第五話 竜騎士姫ランスロット
今回の話の始まりは、アルトリアやガウェインが生まれ、ベイリンがムラサメに弟子入りし、マーリンがウーサーと出会うより過去から始まる。
西の国所属国の中で「首都国」として国の中心とされている国「キャメロット」その国の近くに、一つの大きな湖があった。そこには美しい花が咲く花畑や立派な木が生える森で囲まれており、時折霧に包まれ幻想的な景色が広がる事もある。しかし、この場所には旅人はおろか、地元の人間も近寄らなかった。湖の近くにある古びた屋敷、そこに怪物が住んでおり、近寄ると食べられてしまうと言われている為である。時折、度胸試しで近寄る者も居るが、彼らは皆命からがら逃げだして、
「大量の触手を持ち、全身がヌメヌメした怪物が居た。」
と、皆に言った。その一言が、幾人もの人間の興味を誘いその屋敷に近寄った結果、同じように逃げて来ては、同じことを言うというやり取りが繰り返されている。
そして珍しく、誰も湖の近くを訪れないある日、湖の傍で一人の女性が転寝をしていた。黒真珠を思わせる艶を放つ長い黒髪や、人形のように白い肌が特徴で、顔立ちも美しい文字通りの美女であり、露出度の高い白いドレスを身に着けている。
彼女は名を「エレイン」と言う。と言っても、アルトリアの姉であるエレインとは何も関係は無い。彼女こそ、この湖で現れる怪物の正体である「クラーケン」と呼ばれる巨大なイカ型の聖獣である。
しかし、何故クラーケンが湖に居るかと言うと、それには理由がある。
彼女は昔までクラーケンらしく、海を恐怖のどん底に陥れた。と言っても、適当な船を襲っては沈めて居たわけでは無く、密猟者や海賊の類の船を襲っては沈める、ある意味では正義の味方であった。
ある日、彼女はとある海賊船を沈めようと自らの触手を使い襲い掛かった。巻きつくことで船体を押し潰そうとした。
「うわぁぁぁぁ!!クラーケンだ!!」
海賊船のクルーたちは、揃って慌て始めた。クラーケンと言えば、海で出会えば致死率は100%の怪物であり、航海の安全=クラーケンに出会わない確率、と言う言葉もあるくらいだ。
そんな中、一人だけ慌てていない者が居た。
「皆落ち着け!!」
海賊船の船長である。彼は一言こう叫ぶと、腰の剣を抜いて触手の一本を斬りつけた。
「痛!!」
突然の痛みに驚いたクラーケンことエレインは、思わず触手を引っ込めた。その間にも、船長は華麗に立ち回り、触手を斬りつけて行く。結果、巻き付いた触手がすべて離れた。
「やったぁ!!」
クルーは諸手を上げて喜んだが、船長はこれで勝ったと思わなかったようで、海の中に飛び込んだ。
「海の中で私に挑むつもり?」
エレインがこう言うと、海に飛び込んだ海賊船の船長はその姿を変えた。全身が巨大化すると手足はヒレになり、首が長くなると同時に顔も細長くなり、口には牙が生え揃った。
見た目は竜に似ているが、全く違う「恐竜族」の聖獣「エラスモサウルス・Edward」である。名前の中に人の名前みたいな単語が入っているが、これは変身者の名前では無く、エラスモサウルス型の恐竜族聖獣となった最初の聖獣の名前である。詳しい詳細等は、本編「聖獣王伝説」の中で語られているので、そちらを参考にしていただきたい。
「貴様には悪いが、野郎どもに手出しはさせない!!」
エラスモサウルス・Edwardはこう宣言すると、エレインと戦いを始めた。海中を高速で泳ぎ回り、エレインは触手、エラスモサウルス・Edwardは長い牙で噛みつく事で攻撃している。
一方船の上のクルーたちは心配そうに海の中を眺めていたが、やがて夥しい血が海の上に浮いて来て思わず驚いた。しかしエラスモサウルス・Edward、自分たちの船長が首を出したので、胸を撫で下ろした。彼はエレインとの戦いに勝利したのだ。
一方、エラスモサウルス・Edwardとの戦いに敗れたエレインはしばらく海を漂流し、やがて人の姿で川の岸に打ち上げられた。彼女は傷が酷く、このまま海に戻っても天敵に付け入られるだけだと判断し、川を遡り、キャメロットの近くにある湖へとやって来た。
そしてそこに定住し、やがて怪物とまで言われる存在になったのだ。
「……ん?」
今までの事をハイライトで夢見ていたエレインは、ふと何かの声を聴いた気がして、体を起こした。
「オギャァァ!!」
