第三話 二刀剣士ベイリン
ドワーフの少年「ベイリン」と、彼の刀剣制作の師匠であるエルフの女性「ムラサメ」との出会いは、今から十数年前に遡る。
ドワーフは代々山を住処にする種族で、山に穴を掘っては鉄鉱石や石炭、宝石を掘り出して、それを加工し各地に卸す事を生業としている。ベイリンはそこで鉄鋼石の採掘と、刀剣の開発を行っていた。ドワーフ達が揃って行うコンクールでも賞をいつも獲得しており、彼自身刀剣作りに置いては自分の右に出る者は居ないと思っていた。
しかしある日、彼の一族が暮らす山に一人の職人が訪れた。後に彼の師であり弟子となる、世界三大刀剣職人の一人と謳われるエルフの女性「ムラサメ」である。
「ここで一番良い剣を見せて貰える?」
客としてムラサメを取り次いだ折に、彼女にこう言われたベイリンは、自分の最高傑作と思っている刀を見せた。
「これは…」
ムラサメは刀をまじまじと見ている、これを、見とれていると考えたベイリンは、
「凄いでしょう。俺が作ったんですよ。」
と、言った。すると、ムラサメは顔を上げると、
「正直に言って良い?」
と前置き、ベイリンに言った。
「はっきり言って、私の失敗作以下の出来。」
「はい?」
ベイリンが目を丸くしてこう言うと、
「まあ、貴方には貴方の目指す剣があるのでしょうから、これ以上は何も言いません。」
ムラサメはこう言って、山を後にした。その際、
「参考程度にはなるでしょうし、いつか見学に来てはどうですか?」
自分の工房を設けている場所を書いた紙をベイリンに渡して、去って行った。
その数日後、ベイリンは渡された紙の住所を頼りに、ブリテン国の近くにある山へとやって来た。因みにこの日は、アルトリアの父であるウーサーが、マーリンと出会う切欠となる賊退治任務に出発した日でもあった。
「えっとぉ。」
整備されているのか歩きやすい山道を歩き続けると、やがて小さな工房が見えてきた。
「ここだよな。」
ベイリンは外観を眺めてこう呟くと、玄関と思われる扉を叩いた。すると、
「来たわね。」
と言って、ムラサメが姿を現した。
ムラサメに対しベイリンは、彼女が出てくるや否や、
「弟子にして下さい!!」
と、頼んだ。なぜなら、前に会ったときに自分の刀を馬鹿にされた際、
(だったら、あの人に弟子入りしてその上で見返してやる。)
と、考えたからだ。
一方のムラサメは、ベイリンの考えを分かってか分からないでか、
「私の所は見学者を入れても、弟子は取らない主義だ。」
と言って、断ろうとした。
それに対し、ベイリンはこう言った。
「お願いします!!」
この時、頭を深く下げる行為、簡単に言う所の「土下座」も忘れない。彼にも職人としての誇りもあり、最低限の誇りを守りつつも自分の犠牲にしているのだ。
この行動に思う所があったのか、ムラサメは彼を工房の中に招き入れた。そして、彼の利き腕を縄で固定した。
「あの、これは?」
ベイリンが訊くと、ムラサメは奥の部屋から一本の刀を取って来て、こう言った。
「そうね、いうなれば試験。」
そして、持ってきた刀を抜き放つと、天上目掛けて放り投げた。天上に向かって上昇していく刀は、やがて重力に引かれて落ちてきた。落ちる先はベイリンの腕のある所である。このままでは、ベイリンの腕は刀によって斬られてしまう。しかし回転しながら落下する刀は、ベイリンの腕を斬らずに落ちて行き、床に突き刺さった。
「はぁ。」
顔には出さなかったが、緊張感から解放されたベイリンがため息を付くと、ムラサメはこう呟いた。
「やっぱり、彼なら…」
そして、ベイリンの腕の縄を解きながら彼に言った。
「部屋を用意するわ。荷物があるなら持ってきて。」
弟子を取らないと言いながら、試験と称して運試しを行い、挙句の果てには部屋を用意すると言い出したムラサメに、ベイリンは訊いた。
「あの、あれって何の試験何ですか?」
この問いに、ムラサメはこう答えた。
「貴方が私に弟子入りするに相応しいかの試験よ。」
「運と何が関係あるんですか?」
ムラサメの答えに更に聞き返すと、ムラサメはこう言った。
「これは四代目 妖蛇、妖蛇シリーズの刀に付いては、職人なら知ってるわよね。」
