第四話 炎竜騎士ガウェイン
アルトリアがマーリンと出会い、その後、ガウェインとベイリンと共に喧嘩沙汰を起こし、行きつけの店を破壊してしまった次の日の事である。
当事者の一人であるガウェインは、朝になると共に自宅の部屋で目覚めた。綺麗なシーツで覆われたベッドの上で、伸びをしながら全身に目覚めの合図を送る。その瞬間である、
「むにゃむにゃ、もう食べられない…」
なぜか彼のベッドの上に、昨日出会ったエルフの女性、マーリンが居る事に驚いた。そして、ベッドのあちこちを調べ、痕跡が残ってない事を確認する。
「良し、間違いは起こって無いな。」
ガウェインはこう呟き、胸を撫で下ろすと、マーリンを揺すり起こした。
「起きて下さい。」
すると、マーリンは起き上がると、伸びをしながら言った。
「おはよう。」
「ああ、おはようございます。」
ガウェインは思わずこう言うと、
「おい!!」
自分で自分にツッコみ、
「と言うか、何で昨日会ったエルフのお姉さんが、僕の家の僕の部屋の、僕のベッドで寝ているんですか?」
と、マーリンに訊いた。
「まず最初に、泊まる場所が無かったから。」
マーリンは、悪ぶる事無くこう言った。
「まだまだ朝晩は寒い時期だからね。それなのに、アルトリアは家の部屋を貸してくれないし。」
「それは分かります。問題は…」
マーリンの答えに、ガウェインがこう言うと、
「もう一つの理由はね…」
ガウェインの聞きたい事を理解したのか、マーリンはガウェインに迫り、こう言った。
「実は私ね、君に興味があるの。」
「僕に…?」
どういう意味だ?そう聞きたげな口調でガウェインが言うと、マーリンは彼に言った。
「実は今、聖獣騎士団のメンバーを探してるの。今のメンバーは二人だけだから、志願するだけで簡単に入れるよ。」
言わば、彼女が危惧する世界の終り、それを救う騎士団のメンバーの一人として、ガウェインを入れようと画策しているのだ。
「ふーん、これは?」
ガウェインはこう言うと、左手の親指と人差し指で輪を作り、マーリンに訊いた。
「お金は無いから基本ノーギャラだけど、それでも世界を救えばそれ相応の富と名声、何より名誉と歴史が手に入るよ。」
マーリンがこう言うと、
「なら興味は無い。」
ガウェインはこう返した。
「それなら、もし西の国で大事になったらどうするの?」
マーリンが訊くと、ガウェインはこう言った。
「それを何とかするのは父さんの仕事。僕が出る幕ではありません。」
ガウェインの父「ロット」は、ブリテン国を守護する騎士団の団長であり、この国で大きな影響力を持っている人物である。
そのロットは、見晴らしが良い事で騎士団が見張り台として使っている丘の上で、街の外の光景を見ながら、自分と一緒に居る騎士に訊いた。
「それが今まで見た事の無いモンスターだったのは確かなんだな?」
「はい、キャメロットで噂になっている事は、事実だったと考えるべきでしょう。」
ロットの言葉に、騎士はこう言った。
キャメロットと言うのは、ブリテン国と同様に西の国に属する国であり、小さなブリテンとは違い、この国は「首都国」つまりは国の中心と扱われている。そのため、ブリテンとは比べものにならない大きな賑わいを見せている。
その国では今、
「世界の危機が迫っている為、見た事の無い生物が世界を徘徊し、人々を襲っている。」
と言う噂が広まっているのだ。
「急ぎ騎士団の一隊を調査に出すと同時に、我々でも対策を立てる必要がある。至急用意してくれるか?」
「はっ!!」
ロットの言葉に騎士は即答で返すと、見張り台を駆け足で降りて行った。それを見届けると、ロットも家に帰って行った。
そして、ロットの家では、彼の息子のガウェインと、ついでにマーリンが朝食を食べていた。
「凄い、朝からこんなに沢山?」
マーリンは、大きなテーブルに所狭しと並べられた料理を見ながら言った。
「朝は一日の始まりなんです。これくらい食べないと一日持ちませんから。」
ガウェインがこう言うも、マーリンは料理を次々と口に放り込んでいる為、話を聞いて居なかった。食べる速度は速いが、それでも品の悪さを見せない様子を見ながら、ガウェインは思った。