どうやら、赤子が泣いているようである。
「この辺りで子供?それに…」
声を聴いたエレインは疑問に思った、赤子の声が聞こえている事は勿論、一番の違和感は聞こえ方である。だんだんと近づいてくるのだ。
しばらくすると、声は今までより大きく聴こえ、それと同時に小さな船が上流の川から湖に流れてきた。
「まさか?子供が!!」
エレインはこう思うと、水の中に飛び込み船に向けて泳いで行った。船の近くに来ると、自分の暮らす屋敷の近くにある桟橋に付けた。その後、エレインも水から上がり、服の水を絞りながら船の上を確認した。
そこには、藍色の金属で作られた大剣と様々な宝石、脇腹や二の腕などに藍色の鱗を生やした、ドラゴン族の女の子の赤子が居た。
「まさか、勝手に離れてここまで?」
エレインはこう思ったが、赤子の近くに置手紙があるのを見つけ、それを開いてみた。そこには、
「この手紙を見ていると言う事は、私は命を奪われたのでしょう。この手紙を見ている方にお願いです。私の代わりにこの娘を育てて下さい。この子が幸せになるのであれば、この子の未来にこだわりを持つつもりは有りません。誠に身勝手なお願いで申し訳ありません。この子を残して逝く私が許されるとは思いません。ですが、生まれた命には等しく幸せになる権利があると私は信じています。」
と、書かれていた。
「この手紙の内容通りだと言うなら、この子の親は何者かに殺され、この子はこうして逃がされたのね。」
エレインは手紙を置いてこう言うと、赤子を抱き上げた。結果、今まで泣いていた赤子は途端に笑顔になり、エレインに甘え始めた。
(可愛い♡)
エレインはこう思うと、心でこう誓った。
「なら、どれだけ出来るか分からないけど、やってみましょう。」
この日以来、その赤子は「ランスロット」と名付けられ、エレインの元で育てられた。エレインも子育ては初めてだったため色々と苦労もしたようだが、その苦労の甲斐もありランスロットは美しい少女へと成長した。
彼女に物心が付くと、エレインは淑女として、騎士としての心得を厳しく教え込み、彼女が持っていた武器「龍殺剣 アロンダイト」の扱い方も教え込んだ。そのため、いつしかランスロットは、容姿端麗、性格良好、一騎当千の騎士として周りに名が知られるようになった。
だが、そんな立派な娘になったとしても、育ての親であるエレインの懸念は尽きない。彼女は人が滅多来ない場所でランスロットを育てたので、人付き合いと言うものを詳しく教える事が出来なかった。一応は彼女を町に出して訓練はさせているが、不慣れな人との関わりで何か問題を起こしてるのでは無いか、と心配だった。しかし、その懸念は全く皆無だった。
いつしかランスロットは、友人を連れてエレインの元に来るようになった。彼女の友人たちも、大人たちは揃って警戒するエレインにまったく警戒する事無く近づいてきたので、エレインもかつての姿になり、彼らの遊び相手になってあげていた。
そして、そんな日々から更に十数年後。美しくも愛らしさが残る顔立ちが特徴だったランスロットは、今ではすっかり大人びた顔立ちになり、道を歩くだけで人々の目線を釘づけにする程の美女となった。最も、エレインの影響を受けてか否かは不明だが、彼女の服装は下が白いドレスと鎧を合わせた長いスカートであり、上は豊満な胸元に晒を巻きつけ、その上に布を宛がっただけなので、一部の目線はそこに集中している。
彼女は今、赤帽子がグルグル巻きにされた木の幹を輪切りにした塊を大量に乗せた荷車を引いている。向かう先は、ブリテン国の守護を司る騎士団の駐屯地である。
「おい、あれランスロットじゃねえか?」
「まじかよ、あのキャメロットで最強の騎士姫と呼ばれてる?」
ランスロットが道を通ると、街の人間は揃って騒ぎ始めた。騎士となったランスロットの評判は、現役の騎士は勿論、騎士を目指す者達の中でも有名で、姿は知らなくともランスロットの名前は知らない人物が多く存在している。
「最強か、確かに凄い存在感だな。」
「ああ、本当に…」
皆は、ランスロットのある部分を見ながら言った。
「存在感のあるおっぱいだ。」
皆の目線は、彼女が動くたびに大きく揺れている、大きな彼女の胸である。
人格者である彼女は、たとえセクハラされても簡単には怒らず、笑顔で相手をぶちのめす事が出来る人物である。しかし、