「妖蛇、普通の刀の基準で評価すれば金貨数千枚は下らない出来の刀だって言う奴ですか?」
ベイリンがこう言うと、ムラサメは彼にその妖蛇を渡した。
「……妖刀ですか?」
鞘を掴みながらベイリンがこう言うと、ムラサメはそれを肯定し、
「私が若い頃、ただ刀として強い刀を目指して作ったのがそれだ。その結果、暴力的な妖気を持ってしまって、持っている人の性格を攻撃的にしてしまう上に、触れた者すべてを殺す刀になってしまった。」
と説明すると、試験の意味を説明した。
「貴方の利き腕を目の前にしたこの刀は、この腕は斬るべきでは無いと見逃した。それが、この試験の合格のポイントだ。」
「そうなんですか?」
ベイリンはこう言うと、刀をまじまじと見ながら彼女に言った。
「これ貰って良いですか?」
「妖刀だぞ?それに、貰ってどうする?」
ムラサメが訊くと、ベイリンは笑顔でこう言った。
「勿論使うんですよ。剣として。」
こうして、ベイリンはムラサメの弟子となり、彼女と暮らしながら剣の作り方を学ぶ生活が始まった。基本的にムラサメが彼より優位に立っているが、ただ一つだけ彼が彼女より優位に立てる物がある。それは、剣術である。ムラサメはベイリンを指導する合間を縫っては、彼から剣術を習っている。ベイリン自身幼い頃から剣術を習い、ここに来るより前に免許を皆伝したので、教える事は容易かった。
何故ベイリンが剣を教えているかと言うと、理由はベイリンが来てからしばらく後の日にある、
「俺様は世界最強の剣士になる男。そんな男の刀の手入れをさせてもらえるんだから、ありがたく思え!!」
ある日、ムラサメの元に刀の手入れをして欲しいと頼む男がやって来た。頼むと言っても、その態度は強要に近い。おまけに強面なので、気弱な職人では気おされてしまうだろう。
ムラサメは、彼の持ち込んだ剣を見ながら思った。
(相当滅茶苦茶に使ってるみたいだな。これでは剣が可哀そうだ。)
すると、ベイリンがお茶を汲んでやって来た。出されたお茶を見るや否や、男はこう言った。
「茶だぁ?!酒を持ってこい!!」
これに対しベイリンは、気おされる事無くこう言った。
「未成年と下戸が揃っている為、ここに酒は置いてません。」
どうでもよい事だが、未成年と言うのはベイリンの事で、下戸はムラサメの事である、彼女は酒を一滴も飲めないのだ。一方の男は、顔を真っ赤にして怒ると、
「おい女!!お前は倅に!!」
「息子では無く弟子です。」
「弟子にどんな教育を施してるんだ!!」
と怒鳴り、
「こうなっては、手入れの代金をタダにでもしないと怒りが収まらん!!」
と言った。この言葉に、ベイリンはこう言った。
「じゃあこうしましょう。今から貴方と俺が一対一で剣の勝負をする。ルールはどちらかが降参するまで続けて、アンタが勝ったら今後一生、貴方の刀の手入れをタダでやりますよ。」
「ほう、では俺様が負けたらどうする?」
男は自分が負けるはずは無いと考えているのか、ベイリンに高圧的な態度でこう言った。
「貴方の刀の手入れはしません。そしてここから消え失せ、一生近寄らないで下さい♡」
ベイリンの提案に、男はこう言った。
「面白い、その話に乗った!!」
そして、ベイリン対客の男とで剣の勝負をする事になった。ベイリンの使用する刀は、彼がここに来た際に貰った四代目 妖蛇。対する男は、ムラサメの攻防にある一番の刀を使用する。
「うぉぉぉぉ!!」
戦いが始まるや否や、男は刀を抜いて跳びかかって行った。対するベイリンは、刀を抜くことも構える事も無く、楽な姿勢を保っている。
「貰った!!」
勝利を確信したのか、男は刀を振り下ろした。
「ベイリン!!」
ムラサメがこう呼びかけると同時に、ベイリンは動いた。鞘に入ったままの妖蛇を振るうと、男の持っている刀を弾き飛ばした。弾き飛んだ刀は宙を舞うと、近くに生えている樹の幹に深々と突き刺さった。
刀が幹に突き刺さる所を見るや否や、ベイリンは妖蛇を抜き放ち、男に突きつけた。突きつけるだけで、斬る事はしない。
「ど、どうしたんだ?斬れないのか?」
男は余裕ぶってこう訊くが、声は上擦っている上に、一歩一歩後ずさっている為、誰の目にも怯えているのは見え見えである。