(育ちが良いんですね。と言うか、エルフ何て初めて見たけど)
すると、使用人の一人が、パンの入った籠を持ってやって来た。ガウェインは要らないと手振りで示したが、
「籠ごと置いて行って下さい、後、スープのおかわりも下さい。」
マーリンはこう言って籠を受け取ると、代わりにスープの入っていた皿を渡した。
「一体その体のどこに入るんですか?それに、そんなに食べて太らないんですか?」
マーリンの食欲を見ながら、ガウェインがこう訊くと、
「さあ?今まで満腹になった事は無いし、そもそも体型や体重を気にした事も無いな。」
マーリンはこう言った。
(それにしては、細身なのに出る所は…)
ガウェインがこう思った時である、彼らが食事をしている部屋の扉が開き、ガウェインの父であるロットと、彼の夫でありガウェインの母である女性が入って来た。
「あ、父さん、母さん、おはようございます!」
ガウェインはその事に気づくと、席を立って一礼すると、二人に挨拶をした。
「おはよう、ガウェイン。」
ガウェインの母が笑顔で声を掛けると、ガウェインはこう言った。
「朝食は客の方と一緒に先に頂いて居ます。」
ガウェインの言葉に、両親はマーリンの姿を見ると同時に驚き、
「ほう。」
ロットは一言こう呟き、
「まあまあ、とうとうこの子も家に女性を連れ込むように。」
驚いては居るが、若干嬉しそうな口調を孕んで、母はこう言った。
「連れ込んだんじゃありません、不法侵入です。」
そんな母に、ガウェインはこう言った。一方のマーリンは、事実ではあるがまったく隠さず不法侵入と言ったガウェインに不満を覚えたようだが、それでも顔には出さずに、両親に自分の身の上を名乗った。
「初めまして、エルフのマーリンと言います。」
「そうか、マーリンさん、これからも息子をよろしくお願いします。」
ロットはマーリンにこう言うと、ガウェインに訊いた。
「先ほど騎士の一人に訊いたのだが、街の料亭を滅茶苦茶にしてしまったらしいな。」
「え?」
ガウェインが青ざめた顔をすると、母は、
「まあまあ!!」
驚きに包まれているようで、こう言った。
「あ、えっと、それは…」
ガウェインはこう言うと、事の説明をした。
最初は男性に絡まれ、困っている女性を助けただけだったが、巡り巡ってその結果に至ると言う事を、
「店を滅茶苦茶にしたのは確かですが、決してそうしたくてそうした訳では有りません。」
ガウェインがこう言うと、ロットはこう言った。
「そうか、お前がその事を悪かったと思い、ちゃんと謝ったなら、私たちから言う事は何も無い。」
その様子を見ながら、マーリンは思った。
(この親子、寛大なのか甘いのか、どっちなの?)
一方その頃、アルトリアは街にやって来ると、昨日滅茶苦茶にしてしまった店の片づけを手伝っていた。朝も早いが、多くの職人が壊れた壁や床を修理している。彼はその中で、イスや机を並べ直している。
「これはもう斬られているからダメで、これはまだ使えるな。」
「本当にすいません!!」
備品の整理をしているマスターに、アルトリアは再三に渡り謝っている。
「いや、もう良いんだよ。片づけを手伝ってくれてるだけで十分だから。」
一方、マスターは笑顔でこう返した。
すると、
「しかしまあ、子供が良くここまでできたもんだ。」
と、壁や床を修理している職人の一人がこう言った。早い話、関心しているのだが、アルトリアは何とも言えない表情を浮かべている。
「まあまあ、そういう事は言いっこ無しで。」
マスターはこう言うと、アルトリアに言った。
「まあ、気にするな。戦闘力レベルが低いのを妬んでるだけだ、きっと。」
ちなみに戦闘力レベルとは、この作品の本編でもある小説「聖獣王伝説」でも語られているが、聖獣の戦闘における能力の高さを分かりやすく示した物である。と言っても、純粋に力を比べる勝負で無ければ、その戦闘力レベルが戦闘に置いて重要になる事は無い。
一方、ガウェインの家に居るマーリンは何をしているかと言うと、ガウェインと一緒に「チャラトンガ」と言う遊びをやっている。
チャラトンガとは、東の国の西寄りの国で発祥した盤上遊戯で、後に東と西に分かれて「将棋」「チェス」となった遊びである。駒の違いや対戦時の制約等に違いはあるが、最初に王や大将を倒すと勝利できる点は共通している。
