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俺と主人と奇妙な人生  作者: 紫苑
1/6

連れ去られた先は、公爵家!?

どうしよう、気分転換に書いてみたら、以外と筆が進んでしまった。

φ(゜゜)ノ゜


「面を上げよ」


空気が僅かに震え、耳に響くような低く重い声に命令され、戸惑いながら俺は頭を上げる。

俺が今まで生きてきたなかで、死んでも入ることが出来ないような豪華な装飾がされた部屋のなか、先程俺に命令したいやに顔の整った男が口を開き俺にとって衝撃的な言葉を放った。


「この子は私の息子のアラン・ファスギニア。今日から、君の主人だ。アラン、これがお前の側仕えになる。四歳になったプレゼントだ。」


そう言う男に紹介され目を向けると、そこには、日に当たったことがないのかと疑ってしまうほどの白く透き通った肌に、うっすらと色づいた丸い頬。鼻は小さいながらに筋が通っていて、しかも小顔。そして艶やかで混じりけのない綺麗な黒髪に、血をそのまま詰め込んで凝縮させたかのような、深みのある紅い瞳を持った愛らしい男の子が居た。

全てのパーツが一つ一つ完成していて、一寸の狂いもなくその小さな顔に収まっている。少しつり目でキツく冷たい印象を受けるが、世間では美しいと言われる容姿で、その姿はまるで腕利きの職人が魂込めて作った人形のようだ。



…って、待て。今は観察してる場合じゃないだろ。この男の人はこの子が俺の主人だとか言わなかったか?嘘だろ、冗談じゃない!いきなりこんな所に連れてこられて子供の側仕えになれだって!?というか、うっかり聞き逃しそうになったがファスギニアと言ったらこの国で王族の次に偉い公爵家じゃないか!?


……あぁ、どうしてこうなった……っ!


よし、今日の行動を振り返ってみよう。


俺の名前は、……。

そうか、俺名前無いんだった。うっかり忘れてた。いっつもお前とか言われてたから気づかなかった。

仕切り直すが、俺はある裏路地のスラム街に居るしがない七歳児、男。

今日もいつものように湿った裏路地の道の上で目覚め、空腹を満たすために飯を探していた。それで何も無かったので今日は表に出てゴミを漁ろうかと思い、棒のようだとよく言われる足で体重を支えながらフラフラと日の当たる表の道に進んだんだ。

うん、ここまでは良い。ここまでは。

表に出ると裏路地とは違って少し貧しい位の平民も混じり、マシな空気とご対面した。そして飯を探しにいこうと思った所で、


「おい、お前!」


呼ばれる声と背中に衝撃を受けて振り向くと、いつも何かしら絡んでくる男の子が居た。


「あぁ、何だお前か。」

「何だとは何だ!」


この男の子の名前を俺は知らない。それに歳を聞いたときは本人にもわからないと言われた。基本的にスラム街に居る人達は食べる物が無いので発育が悪く見た目より年上だった、なんてこともよくある。

こいつは小さな身体とすばしっこさで、スリをやっては上手く生きている。いつか痛い目に遇いそうなので止めろと言うが、こいつは大丈夫だと言うだけで残念ながら一向に止める気配はしない。


「それよりさ、アレ見てみろよ。格好的に下級貴族だ。久しぶりに良い獲物がやって来たぜ…」


声を潜めながら言われ、流し目で見てみると…なるほど、本当に貴族が居た。こんな所に珍しいものが来たもんだ。下級と言えども貴族とはっきり分かる服装を来て此処に来るなんて、襲ってくださいと大声で叫んでるようなもんだぞ。


よっぽど自分の腕に自信があるのか、ただの馬鹿なのか…

まぁ、それより


「今日はアイツを狙うのか?」


「当たり前だろ、こんなチャンス逃してたまるか!」


「や、まぁ、…いつもなら止めないけどなぁ…アイツは止めとけよ」


怪訝そうな顔するコイツに説明をしてやる。


もし、格好から見て本当に下級貴族だった場合、スリをするのは得策ではない。何故なら下級貴族は上流貴族と違って伝統や歴史がそれほどある訳じゃ無いが、下級貴族にはある功績を認められて貴族になった、所謂一代貴族というものが多い。

今俺達の目の前に居る貴族は腰に剣をぶら下げている。もし武功で爵位を授けられ貴族になった者なら、多少なりとも強いだろう。俺達が無事では済むとは思えない。


「…でも、いつもならこんなことで止めようとはしねぇじゃねぇか…」


「いや、まぁ、そうなんだけどさ…これはあの人が下級貴族だったらっていう場合。むしろそのほうが良かったんだけど、ね。……あの人多分、下級貴族なんかじゃない。それどころか、上流貴族かもしれない。」


声を潜め、若干早口で捲し立てる。


下級貴族は一代貴族が多いと言ったが、逆に言えば貴族になる前は才能があるだけの一般庶民だった訳だ。そんな奴らが気品ある立ち振舞いや、仕草を違和感なくとれると思うか?答えは、否。そういうものは一朝一夕に出来るものではないし、相当訓練しないと身に付かないだろう。