「だって、射程から離れるんだから、斬れる物も斬れない。」
一方のベイリンは、余裕の表情でこう言った。
妖蛇の刃を突き付けられている男は、未知の邪悪なオーラに当てられて、後ずさる以外の行為は出来なくなっていた。今彼の目にベイリンは、死神のように映っている。逃げなければ間違えなく殺されると。男が思うと同時に、ベイリンは言った。
「消え失せろ♡」
その瞬間、男は腰を抜かして座り込んだ。その際、服の股間の部分が濡れていたので、失禁もしたのだろう。
「う、うわぁぁぁぁ!!!」
男は自身の剣を回収する事無く逃げ出し、二度と現れなかった。
この出来事以来、ムラサメはベイリンに頼んだのだ。
「偶にで良いから、剣術を教えて欲しい。」
ムラサメ自身、いざと言う時の護身用としては勿論、刀剣作りの際の参考にしたいと思い、ベイリンに頼み込んだのだ。
それ以来、
「それじゃあ、始めますよ。」
刀剣制作の仕事がひと段落し、剣の練習をすると言う事で、竹刀を構えるベイリンがこう言うと、
「はい、先生。」
同じように竹刀を構えるムラサメが、彼にこう言った。
「あの、先生じゃ無くて普通に呼んでもらえませんか?」
ベイリンはこう言った。
「一応とはいえ、今は貴方が先生何だから。普通の呼び方は先生だろう。」
何が面白いのか、ムラサメは笑顔でこう言った。
(調子狂うな。)
自分が師匠として敬っている人物が、この時だけ自分を先生と呼んでくる為、その事に困ったのも今では良い思い出である。
そして現在、
「あれから十四年か?」
過去を思い出していた現在のベイリンは、こう呟いた。今の彼の腰には妖蛇の他に、弟子入り後の彼が作った刀「自作刀 帯一」がある。
ムラサメは帯一を、
「四分の一人前以下の出来栄え。」
と評しているが、街の武器屋に鑑定してもらった所、
「金貨数百枚の価値がある代物。」
と、言っていた。
ベイリンはムラサメに弟子入りして以来、刀剣作りの腕をめきめきと上げており、今では西の国のドワーフ所か、違う国のドワーフですら肩を並べるのが難しい程になって来ている。
今彼は、皆から預かり磨きなおした包丁を、皆に配っているのだ。
「こんにちわ、エクターさん居ますか!?」
町はずれにある一軒の家にやって来たベイリンは、家の中に声を掛けた。因みにこの家のある場所は、今朝彼が出会ったエンテラドラゴン、アルトリアの家の隣である。
「はーい。」
すると、頭に尖った毛深い耳、腰にフサフサした尾を生やした、獣族の特徴を持つ巨人族聖獣「人狼」の女性が現れた。彼女がベイリンの呼んだ「エクター」と言う名前の女性である。
ベイリンの見た目年齢と同じくらいの娘を持っているのだが、今も若々しい美貌を保っている。ただし、単純な年数で数えれば、ベイリンの方がはるかに年上であるが、
「この間預かった包丁、手入れが終わりました。」
ベイリンはエクターにこう言うと、紙や布でしっかり保護した包丁を持ってきた鞄より取り出し、注意しながらエクターに渡した。
「ありがとう。」
エクターは笑顔でこう言うと、
「それじゃあ、今度はこれの手入れをお願い。」
と言って、ナイフやフォークを取り出した。かなり使い込んでいるのか、光沢は無くなり傷まで生えている。
「分かりました。」
ベイリンはそれを受け取り鞄に仕舞うと、エクターの家を後にした。
これで今日の配達の仕事は終わったので、彼は一旦ムラサメの元に帰る事にした。
ベイリンが山の中に立っている、工房兼自宅となっているムラサメの工房に戻ると、ムラサメは剣の手入れをしていた。
「ただ今戻りました。」
ベイリンがこう言うと、ムラサメは、
「お帰りなさい。」
と、声を掛け、ベイリンの元にやって来ると、彼に数枚の銀貨を手渡した。
「?」
ベイリンは疑問に思った、お小遣いをもらえる日はもっと後の筈だが、何故お金を渡すのか?と、
ムラサメが言うには、今日は一日かけて行う大事な仕事があり、食事は用意していないどころか、食料も底を尽きているらしく。
「今日は街に行って、好きな物を食べて来なさい。」
と、ベイリンに言った。彼女の渡した銀貨は、食事するためのお金である。
「分かりました。」