「何で最初に胸を評価するのよ!!?」
ランスロット自身、滅多にやらない色仕掛けの際に重宝しているとはいえ、不相応に大きな胸を気にしているのだ。そのため、胸の話題が出ると怒られるので、注意が必要である。
「まったく。」
ランスロットはこう呟くと、荷車を引いて目的地に向かった。
やがて、赤いレンガで作られたブリテン国騎士団の駐屯地へとやって来た。彼女はそこで荷車を止めると、
「こんにちわ、誰か居ますか?」
と、中に声を掛けた。
「はーい。」
すると、打てば鳴る速さで中から声が響き、一人の騎士が現れた。彼は、ランスロットの姿を見るや否や、
「え、えっと、ランスロットさんですよね…」
緊張を隠せない様子を見せながら、ランスロットに訊いた。
「そうですよ。」
ランスロットが答えると、騎士は彼女にこう言った。
「そ、そうなんですか?!会えて光栄です!!」
「それはどうも。それより…」
自分に会えて感激と言う騎士に対し、ランスロットは荷車の赤帽子の括りつけられた幹の塊を下ろしながら言った。
「彼らをお願いしますね。手配してましたでしょう。」
その後、赤帽子を下した荷車をパタパタと折り紙のように畳んでいき、やがて掌サイズまで小さくすると、自身の豊満な胸の谷間に押し込んだ。
(その谷間は四次元ポケットですか?)
驚きと呆れで、騎士は思わずこう思った。本人が目の前に居る以上、口に出すのは憚られる。
「昨日取り締まろうとした赤帽子達ですね。」
騎士はランスロットにこう言うと、他の騎士を呼んで赤帽子たちを牢屋へ連れて行かせると、自身は駐屯上の建物の中に入って行き、やがて現れた。
「こちらが、赤帽子捕縛の賞金です。お納め下さい。」
赤帽子はブリテン内で広く手配されており、捕縛した者には賞金を出すとされている。そのため、騎士は金貨の沢山入った袋を持ってきたのだ。
「ありがとうございます。」
ランスロットはこう言って袋を受け取ると、軽いお辞儀をしてその場を去って行った。
その頃アルトリアとマーリンは、二人でブリテンの中心街に向かっていた。その理由は、今朝の朝食の時である。
「そういえば、この近くにランスロット卿が来てるって話があったわよ。」
アルトリアと幼い頃より親交のある、隣に住んでいる人狼の女性「エクター」がこう言った。彼女は時折、アルトリアの家にやって来ては食事を作ってあげたり、アルトリアに料理を教えたりしてくれている。アルトリアが騎士を目指すに当たっての参考に出来れば良いと考えたのか、彼にこう言った。
結果、アルトリアよりマーリンがその話に食いつき、
「その人の私たちの仲間になって貰おう!!」
と言いだして、現在アルトリアを伴って中心街に向かっていると言う訳である。
因みに彼女は、昨日の時点でロットに自分の騎士団を設立したいと言う話をしており、ロットは彼女にフリーの騎士団を作る事を認めた。ただし、騎士と同じ権限は与えられないが。確定でメンバーとなっているのは、今の所マーリン、アルトリア、ガウェインである。言いだしっぺであるマーリンの名前があるのは当然であるが、アルトリアはマーリンの独断、ガウェインは面白半分で父親に名前を入れられた。だが、ガウェイン以外は余り気にしなかった。
「と言うか、ランスロットと言えばキャメロット一の女性騎士と言われている人ですよ。ノーギャラで実績も無い騎士団に入ってくれると思えないけど。」
隣を歩くマーリンに、アルトリアがこう言うと、
「どっかの誰かが言っていたよ。例え手に入る確率が限りなく0に近くても、手を伸ばさなければ手に入る者も入らないって。」
マーリンはこう返した。早い話、やってみなければ分からないと言う事だ。
「そういうモノですか?」
アルトリアは更にこう訊いたが、マーリンは何も言わなかった。
その後二人は、二日前に赤帽子に絡まれた場所を何事も無く通り過ぎ、街の中心街に入って行った。
「さてと、ランスロットさんはどこに居るのでしょう?」
マーリンがこう言うと、アルトリアはこう言った。
「と言うか、マーリンさんは杖が壊れているんでしょう。案内しますから武器屋に行きましょう。」
アルトリア自身、自分たちがあった際に行けなかったのだから、と気を使った言葉のつもりだったが、マーリンはこう返した。