「じゃあ、これで。」
ガウェインの番となり、ガウェインは盤上の駒を一つ動かし、マーリンの陣営の駒の一つを倒した。
「へえ、良い手ね。」
マーリンがこう言うと、
「まあ、幼い頃から父さんや母さんと対局していますからね。」
と、ガウェインは言った。しかし、
「でも、私の方が一枚上手よ。」
マーリンはこう言って、盤上の駒の一つを動かすと、ガウェインの陣営の王の前に置いた。
「王手。」
「え?いつの間に?」
ガウェインが驚くと、
「降参する?」
と、マーリンが訊いてきた。
「まさか。」
ガウェインがこう答えると、彼らがチャラトンガをしている場所に、ガウェインの両親がやって来た。騎士の一人と何かを話しているので、仕事で何かがあったのだろう。
「それでは、くれぐれも気を付けてくれ。」
「分かりました!!」
ロットの言葉にこう返すと、騎士は屋敷を後にしていった。その隙を見計らい、ガウェインは両親に声を掛けようとしたが、
「すまないなガウェイン、今から少し出かけてくる。今日はマーリンさんと留守番をしていてくれ。」
ロットはこう言って、妻と一緒に屋敷を後にした。普段の穏やかな印象からは想像できないが、彼女もロットと同じく騎士なのだ。まだロットが騎士団長になる前、ロットが落とした資料を探していた折、見張りをしていた彼女が、不審者と間違えて射てしまった事を切欠に知り合ったとか。
「そうですか、御武運を。」
ガウェインがこう言うと、すぐに戻ると言い残して、二人は屋敷から出て行った。
すると、ガウェインの背後から声が、
「それで、どうするの?」
見ると、マーリンが少し不機嫌そうな顔でガウェインを見ていた。中断しているチャラトンガはどうするのか、と言う事だろう。
「それじゃあ、降参です。」
盤上を見て、どの道勝ち目はないと判断したのか、ガウェインはこう宣言した。
両親が家から出て行ってしばらくしてから、ガウェインは自分の剣である「陽光の剣 ガラディーン」を持って家の外に出た。
「ねえ、どこに行くの?」
付いてきたマーリンが訊くと、
「鍛錬。」
と、ガウェインは答えた。
「留守番するように言われたでしょう、良いの?」
「良いの。」
「どうせなら家でチャラトンガをしようよ。」
「チャラトンガは貴女の勝ちです。」
その後も、マーリンは必死に会話を続けようとしたが、ガウェインは淡々と返すだけだった。様子を見ていたマーリンは、試しにこう訊いた。
「もしかして、怒ってる?」
「怒る?何に?」
ガウェインはこう言ったので、怒ってるわけでは無いようだ。ただ彼は生真面目なので、いつもの日課を真面目に遂行しようとしている。そのため、感情を抑えている為怒っているように感じたのだが、そんなことを知らないマーリンは、こう言ってしまった。
「何か悪い事をしたなら謝るから。」
結果、ガウェインはこう言った。
「それなら、今朝不法侵入した時点で言うべきでしたよ。」
ガウェインの生真面目さ故の言葉だったが、マーリンは彼の言葉を、
「朝からずっと怒っている。」
と言う意味で受け取ったようで、
「その、ごめんなさい。」
と言って、ガウェインの傍を離れて行った。
「?」
マーリンが離れて行った理由が分からないガウェインは、自分の元を離れていくマーリンを見て怪訝そうな顔をすると、
「まあ、良いか。」
と言って、いつも練習場所に使っている場所に向かって歩いて行った。
しばらく歩き続けると、誰かが話をしていると思われる声を聴いた気がした。
「何だ?」
ガウェインがこう思い、その場所を見に行こうとしたが、一定距離近寄った瞬間に躊躇った。そこに居たのは、時折現れては人々を襲って物を盗んでいる盗賊集団「赤帽子」の面々が揃っていたからである。因みに第一話で現れた、アルトリアのエクスカリバーを狙っている赤帽子たちも、これに所属している。
「大将、ロットは街を留守にしましたぜ。」
「しかも、その奥方も一緒です。」
「そうか、となると今あそこはもぬけの空と言う事か。」
