流石国一番の公爵家ご当主様!!
前編です。
どうも、自分の顔が整っていると初めて気がついた名無しの七歳児、男です。
ご当主様に許可されて部屋に入ったはいいんですが、振り向いた部屋のなかに居た人全員が俺の顔を見て固まりました。現在進行形。
またこの流れですか…。
ため息つきそうになったが、…危ない危ない、ご当主様達の前でそんなことしたらいけないんだった。…早く気がつかないかなーと思っていると、またもやご当主様がいち早く正気に戻り、空いてる椅子に促してきた。
え、いくらご当主様が言ったとしても貴族とそれに従う者って同席したらいけないんじゃなかったっけ?
すると俺の戸惑いに気づいたらしいご当主が、ああ、と言って笑った。
「まだ君は、正式な側仕えとして雇用された訳じゃないしな。此方としてもいきなり連れ去った非がある。私の詳しい話を聞いて嫌なら断ってくれても構わない。だがそれまでは君を引き込む為にあの手この手で話をさせてもらうよ」
少し近寄りがたいとも思わせる整った顔をご当主様はいたずらっ子のように破顔させて、言うなれば今の私と君の関係は同等の取引相手ということさ。と何でもないように言い放った。
トゥ、トゥンク…!
どうしよう、今ので少し、いやかなりご当主様のことを好きになってしまった…!いい暮らしも出来るだろうし(多分)、それにご当主様の性格が気取っていないなんて、最高じゃないか!こんな好条件の職場を棒に振るなんて、そんなことあるわけないじゃないか!!
と内心荒ぶりながら、失礼します、と平常心を装って席につく。
「…それにしても、随分と大変身を遂げたようだな。これは思わぬ掘り出し物だったようだ。」
「ええ、数十分前のあなたと同一人物なんて思えないわ…少し痩せこけているとは思うけれど、どうにかなるでしょう。見かけだけなら合格ですわ。」
ご当主様に続いて奥様も、少し驚いたように話かけてくる。
「それならあなたが顔を隠していた理由が分かるわ。その顔であの場所に居たんじゃ直ぐに拐われてしまうものね。」
「いえ、奥様。この子は生まれて一度も自分の顔を見たことが無かったようです。」
間髪入れずにライナーさんが発言する。
ラ、ライナーさんんん…!!!余計なこと言わんとって下さい!ほらあ、奥様が驚いて固まってるじゃないですか!
「んんっ」
ご当主様のわざとらしい咳に思わず背筋が伸びる。…なんかすいません。そして少し引き締まった空気と共にご当主様が話し出す。
「はじめまして、私の名はギルバート・ファスギニア、こちらは妻のエレナ・ファスギニアだ。それにこちらは私の秘書であるライナーだ。…君の名は?」
「……失礼しました。申し訳ないのですが、私に名はございません。」
そして途端に気まずくなるこの空気!どうしてくれる!
「……っそうか、それはすまないことをした。それでは君に息子のアランの側仕えになって欲しいという話についてなんだが…」
……いえ、こちらこそ失礼しました。今あなた机の下で奥様に足を踏まれてますよね……本当に申し訳ないです…。
それから意外と話が長かったので聞いたのをまとめてみると…
俺の主人となるアラン・ファスギニア様はこの公爵家の次男で最近四歳になったばかり。貴族は三歳になったら側仕えを決めるというしきたりがあるのだが、アラン様は次男とはいえ公爵家の息子なので、そりゃもう側仕え選びが難航したそうな。あ、ちなみに長男のほうは幼馴染みがそういう家系だった為に直ぐに決まったそうな。
んでもって側仕えの一族共があの手この手で色々やらかした…らしい。
なので誰か一人を選べば不満が起きるし、優秀な人材を探そうにも見つからない。それならば、
そうだ、スラム街から拐ってこよう!!
となったそうだ。え、俺が言うのもなんだけど、どうしてそうなった!!
ん?だってスラムなら拐ってきても後始末が楽だから?ちょっと頭良さそうなのを連れてきて教育したら、大丈夫、なんとかなると思ったから!?
あれ?馬鹿じゃないの、この人!確かに後始末が楽なのは否定しないよ、うん。…でももし俺が馬鹿だった、とか、抵抗してアラン様に傷負わせた、とかだったらどうするつもりだったんだよ!!
「ライナーの人の見る目は信用できるから。」
…は?そりゃ、そうでしょうね。何せ人の心が読めますもんね!?でもそういう問題じゃないだろ?
……さ、さっきまでの俺の好感度返せええ!!!
ここまで読んでいただきありがとうございます。