「いいえ、自分の事を優先して目的の人物に逃げられては元も子もありません。」
(いや、ランスロットさんは逃げないでしょう)
マーリンの言葉に、アルトリアはこう思ったが、それでも言う事は最もだと思ったのか。
「そうですね。なら、ランスロットさんを探す過程で武器屋に行きましょう。僕もそろそろエクスカリバーの手入れをしたいですし。」
と言って、彼の中にあるランスロットのプロフィールを反芻しながら、遠回りで武器屋に向かうため、マーリンを導いて行った。
アルトリアとマーリンが市場に来ると、ガウェインと出会った。
「あ、ガウェイン。」
「アルトリアに、マーリンさん。」
二人が声を掛けると、ガウェインにそれに気が付いたようで反応した。手には買い物籠があり、野菜が多く入っているので、お遣いで来たのだろう。
「今日もお二人で一緒ですか、何をしてるんですか?」
ガウェインが二人にこう訊くと、アルトリアが口を開くより前にマーリンがこう言った。
「デートしているの。」
その瞬間、アルトリアはマーリンの足を思いっきり踏みつけた。マーリンが痛がる所を横目に見ながら、アルトリアはこう言った。
「ほら、僕ら昨日からマーリンさんの騎士団に所属する事になったでしょう。その騎士団に、ランスロット卿を入れようと言う事になって、こうやって探してるんです。」
「ランスロット、あのランスロットを?」
ガウェインがこう言うと、復活したマーリンはこう言った。
「そう、実績が無くても、彼女が入れば入団志望者が山のように現れるはず!!」
「お飾りですか?ランスロット卿が一番嫌がる事だと思いますけど。」
ガウェインがこうツッコんだ時である、
「あ、お前らは。」
背後から誰かが声を掛けた。そこに居たのはベイリンである。服装や見た目は今まで同じだが、今日はなぜか刀を「帯一」しか携えていない。
「アルトリアと、マーリンに…」
ベイリンは、アルトリア、マーリンの顔を見て名前をちゃんと呼ぶと、次にガウェインの顔を見て、
「カフェイン?」
と、言った。
「僕はお茶やコーヒーの中の眠気覚まし成分じゃない!!」
ガウェインはこうツッコむと、自分の名前はガウェインだ、とベイリンに言うと、
「と言うか、こんな所で何をしているの?それに、妖蛇はどうしたの?」
と、訊いた。
「ああ、妖蛇は昨日無くしちゃって。」
ガウェインの問いに、ベイリンはあっさりと答えた。
「騎士団には届け出たんですか?」
アルトリアが訊くと、ベイリンはこう言った。
「妖蛇は妖刀だから、持ち主ならなんとなくで在り処が分かるんだよ。ここのあたりにあるはずなんだけど、見なかった?」
その後、ベイリンは三人に何をしているのかを訊いた。
「僕はただのお遣い。」
ガウェインがこう答えた後、マーリンはこう言った。
「私たちはランスロットって言う名前の騎士を探しているの。」
さすがに、二度もデートをしていると言って、アルトリアに足を踏まれる事は無い。
マーリンの言葉を聞いたベイリンは、彼らに言った。
「ランスロット卿なら、あっちの方で見たよ。」
ベイリンの言葉を聞くや否や、マーリン達はベイリンの案内でランスロットの居る場所に向かって行った。
「えっと、やっぱりこれにしようかな?」
ランスロットは赤帽子捕縛の報酬を手に持ったまま、市場のはずれにあるクレープ屋の屋台の前で、メニューの看板を見ながら呟いていた。看板には様々な果物や野菜を用いたクレープメニューが書かれており、どれも興味深く感じるのか、かれこれ三十分は同じ場所で考え込んでいる。
「余り甘い物は食べたい気分じゃないし、やっぱりこれに…」
そして、一つのメニューに決めると、屋台の店主に注文しようとした。
「すいませーん。」
ランスロットの注意が手元の金貨の入った袋から離れた時である。屋台の陰から一人の子供が飛び出し、ランスロットの手の袋をかっぱらって行った。
「あ?」
ランスロットが反応した時、既に子供は路地裏に入って姿が見えなくなっていた。
「あ、あの、追いかけなくて良いんですか?」
クレープ屋台の店主は、追いかけようともしないランスロットを見ながらこう言った。しかし、ランスロットは豊満な胸の谷間に指を突っ込むと、そこから財布を取り出してこう言った。
「ツナマヨレタスを一つ下さいな。」
注文を受けた店主は、
(その谷間は四次元ポケットですか?)