赤帽子の内二人が報告すると、リーダーなのだろう、豪華な帽子の飾りが特徴の赤帽子がこう言った。どうやら、騎士団の団長が不在の隙を狙い、街を襲撃するつもりらしい。
(まずい。)
ガウェインはこう思うと、何とか気づかれずにその場を離れ、父にこの事を報告しようとした。しかし、
「何してるの?」
突然、どこからか現れたマーリンのこの問いの声で、赤帽子たちにガウェイン達の存在が気づかれてしまった。
「何でこんな時に話しかけるんですか?」
ガウェインがこう言うと、赤帽子たちはそれぞれ武器を取って臨戦態勢になった。すると、その内の三人は、マーリンの姿を見るや否や、
「ああ、お前は昨日の!!」
と、言った。だがマーリンは、
「誰?」
と、返した。この言葉に、その赤帽子が盛大にずっこけると、
「俺達だよ!!昨日お前らに身ぐるみ剥がされた!!」
赤帽子たちはこう言った。
「ああ、昨日の。ゴメン、皆同じ雰囲気だから、覚えられない。」
マーリンが無邪気な顔でこう言うと、ガウェインはこう訊いた。
「そうは言ってられませんよ、貴女の魔法で何とかなりませんか?」
「分かった、やってみる。」
マーリンはこう言うと、どこからか錫杖を取り出し、それを団扇の形状に変えて、思いっきり振った。その結果、強風が発生して赤帽子達が吹き飛んだ。
「良し、そのまま…」
ガウェインは、そのまま全員やっつけて、と言おうとしたが、それより前に錫杖が煙を吐き出し、次の瞬間に爆発した。
「な、何ですか?」
ガウェインが、最悪の結果を予想して訊くと、マーリンはこう言った。
「力尽きた。」
早い話が、壊れたと言う事である。
「こ、こんな肝心な時に。」
ガウェインはこう呟くと、徐々に起き上がって来る赤帽子を見ながら思った。
(ここから逆転するには、これしかない!!)
なので、両手を町に続く道の上に付けると、そこから炎を発して街に向かう方向に道を作った。炎の壁に阻まれて、赤帽子はその中に介入できないようになっている。
「マーリンさん、この道を辿って助けを呼んで来てください!!」
「え、でも?」
マーリンはガウェインの提案に不安があるようだ。年上の自分がその場を離れ、ガウェイン一人を残して行くのは気が引けるのだろう。そんな彼女に、ガウェインは、
「ここから逆転するには、そうするしかないんです。」
と言うと、
「それに、さっき悪い事があるなら謝ると言いましたよね。悪い事をしたと言う感覚があるなら、僕の言った行動で示して下さい。」
と、マーリンに言った。
「……分かった!少し待ってて!!」
マーリンは少し考えると、こう言い残してガウェインの作った炎の道を走って行った。
「後は、出来るだけ長く持ちこたえる。」
その背を見たガウェインはこう言って、ガラディーンを抜いて襲い来る赤帽子に向かって行った。
その頃、料亭の手伝いを終えたアルトリアは、とある山へ向かう十字路の近くにやって来ていた。今日は山菜を見つけて帰ろうと考えているのだ。早速山に入ろうとした瞬間である。
「あー、腹減った。」
と言いながら、ベイリンがやって来た。
「あ、君はベイリン。」
アルトリアが声を掛けると、
「あ、君は確か、アルトリコーダー。」
ベイリンは彼に気が付き、こう言った。その瞬間、アルトリアはずっこけ、ずっこけた態勢のまま、
「僕はアルトリアです。」
と、訂正した。一方のベイリンは、
「悪い、名前って覚えられないもんだから。」
と言うと、アルトリアに訊いた。
「ところで、あの料亭って営業再開した?」
アルトリアは、まだ床の修理をしているだろう料亭の様子を思い浮かべると、こう言った。
「まだ、だと思う。」
「そっか、となると今日の昼飯もデリカか。」
ベイリンはアルトリアの答えを訊くと、こう言った。彼は今日も、ムラサメの仕事の邪魔と言う事で、工房を追い出されたのだ。
すると、二人のやって来た道とはまた違う方向、山に至る道からマーリンが走って来た。
「あ、昨日のエルフ。」
ベイリンがこう言うと、マーリンはこう返した。
「私はマーリンです。」
立ち止まったマーリンは息を切らしながら、二人にこう言った。
「この先の山で、ガウェインが…」
「え?ガウェインが…」
アルトリアが、ガウェインに何かあったのか、と思った瞬間である。