ベイリンはこう言って、荷物を置いて山を下りて行った。十年近く一緒に暮らしているので、こういう時は大概誰かに邪魔されたくない時だと言う事が、経験から分かっていたからだ。
そして、街に下りたベイリンは、町一番の食堂へとやって来た。席に案内され、何を食べようかとメニューの表と、自分の予算とにらめっこしながら考えていると、今朝少しであるが出会った少年、アルトリアが店に入って来た。また違う席を見ると、同じような経緯で出会った少年、ガウェインもこの店に居り、奇しくも今朝の三人が揃っている。
店に入ったアルトリアは、店の奥にあるカウンター席に座ると、そこのマスターである男性に話しかけた。
「あの、あれから姉の事に付いて情報は有りましたか?」
この問いに、マスターはこう答えた。
「ああ、いろんな人に訊いてはいるが、誰も知らないと言っている。」
その後、
「まったく、折角三人も居ると言うのに、弟一人残して皆で居なくなるなんて身勝手な姉だな。」
と、マスターの男はこう言った。
このやり取りを片耳で聞きながら、ベイリンは思った。
自分の家族は両親と妹の四人構成で、父と自分は鉄鉱石の採掘と加工、母と妹は宝石採掘とその加工を行っている。彼がムラサメに弟子入りを決める際、母と妹は仕事で居なかったために父に相談した。父は最初は心配そうだったが、彼の強い決意を知ると認めてくれた。母と妹には自分から説明しておくと言って、父は笑顔で自分を送り出してくれたが、ある日帰ったら、母には取っては息子、妹にとっては兄が居なくなって驚いたはずである。
父は説明はすると言っており、ちゃんと説明をしてくれただろう。母と妹はそれを受け入れても、内心では自分の事を、自分勝手な奴、と思っているのではないか。
ベイリンがこう考えていると、アルトリアはこう叫んだ。
「姉さん達の事を悪く言わないで!!」
興奮しても居たのか、机を激しく叩いていた。しかし、すぐに我に返ると、
「あ、すいません。」
と、言った。
一方のマスターは、
「いや、私も言い過ぎた。」
と、言うと、
「お姉さんなら大丈夫さ。きっと今もどこかで遊び惚けているんだろう、その内ひょっこり帰って来るさ。」
と、アルトリアに言った。
「そうですよね。」
アルトリアがこう答えると、マスターはこう言った。
「まずはメロンソーダ、後はエビフライのトマトソースパスタで良いよな。」
アルトリアは常連なので、ここに来ると大抵このメニューで済ますのだ。因みにエビフライとは、海で獲れるエビに小麦粉と卵とパン粉の衣を付けて揚げた料理の事では無く、エビの味がするトンボの事である。ただし、食材では無く料理としての「エビフライ」もこの世界には存在する。
アルトリアがそれを肯定しようとすると、
「私のは特盛でお願いします。後お水も下さい。」
長い金髪と不自然にずり上がった服装が特徴の女性がやって来て、アルトリアの隣に座るとマスターにこう言った。
(珍しいな、エルフか。)
女性の耳が異様に尖っているのを見ると、ベイリンはこう思った。彼の師匠であるムラサメもエルフなので、エルフの特徴等はある程度分かっているのだ。
突然やって来て、出された水を一気に飲み干したエルフの女性「マーリン」の姿を見ながら、アルトリアは訊いた。
「武器屋さんには行ったんですか?」
「場所が分からないし、後にする。」
マーリンがこう答えると、マスターがアルトリアに訊いた。
「アルトリアの友達かい?」
この問いに、
「はい。」
と、マーリンは答えたが、
「いいや。」
と、アルトリアは答えた。
「?」
互いの回答が噛み合わない事を、マスターが不思議に思った瞬間である。
「見つけたぞ!!ちょこまか逃げ回りやがって!!」
先ほどマーリンの魔法でボコボコにされた、キュクロプス達がやって来た。
「お客様、店の中ではお静かに。」
マスターがこう言うと、キュクロプスの一人はこう言った。
「うるせえ!!それともマスターもそこのエルフの仲間か?!!」
キュクロプスの指は、マーリンを差している、
ちなみにこの時、どうでも良い事だが、
「すいません、ヒレカツ丼下さい!!」
ベイリンはヒレカツ丼を、
「あ、僕にはアイスクリームを。」
