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似た者同士

今日も愛美は裕之の家にいた。

家にいてもする事がない。お金も無く、趣味もなく、友達もいない彼女にとって、いる場所はここだけだった。

結局、アルバイトは辞めてしまった。もともと嫌々始めたものだし、あそこにいれば裕之の悪口が嫌でも耳に入ってくる。それを聞くのがもう耐えられなかった。というよりは、本当のところはさえない社員とさえないバイトが付き合っているということがバレるのが怖かった。

あの変化のない狭い世界では、従業員のうわさ話が会話の大半を占めている。

誰々が誰々に言い寄っている。

誰々が誰々に振られたらしい。

そんな噂は風のように駆け巡る。

ましてや、キモタケの話となれば一層盛り上がるだろう。

考えたくもなかった。

「キモタケと吉岡が付き合っているらしいで!!」

それは、彼女自身が、キモタケと同レベルまで堕ちてしまうことを意味しているような気がした。


彼氏の家にいるからといって、何をするわけでもない。いつも裕之がゲームをしているのを後ろからただ見ているだけだ。

湿っぽい六畳のワンルームマンション。脱ぎ散らかされた服やゴミがそこら中に転がっている。床に敷かれたカーペットには、髪の毛だか何の毛だか分からないものがびっしりと絡みついている。初めてその事実に気づいた時はゾッとしたがもう慣れた。それでも最初にここに来た時はまだ少しは片付いていた。会話も少しはあった。それが今や、気を使われることもなく、会話もなく、部屋にあるただの置物と同じような扱いである。

一体なぜ彼と付き合っているのだろう。

愛美は思う。

人生で男の人と付き合ったことなど一度もなかった。それでも人並みに恋に恋した時代もあったはず。

しかし、彼にお茶に誘われた時も、彼の家に誘われた時も、驚きや喜びというものは少しも感じなかった。

ああ、そうなんや。

と思っただけだ。断るのも面倒くさかったし、少しは焦りもあった。彼女自身、今の自分の中で何かが変わることを期待した。

付き合うときも、

初めてのキスをするときも、

自らの処女を捧げるときも、

醜いイモムシが美しい蝶へと生まれ変わり、大空へと飛び立つのを夢見ていた。


しかし、何も変わらなかった。


一度だけ、なんの気まぐれか、裕之の友人カップルと食事をする機会があった。

裕之の友人はパリッとしたスーツを着て、優しそうな人だった。彼女もオシャレで可愛らしい今どきのOLといった感じだった。

一体なぜこの二人が友達なのか分からない。友人は、キモタケと言われ、馬鹿にされている裕之に対しても対等に、時に笑いも織り交ぜながら愛美たちを楽しませてくれた。その会話の中でも彼女に対する気遣いは欠かさず、友人の彼女も楽しそうにニコニコと笑っていた。

愛美の理想としていた恋人たちの形がそこにはあった。


オシャレなスーツ

ヨレヨレのトレーナー

爽やかにセットされた髪の毛

ボサボサで洗っているのかも分からない髪の毛

彼女を見る優しそうな瞳

一切彼女の顔を見ず、一人よがりな話を続ける姿


友人と、裕之を交互に見比べ、自分がますます惨めな気持ちになっていくのを感じていた。

愛美はその場にとてもいることが出来ず、涙をこらえながら逃げ出した。

裕之は追いかけてはくれなかった。





「愛美ちゃわ〜ん」

ゲームに飽きると裕之は愛にしがみつき、ベッドに押し倒してくる。

饐えたような彼の匂い、そして、口の中に入ってくるヌメヌメとした感触に吐き気をもよおしながら、愛は言った。

「ねえ、電気消してよ。恥ずかしいやん」

見られたくないのは確かだった。こんな男に自分の大事なところを見られたくはない。しかし、その事よりも、光の下で、彼の顔を間近に見ることが耐えられそうになかった。

電気は消され、裕之の顔は黒く塗りつぶされたが、口の中の不快な感触はそのままに、手が愛美のシャツの下に潜り込んでくる。


もう嫌だ。


その顔も、

舌の感触も、

荒い息づかいも、

身体を弄るこの汚らしい手も、

愛美の身体に滴りおちてくる汗も、


とにかく彼の全てを嫌悪していた。


何の感情もないまま彼に抱かれている中で考える。

彼にとっての私とは何なのだろう。

ゲームに飽きたら射精をし、その後はまたゲームを続ける。

まるで、このベッドの下の本やDVDと同じ、必要な時だけ引っ張りだされ、使用される。

ただの自慰のためのネタの一つ。


愛美は、ベッドの下に押し込まれ、大量のエロ本や、DVDの横に並べられ、埃を被って、朽ちていく自分を想像していた。


「痛いっ!」

無理に挿入しようとした裕之に愛美は叫び、そのまま彼を振り払う。


「いっつも無理矢理は止めてって言ってるやろ!もうさしてあげへんでっ!!」


「ゴゴゴ、ゴメンッ!!」

愛美のあまりの剣幕に裕之は下を向いて正座し、彼の粗末なものはすっかりしょげかえっている。まるで親に叱られた小さな子供のよう。

そのまましばらくソッポを向き、裕之を見ないようにする。彼はただひたすらに謝ってくる。


ああ、なぜ彼と付き合っているのかがようやく理解出来たような気がする。

私はただ、自分より下の存在を見て安心したいだけ。あのスーパーにいた従業員と何も変わらない。強い者は弱い者を見下し、弱い者はさらに弱い者を見下す。ただ、それだけのこと。


だから、彼といると安心するのだ。

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