だが、もう一度貴族を盗み見ると、行動や仕草の一つ一つが優美で何気ないように装いながら、手はちゃっかり剣の柄を掴んでいる。あれだとすぐに剣を抜くことが出来る筈だ。

それに端から見るとただの立ち姿の癖に隙が一切見つからない。


「ほら、お前アレ見て隙が見つけられるか?」


スリは相手の隙をついて物を盗る。スリをやったことの無い俺なんかよりコイツのほうがよっぽど隙を見つけるのが上手いだろう。

そう思い、促してみる。

すると最初は真剣に貴族を見ていたが徐々に眉間にシワが寄っていき、最終的には舌打ちをして目を逸らした。


「ダメだ、全然見つかんねぇ……下級貴族だろうが上流貴族だろうがありゃダメだ。今日は諦めるわ。知らせてくれてありがとよ。」


「いや、アンタなら自分で途中気づいたと思うけど、」


「んー、久しぶりのカモに目が眩んで気づかなかったと思うぜ。」


そんなこと無いと思うがなぁ。まぁ、こんな荒れてる地で軽口叩ける奴が居なくなると俺も寂しいし…


「…って、ぅお!?」


「どうかした?」


「なんかアイツが俺達のこと見てやがる!」


嘘だろ!?振り返るとソイツの言う通り男がこちらを見ていた。さっきの会話とか聞かれて無いよな…?こういう時どうすればいいんだよ!

あ、そう言えば昔、話好きの爺さんが何か言ってた気がする。…思い出した。


「よ、よし!一緒にお辞儀しろ!」


「は!?何だよ、それ!俺わかんねぇぞ!」


「アレだよ、アレ!知恵袋の爺さんが言ってただろ!『貴族に会ったら立ち止まって礼をしなさい。腰に手を沿えてゆっくりとじゃぞ』って!」


「…あぁ、あの腰曲げるやつか!って、ぅわ!近づいてきたぞ!」


「は!?嘘つけ!…っげ!、本当だ!んじゃ、いくぞ、せーのっ」


指先に力を入れて手を沿えて、ゆっくりと…1、2、3、

よし、終わった!


「おい、逃げるぞ!」


「おう!」


何故かこちらに向かって歩いてきた貴族から、全速力で走って逃げる。ここら辺は俺らが熟知しているので逃げ切れる。大丈夫だ。っていうかアイツ走るの早いな、流石スリをしてきただけある。逃げ足早いなぁ…

比べて俺は棒のような足で筋肉なんてものは無い。なのであっという間にアイツを見失った。まぁ、いいか…


…って、あれ…?


地面に映る俺の後ろに居るこの影はなんだ…?心なしかさっきの貴族に似ている気がする…よし、逃げよう。足を踏み出そうとしたら、


ガシッ


「え」


「短時間で私の正体を見破ったその観察力と頭の回転の良さ、そしてその危機回避能力。気に入りました、君は合格です。少しだけ寝ていて下さいね?」


首根っこを掴まれ、耳元で囁かれる。合格!?なににだよ!ぞわーっと一気に鳥肌が立ったと共に俺の意識はブラックアウト。


それで目を覚ましたらこの部屋に通されて今に至る、と。うん、なにがなんだかさっぱり分からん。


「おい、」


怪訝そうに男(多分公爵様本人)が呼び掛ける。

っは!しまった、何か返事しなきゃ。何故か知らないがこの人達にとって俺はこの子の側仕えで決定してるらしい。

多分こんな高貴な家の側仕えなら飯くらい食わせてくれるだろう。

食う飯も無い、明日があるかも分からない今までの暮らしと、飯も食えてまともな生活が出来るであろうこの仕事を比べてみる。

うん、比べるまでも無かったわ。

断然こっちがいい。


それじゃあ、挨拶しなきゃ。世話になる人に礼を言うのは当たり前だって、昔爺さんが言ってた気がする。主人に仕える者達は深く頭を下げ、敬意を表すのだ、と。


今は敬意なんてこれっぽっちも持ち合わせて無いがやってやろうじゃないか。おいそこのお坊ちゃん、こいつが俺の側仕えかよ、的な嫌そうな顔してないでしっかり俺の挨拶聞いてろよ。


「…はじめまして、アラン様。私は本日からあなた様に仕えることになりました、側仕えで御座います。至らぬ所も多いと思いますが誠心誠意あなた様に仕えさせていただきます。以後お見知りおきを。」


言葉を言い切ってから右手を身体の前に平行に持っていき、左手を身体の後ろに下げる。足は動かさないまま、お辞儀。ここでもゆっくり下げるのがポイントらしい。


元スラム街出身の名無しの七歳児、男。

何故か、お偉いさんの貴族の坊っちゃんの側仕えになりました。

生きてく為に、自分を守る為にこれから精一杯頑張ります。


ここまで読んでいただき有り難う御座います




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