すでに食事を済ませたガウェインは、デザートにアイスを所望していた。
「武器屋行ける時間を使って、どこで何をしてきたんですか?」
アルトリアがマーリンに訊くと、
「ありのままの事を言ってきただけ。」
と、マーリンは答えた。
その結果、ますます怒りが高まったのか、キュクロプスの一人がこう言った。
「まだ言うか!!」
そして、彼女に掴みかかろうとしてきたので、
「ぼ、暴力反対!!」
と言いながら逃げ出した。
「ヒレカツ丼です。」
店のウェイターに出された、大きなヒレカツが載っている丼を見ながら、ベイリンは思った。
(まあ、さっさと食って騒ぎが起こる前に逃げれば良いか)
そして、
「いただきまーす!!」
早速ヒレカツを口にしようとした瞬間である。マーリンを追いかけて走っているキュクロプスの体が彼の前の机に当たり、その衝撃でヒレカツ丼は机の下に落ちてしまった。
「え?」
これにより、ベイリンの食事は消え去った。この時、頭に来ては行けない物が来そうになったが、彼は何とか抑え込んだ。
一方ガウェインは、我は関せずと言う顔でアイスを食べていたが、キュクロプスが彼の机の前に来ると、
「あ、お前はさっきの。」
ガウェインに気が付くと、彼にこう言った。
「さっきは邪魔が入ったが、こっちの話はまだ終わってないんだ!!こんな所でアイス何て食ってる場合か!!」
一方のガウェインは、彼にこう言った。
「ここで走り周れば埃が立つから大人しくして下さい。貴方はナンパのテクより前に、基本的なテーブルマナーを覚えるべきです。っても、行儀良いからモテるなんて理屈無いけど。」
この言葉に、キュクロプスはこう言った。
「さっきから言いたい放題!!失礼にも程がある!!」
しかしガウェインは、再びアイスを食べ始めている。そのため、
「話を聞け!!」
キュクロプスはこう叫んで腕を振った結果、ガウェインの食べているアイスの器を吹っ飛ばしてしまった。器が吹っ飛ぶだけならまだしも、器はヒレカツ丼を食べ損なったベイリンの頭に激突した。
「あ…。」
キュクロプスとガウェインが同時にこう言った瞬間である、今まで何とか抑え込んでいた、ベイリンの頭に来ては行けない何かが、頭に来てしまった。
そのため彼は、机の下に置いていた四代目 妖蛇を足で引っかけてほうり上げ、左手でそれを掴むと、マーリンを追いかけているキュクロプスの一人の前に突き立てた。鞘に入った状態であるが、妖蛇は木の床に突き刺さった。
様子を見ていたマーリンは、アルトリアの元に戻ると、
「何だか、収拾がつかなくなってきたね。」
と、彼に言った。
(誰のせいだ?)
アルトリアは、こう言いたげな表情でマーリンを見た。すると、誰かがマーリンの腕を掴んだ。ベイリン、ガウェイン、どちらにも動きを制限されていないキュクロプスである。しかも、最初にマーリンに目を付けたキュクロプスである。
「やっと捕まえたぜ。」
キュクロプスがこう言うと、アルトリアは本能的に鞘に入ったエクスカリバーを突出し、キュクロプスの手を叩いた。
「っ痛!!」
キュクロプスが手を押えて叫ぶと、アルトリアの姿を見てこう言った。
「そうか、こいつはお前の女か!!」
(だから彼女じゃ無いよ)
剣を構えながら、アルトリアはこう思っていた。
今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気の中、他の客たちが逃げ出していく中、マスターは、
「ちょ、店の中で暴れられたら…」
何とか騒ぎを抑えようとしたが、怒りに燃えるキュクロプスと、殺気立っているドラゴン二人とドワーフは収まる所を知らない。
なので、
「やるのなら表でお願いします!!」
と、言った。
しかし、この一言が何の皮肉か、彼らの戦いのゴングになってしまった。
「おらぁぁぁ!!」
キュクロプスの一人はガウェインに殴りかかるも、ガウェインは軽いフットワークで全て回避している。
「死ねぇ!!」
違うキュクロプスは、近くにあった机を持ち上げて、ベイリンに殴り掛かった。一方のベイリンは右手で鞘に入った帯一を手に取ると、突くことで机を破壊した。
「でりゃぁぁぁ!!」