と、思っていた。
一方、ベイリンの案内でランスロットの居る場所にやって来たアルトリア達は、子供がランスロットの持っている金貨の入った袋をかっぱらって行く所を目撃していた。
「か、かっぱらい?!」
ガウェインが驚くと、マーリンはこう言った。
「追いかけよう!!」
その一言を受けて、ガウェインとベイリンは子供を追って路地裏に入って行った。一方のアルトリアは、クレープ屋の前から動かないランスロットを見ながら思った。
(あの人、気にしてないのかな?)
だが、今はかっぱらいから袋を取り返すのが先だと判断すると、先に進んで行った面子を追って行った。
ランスロットから袋をかっぱらった子供は、路地裏を全速力で駆けていた。走りにくい道を進み、角を曲がって行くと、子供は何かにぶつかってしまった。
「ああ?」
そこに居たのは、身なりの悪いガラの悪そうな男達だった。
「どこ行ったんだ?」
ガウェイン、マーリン、ベイリン、そして追いついたアルトリアが路地裏を歩き周りながら、子供を探していた時である。
「キャア!!」
どこからか誰かの悲鳴が聞こえた。
「今のは?」
ガウェインが反応すると、ベイリンはこう言った。
「あの子供は俺が探すから、他はそっちに回って!!」
そっちと言うのは、誰かの悲鳴である。
「楽な方を取りやがって。」
ガウェインはこう呟いたが、それでも生来の生真面目さがあるので、
「行くよ!!」
アルトリアとマーリンを伴って、悲鳴の響いた方向へ向かって行った。
路地を進んで行くと、身なりとガラの悪い男達が、先ほどのかっぱらいの子供を捕まえている所に出くわした。
「おい、何やってる!!?」
ガウェインがこう言うと、男の一人がこう言った。
「こいつがぶつかって来たのに、謝らずに逃げて行こうとするからよ。」
どうやら、ぶつかられた仕返しに、子供の持っている袋を奪うつもりらしい。
「それ、人から奪って行った物なの。貴方たちに渡せる物じゃない!!」
男達にマーリンがこう言った瞬間である。男達はニヤリとした表情を浮かべると、こう言った。
「人様の物を奪ったのか、なら大人として没収しないとな。」
そして、子供の持っている袋を力づくで奪おうとした。その時、頭上から何かの気配が現れ、次の瞬間袋を奪おうとした男の姿が消え、違う者が現れた。現れた者は、男を踏み倒したのだ。
「はあ、やっと見つけた。」
現れたのは、左手にツナマヨレタスのクレープを持ったランスロットである。齧った後があるので、ここに来るまでに少し食べたのだろう。
「な、何だお前は?」
ランスロットの登場に驚いた男がこう訊くと、
「ただクレープ食べてる綺麗なお姉さん。」
ランスロットはこう答えて、持っているクレープを一気に口の中に押し込んだ。その後、口の中で噛み砕きながら、クレープを包んでいた紙を小さく折り畳むと、胸の谷間に突っ込んだ。
(その谷間は四次元ポケットですか?)