「ガウェイン……って、誰?」
ベイリンが、二人にこう訊いた。どうやら彼は、昨日会ったメンツの内、ガウェインが一番印象に残らなかったようである。
「とにかく、一緒に来て。」
マーリンはこう言うと、アルトリアとベイリンを、現場へ連れて行った。
一方、現場のガウェインはと言うと、戦闘力では勝っているが、数で負けている為に押され始めていた。
「く、姿を変えても埒があきそうに無いし。」
ガウェインがこう呟いた瞬間である、
「死ねぇ!!」
赤帽子の一人が、ハンドアックスを振り下ろしてガウェインを攻撃した。ガウェインは何とか防いだが、衝撃で吹っ飛ばされてしまった。
「うわぁぁ!!」
ガウェインが吹っ飛ぶと同時に、リーダーは素早く指示を出した。
「よし、第一と第三の隊は街を襲撃、残りはここでいざと言う時に備える。」
この指示を聞くや否や、第一と第三の隊は街に向かって行った。一方のリーダーの赤帽子は、部下から剣を受け取ると、
「その首貰った!!」
ガウェインの首を断とうと剣を振り下ろそうとした。しかし、それより前に、街に向かう方向から爆風が響いた。
「何だ?」
リーダーがその方向を見ると、
「うわぁぁぁ!!」
町に向かった赤帽子が全員、空から降って来た。
「おい、何があった?」
赤帽子の一人が、降って来た赤帽子に訊くと、
「ドラゴンとドワーフに投げられて。」
と、降って来た赤帽子は答えた。
「投げられた?」
赤帽子たちが怪訝そうな表情をすると、空から赤黒い鱗で覆われた、大きな翼を持つエンテラドラゴン、街に続く道からは「帯一」を抜いたベイリンと、それに続くマーリンがやって来た。エンテラドラゴンは着地すると同時に、アルトリアの姿に戻った。
彼らはこの場所に向かう途中で、赤帽子たちが街に向かっている所に出くわした。無駄な戦闘は避けたかったので、まずはベイリンが赤帽子たちを次々と上空に投げ飛ばし、エンテラドラゴンに変身したアルトリアがキャッチし、元居た場所へと投げ返したのだ。
「ガウェイン、大丈夫?助けを連れてきた。」
マーリンがガウェインにこう言うと、
「は、早かったね。」
ガウェインはマーリンにこう言って、立ち上がった。
「ふ、ふん、たった三人増えただけで何になる。」
赤帽子のリーダーは突然の援軍に驚いたが、それでも余裕を失わずにこう言った。
改めてガウェインはガラディーン、アルトリアはエクスカリバーを構えたが、ベイリンはそれを制してて言った。
「この場合は、こうするんです。」
そして、今まで持っていた帯一を鞘に戻すと、四代目 妖蛇を抜いて、それを赤帽子たちに突きつけた。
「四代目、妖蛇。実際に目にした気分はどうだい?」
ベイリンは普段と変わらない態度で、皆に訊いた。アルトリア達は息をのんだだけだが、赤帽子たちは妖蛇の刀身から発する妖気に当てられて、少しずつではあるが後ずさって行った。
赤帽子はどんどん下がって行ったが、やがて一番後ろが立ち止まった。
「さっさと下がれよバカ!!」
赤帽子の一人がこう言うと、
「この先は、斜面だ。」
と、立ち止まった赤帽子は言った。ベイリンの狙いは、彼らを斜面の下に流れる川に落とす事である。やがて全員の動きが止まると、ベイリンは彼らの先頭の赤帽子を、軽い力で蹴飛ばした。その結果、ドミノ倒しのように力が通じて行き、赤帽子たちは一人残らず斜面を転がり落ち、水の中に落ちてしまった。
一方、ガウェインの家の近くでは、ロットとガウェインの母が騎士たちの報告を訊いていた。
「そうか、ご苦労。」
騎士の一人にこう言うと、騎士は残った仕事を片づけに言った。
「さてと、ガウェインは今頃鍛錬をしてる頃か。」
一連の報告を訊いたロットがこう言うと、
「そうですね、帰って来た時の為にお茶の用意をしておきましょう。」
ロットの妻もこう言った。
すると、先ほどとは別の騎士が、切羽詰まった状態で走って来た。
「申し上げます!!近くの山に赤帽子団が出没、目撃者の話によるとガウェイン様が一人で食い止めているとの事です。」
騎士はロットの前で跪くと、ロットが許すより前に報告した。その瞬間、二人の顔に驚きが走った。
「ガウェインが…?」