アルトリアと向かいあっていたキュクロプスは、武器の棍棒で殴りかかろうとした。アルトリアはそれを何とか躱す事が出来たが、その際衝撃でメロンソーダが毀れてしまった。
「僕の…メロンソーダ…。」
「次は外さねえぞ。」
キュクロプスはこう言ったが、アルトリアも鞘に入ったままのエクスカリバーを構えなおすと、
「木端微刃にされる覚悟はあるか?」
と、低い声で相手に訊いた。
それに応じるように、ガウェインも鞘に入ったガラディーンを、ベイリンは右手に帯一、左手に妖蛇を、それぞれ鞘に入った状態で構えた。
「やっちまえ!!」
キュクロプスの一人がこう言うや否や、改めて彼らの大ゲンカが始まった。
その様子を見ながら、マーリンは、
「皆かっこいいな。」
アルトリア、ガウェイン、ベイリンの姿を見ながらこう呟き、
「はあ、明日営業出来るかな?」
マスターは頭を抱えながらこう呟いた。
その後、目立った怪我は無いが全身ボロボロになったアルトリア、ガウェイン、ベイリンは、マーリンと共に海を眺めていた。早い話、追い出されたのだ。
「はあ、店を滅茶苦茶にしてしまった。」
アルトリアは暴れてしまった事を後悔しており、
「ヒレカツ、一口も食ってないのに。」
ほぼ完全なとばっちりで食事を奪われたベイリンはこう呟き、
「僕のアイス…。」
ガウェインもこう言った。
思えば、今朝少しであるが出会い、この後も食事処で出会ったと思えば、同じ相手に大ゲンカを行い、そして今はこうして黄昏ている。その事に気が付いたベイリンは、思わず笑い出してしまった。それに合わせて、ガウェインやアルトリア、マーリンも笑い出すと、
「俺はドワーフのベイリンって言うんだ。」
と、皆に自分の事を紹介した。
「僕はレッドドラゴンのガウェイン。」
ガウェインもこう言うと、
「私はエルフのマーリン。」
マーリンも自己紹介し、
「僕は、エンテラドラゴンのアルトリア。」
最後に、アルトリアも自己紹介した。
これが、後に結成される聖獣騎士団、原点の四人の出会いである。
登場人物紹介
ベイリン (ドワーフ)
年齢 73歳(人間に換算すると14歳)
性別 男
出身地 どこかの鉱山(鉱脈の石が尽きると住処を変えるので、定住の地を持たない)
部族 妖精族
属性 大地、鋼
武器 自作刀 帯一
四代目 妖蛇
得意技 二刀流剣術
趣味 食べ歩き、料理、掃除
家族 父、母、妹(修業中の為別居中)
好きな物 剣を大義や他者の為に使う者
嫌いな物 剣を野心や不義の為に使う者
備考
刀剣の制作に関しては彼が弟子だが、修業の合間を縫ってムラサメに剣術を教えている。(彼女に仕事を頼む者によっては、脅して報酬を踏み倒そうとする者も居るので、護身用にしたいとムラサメから願い出た。)
ブリテンの領内にそびえる山に工房を設ける、世界三大刀剣職人の一人であるエルフの女性「ムラサメ」の弟子をするドワーフ。
短く切った銀髪が特徴で、小柄ながらも全身は鍛えられているので、体は丈夫である。
自身の故郷では鉄鉱石の採掘と、鉄鋼の加工を行っていた。その際、ムラサメに自身の刀を馬鹿にされた事をきっかけに、彼女を見返すためにムラサメに弟子入りする。
幼い頃から護身用に習った剣術の技は洗練されており、二刀流で戦う。
自作刀 帯一
ムラサメに弟子入りしたベイリンが作った刀。戦闘時には利き手である右手で持つ、彼の主力。
ムラサメは自身の基準で判断するため失敗作の一つに数えているが、通常の刀と比べると抜きん出て出来が良く、また扱いやすい。
四代目 妖蛇
ムラサメがベイリンの弟子入りを決める試験で使用し、そのままベイリンの持ち物になった刀。左手で使用する。
若いころのムラサメが「単純に強い剣」を望んで作った刀の四番目。普通の刀として評すれば、時価にして金貨数千枚は下らない出来の代物だが、強い=暴力を体現したような邪悪なオーラを持つ妖刀であるため、ムラサメは失敗作としている。
妖刀故に常に邪悪なオーラを発しており、所有者であれば無くしても在り処が分かる上に、突き付けただけで大抵の相手を怯ませられる。ただし、これを持っていると性格が攻撃的になるので、自身を抑える術を持たない物が持つのはとても危険。