皆がこう思う中、ランスロットは腰に携えた巨大な藍色の剣を手に取り、それを男達に向けて行った。
「それは私の物です。返して下さい。」
一方の男達は、こう言った。
「そういうなら、力ずくでな!!」
そして、どこからかナイフを取り出すと、それを用いてランスロットに切りかかった。
「はぁ~。」
ランスロットは一回大きく息を吐くと、持っている大剣「龍殺剣 アロンダイト」を軽く振るって、男達を次々と蹴散らした。その際、彼女が登場した時に踏み倒された男は、その状態で踏み込まれた為に、気を失っていた。
「あの女、何て力だよ。あんな大剣を片手で…」
男の一人がこう言うと、ランスロットはこう言った。
「きっとあの子にも何か非はあったでしょう。ですが、水に流して下さい♡」
その後、口で何かを呟いた。
「な、何だ?」
皆がこう思った瞬間である、ランスロットの背後から大波が発生し、男達をどこかへと流してしまった。
「ダイダルウェーブです。」
ランスロットはこう言うと、水浸しになった道に落ちていた金貨の入った袋を拾い、それを自分から奪って行った子供の前に行った。
「…怒るのかな?」
決して忘れていたわけでは無い、ランスロットの登場により出番を奪われたアルトリア達は、一様にこう思った。
しかし、ランスロットの取った行動は驚くべき事であった、
「欲しいのならそう言ってくれれば良かったのに。」
彼女はこう言うと、袋の中の金貨を何枚か取り出し、子供に手渡した。この行動には、その場で見ていた者達全員が驚いたが、何より驚いたのは子供の方のようで、何も言わずに去って行った。
その後、アルトリア達はランスロットに話しかけた。その理由は、当然の如くマーリンの騎士団の事である。
「…と言う訳で、ぜひとも私の騎士団に入ってほしいんです。」
マーリンはガウェインやアルトリアにしたのと同じような説明をすると、ランスロットにこう言った。
「………」
ランスロットは考え込んでいる。マーリンはともかく、アルトリアとガウェインは絶対「yes」とは返って来ないと考えていたが、
「良いですよ。」
サラリと返って来た正反対の回答に、二人は驚いた。あのランスロットが、報酬も無い状態で組織に入る事を認めたのだから。
「あ、でも…?」
しかし、ランスロットはすぐに何かを思い出し、胸の谷間から筆記用具とレターセットを取り出した。
(だからその谷間は四次元ポケットですか?)
アルトリア達が揃ってこう思う中、ランスロットはレターセットの紙にサラサラと何かを書くと、その紙を封筒に入れて綴じ、自分からの手紙であると言う証明にするのか、自分のサインとキスマークを付けて、マーリンに渡した。
「この手紙を、キャメロットの「612」と言うお店のボールスと言う方に渡して下さい。騎士団入りに必要な事が書かれている大事な手紙なので、くれぐれも中は見ないで下さい。」
ランスロットはこう言うと、他にする事があるのだと言って、その場を離れて行った。
登場人物紹介
ランスロット (リヴァイアサン)
年齢 自称17歳
性別 女
出身地 不明
部族 ドラゴン族
属性 水、鋼
武器 龍殺剣アロンダイト
得意技 水属性魔法および剣術、色仕掛け
趣味 水泳、昼寝
家族 養母
好きな物 自由、不定形
嫌いな物 ご都合主義(ここでのご都合主義は、誤魔化しが効かないのに、それ自体が誤魔化しで成り立っている物)
備考
リヴァイアサンはマリンドラゴンの一種だが、謎に包まれた生態を持つ。一説によれば、一定の条件を満たした者だけが覚醒出来ると言われる。
この小説のヒロインその2。一纏めにした長い黒髪と碧い瞳、巨乳が特徴の美女。鱗の色は藍色。
赤子だった時代にエレインに拾われ、そのまま彼女の娘として育てられた。その際、騎士や淑女の心得を厳しく教え込まれたので、誰もが認める人格者となった。
ドレスと鎧を組み合わせたような服装をしているが、それは下半身だけであり、上半身は晒巻に布を宛がっただけになっている。そのため、皆からは色々な意味で「露出狂」と言われている。因みに、彼女の胸の谷間は一種の収納(四次元ポケット)になっている。(原理不明)
片手で大剣を振り回す腕力を持ち合わせており、生来の素早さや徒手空拳での強さも合わせ、メインキャラの中では間違えなく最強である。
龍殺剣アロンダイト
ランスロットが幼い頃に一緒に流れてきて、そのまま武器にしている、藍色の特殊な金属で作られた大剣。構成する金属の種類も、製作者も一切の詳細が不明になっている。
水属性の力を強化する効果があると同時に、名前の通り龍(ドラゴン、恐竜族聖獣、獣族の爬虫類系聖獣)に強力な効果を発揮する。