二人は信じられないと言った表情を浮かべたが、一応は皆を率いる立場に居るので、
「直に応援を向かわせろ、私たちも向かう!!」
と、報告した騎士に命じた。
「はっ!!」
騎士は即答すると、駐屯上で待機している騎士隊に出撃命令を伝えに行った。
「ガウェイン、無事でいてくれ。」
そして、ロット卿らが騎士隊を率いてやって来た時、赤帽子たちはすでにベイリンによって、川に落とされた後だった。
「騎士たちは周囲を警戒!!まだ残党が残ってるやもしれん。」
ロットはテキパキと部下に命令を出すと、ガウェインの元に向かった。
「ガウェイン、無事だったか?」
ロットが訊くと、ガウェインはこう言った。
「マーリンさんが助けを呼んで来てくれたおかげで。」
「そうですか、息子の事、本当にありがとうございます。」
ロットはマーリンに頭を下げたが、マーリンはこう言った。
「いえ、私が付いて居ながらご子息を危険な目に合せてしまい、誠に申し訳ありません。」
一方のロットは顔を上げると、入れ違いに頭を下げたマーリンに言った。
「いや、息子はこうして無事なんだ。何も気にする事は無い。」
その頃、ガウェインの母はアルトリアとベイリンに声を掛けていた、
「貴方たちは、あの子のお友達かしら?」
「えっと、まあ、知らない仲では無いと言いますか。」
アルトリアがこう言うと、ベイリンはこう言った。
「昨日、一緒に料亭を滅茶苦茶にした仲と言いますか。」
この時、アルトリアは彼にツッコんだが、ベイリンはさして気にしなかった。
やがて、周りを見てきた騎士が、残党が居ないと報告すると、
「それではみなさん、帰ってお茶でもいかがですか?」
ガウェインの母は、その場に居る全員。勿論、部下の騎士も含めて皆にこう言った。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。」
皆はこう言うと、皆で帰って行った。
一方、ベイリンの刀、妖蛇に当てられて川に落ち、流されていた赤帽子たちはと言うと、偶然川の上に掛かっている縄に捕まり、助かっていた。
「た、助かった。」
赤帽子の一人がこう言うと、木に結ばれた縄の反対側に、一人の人間が縄を掴んでいる光景を目にした。
「そこの方、引き上げてくれないか?」
赤帽子がこう言った瞬間である。その人物は縄を持った状態でジャンプすると、川の上を飛び越えた。その際、縄を掴んでいた赤帽子たちは引き上げられ、次の瞬間縄で木に縛られた。
「な、何だお前は?!」
縛られた赤帽子が訊くと、彼らを縛った人物は言った。
「貴方たちを捕まえると得する人物。」
次の瞬間、赤帽子たちは揃って気絶させられたが、一部の赤帽子は見ていた。相手は二の腕や脇腹に藍色の鱗が生え揃ったドラゴン族の女性であり、彼女はある部分が大きかった事を。
登場人物紹介
ガウェイン (レッドドラゴン)
年齢 14歳
性別 男
出身地 西の国所属国「ブリテン」
部族 ドラゴン族
属性 炎、光、鋼
武器 陽光の剣ガラディーン
得意技 火炎魔法、および剣術
趣味 鍛錬、日光浴
家族 父、母
好きな物 綺麗な女性
嫌いな物 綺麗な女性に迷惑を掛ける奴(特に野郎が一番気に入らない)
備考
レッドドラゴンは、ドラゴン族の中でも一番スタンダードと言われる「ファイヤードラゴン」その中でも抜きん出て万能(悪く言えば取り柄の無い)な種族。
ブリテン国の守護を司る騎士団の団長、ロットの御曹司。
時折自分の生まれを自慢するような事を言うが、根は誰よりも苦労を惜しまない真面目な人物である。ただし、基本的には生真面目だが本人も躊躇う事無く公言している通り綺麗な女性が大好きで(下心は無い、多分)女性の絡む案件には何があろうと女性に味方する。
火炎魔法とそれを纏った剣術を扱えるが、彼は実力が足りないのか炎を保てない。
陽光の剣ガラディーン
ガウェインの武器であり、彼の家の家宝である剣。アルトリアのエクスカリバー同様に、世界三大刀剣職人の一人が作ったとされている。
刀身を用いて炎属性の力を高める力があると同時に、太陽光を吸収して力に変える効果もある。それゆえ、刀身は太陽の炎で鍛えられたと言われる希少な金属で作られている。