あっ、あの、酒田先生。これはライトノベルといってですね、中高生向けの読みやすい文体で書かれた小説で……文字もいっぱいあるでしょ」

 小夏は必死に伝えようとする。

「問答無用! こんなのは小説と認めん。おまえらっ、連帯責任として全員廊下で正座や!」

 酒田先生は緑と真優子の方も睨み付け、強く言い放った。

 緑と真優子はびくーっと反応する。

こうして四人は、このお部屋すぐ前の廊下で正座させられたのであった。


「みんなに見られて恥ずかしい。もう、きかちゃんのせいだからね」

「希佳さん。酒田先生、怪談よりも怖かったよ」

 緑と真優子は厳しい目つきで希佳をギロリと睨み付ける。

「ごめん、グリーンさん、マユコ。ワタシ、反省してる」

 希佳はてへっと笑う。

「最後の夜に、いい思い出が出来て良かったよ」

 小夏は今の状況を楽しんでいるようだった。


就寝時刻になる頃に四人はようやく許してもらえ、お部屋に戻されたのであった。

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